2022年5月16日
独言居士の戯言(第242号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
「社会保障制度改革国民会議」から「全世代型社会保障構築会議」に向けて、少子化問題こそ解決すべき大問題だ
子ども家庭庁設置法案が、5月13日衆議院本会議で与党の賛成多数で可決し参議院へ送付された。おそらく、今国会中には参議院での議決へと進み、いよいよ「こども家庭庁」が発足することとなるのは確実だ。今の日本社会・経済にとって最大の問題は少子化であり、先進国の中では先頭を切って人口減少社会に突入し始めて早くも四半世紀が経とうとしている。人口が減少することによる弊害はあらゆるところに出てきており、グロスの経済成長率を引き下げることを始めとして、何よりも活力のある社会とは程遠い。子ども家庭庁を設置したからと言って、直ちに少子化に歯止めがかかるほど安直なものではなく、今後どのような政策を展開していくのかにかかっている。岸田総理が主張していて、いまだにその全貌が不明確な「新しい資本主義」像の大前提であり、その根本になるものになるのではないかと思うのだが、総理の優先度や熱意はそれ程髙くなっているとは感ぜられない。
少子化問題解決の決め手は「財源」問題だが、参議選後に先送りへ
昨年秋、岸田政権発足により内閣官房に「全世代型社会保障構築会議(会長は清家篤慶応義塾大前学長)」が設置されて早くも半年がたち、今年6月の「骨太方針」にどんな問題を提起していくのか、おそらく事務局段階での答申に向けた原案作りに入っているのだろう。あまり新聞やテレビでも放映されていないせいか、国民の関心も今一つと言えよう。というのも、参議院選挙を直前に控えているため、全世代型の社会保障制度構築に向けて一番肝心の「財源」をどう調達するのか、ほとんど論議らしい論議がないままの状態にある。
民主党野田政権から自民党安倍政権へ、経産官僚主導の政策転換へ
かつて民主党政権が樹立し、野田内閣の下で「社会保障・税一体改革」に向け、消費税率を5%から10%へと引き上げることを議論し、民主党と自民・公明三党の合意ができたことにより、年金財政の安定や医療・介護、さらには子育ても含めて財源に裏打ちされた改革が進み、一定の前進が実現できたという「成果」があったことが懐かしい。三党合意の下で「社会保障制度改革国民会議」(これも清家篤会長)による専門家の答申をうけて実現したわけだが、その直後に自民党総裁となる安倍晋三氏はこの中身の作成には直接タッチしていない。あたかも社会保障・税一体改革という果実を実らせた責任者ではないかと思われているが、むしろ消費税率の引き上げを選挙に有利に進め政治的に利用するなど、安倍政権を背後でコントロールしていた経産省官僚の暗躍によって、その中身にまで部分的修正が加えられてしまったことを見逃すことはできない。
再び社会保障制度改革国民会議時代の主要メンバーでの政策転換へ
今度の「全世代型社会保障構築会議」は、この「社会保障制度改革国民会議」の後を受けて、今まで十分に手を付けてこれなかった現役世代の子育てなど、少子化対策に向けて議論が展開される必要がある。この会議のキーマンである慶應義塾大学の権丈善一教授と並んで、社会保障制度改革国民会議では事務方のエースとして改革を取り仕切っていた元厚生労働省出身の香取照幸上智大学教授がメンバーとして選出され、ここまで全世代型社会保障構築会議の議論を展開されてきた。明らかに潮の流れが変わってきており、安倍政権時代に官邸を牛耳っていた経産官僚から、岸田内閣では大蔵省と厚労省が復権(?)したように思えるのだが、その行方は参議院選挙後に具体的に展開されていくのだろう。
香取照幸上智大教授のインタビュー記事、「こども」が一丁目一番地へ
香取教授は5月5日付毎日新聞「くらしナビ 社会保障」欄で、「支え合いの明日 社会保障を考える」というインタビュー記事に登場している。その中で、今度の会議でのメイン課題として「『一丁目一番地』の課題は子供。二番目は医療・介護の提供体制」を挙げておられる。社会保障と言えば年金や医療・介護という順番だった時代があるが、一番目に「こども」が出ていることに大いに注目すべきだろう。先ほど述べたように、人口減少問題をどう克服していけるのか、まさに香取教授が指摘するように「社会保障制度だけではなく、国全体の施策として一番大事な問題」なのだ。香取教授は雇用の問題や医療・介護の提供体制の改革にも触れておられるが、やはり肝心なのは何といっても「財源問題」である。社会保障財源である以上国民の負担増が必要であるにもかかわらず、残念なことに現在では赤字公債で賄い、そのツケを子供世代に付け回ししていることの問題を厳しく指摘されている。
「こども保険」「消費増税」「子育て連帯基金」、財源問題の行方がカギ
参議院選挙前には前面に出てこなかった負担の論議は、選挙後には全面展開されるに違いない。その際、自民党内の一部に出ていた「こども保険」という新しい社会保険制度をつくるのか、消費税率の引き上げになるのか、それとも、権丈教授がかつて提起された年金や医療、更には介護といった社会保険制度の財源の中から一定割合を拠出する「子育て連帯支援基金」をつくるのか、それが次のメイン課題に浮上してくることは間違いない。参議院選挙が終わって岸田政権が衆参で安定した議席を確保できれば(今のままでは7月参議選で与党勝利は確実だろう)、3年間は国政選挙のない期間が出来上がる。「全世代型社会保障構築会議」は、参議院選挙後から、国民にどのような形で負担論議を求めていくのか、論議を始めて欲しい。選挙後には、先ほど指摘した3つの方向性のうちどれが一番良い選択なのか、がやがて明らかになっていくのだろう。
財源(負担)問題で「世代間対立」ではなく、「国民全体」で支え合いたい
毎日新聞の5月13日電子版のインタビュー記事において、室橋裕貴日本若者協議会代表理事は、この「全世代型社会保障構築会議」について、若者の立場から見てあまり新しい施策はないと感じておられ、「現役世代の負担をどう減らし、高齢者への負担をどう求めていくか、そこを議論すべきだ」と述べ、どちらかと言えば国民全体が負担していくよりも、世代間の対立をあおりかねないようなインタビュー記事になっているように感ぜられる。今求められているのは、世代間の対立ではなく、どう国民の全体で負担をしていくべきなのか、そうしたなかで格差社会を是正していくための施策の充実を求めていくべきだと思うのだが、どうだろう。若者たちは、今は支えての側に回っているが、やがては高齢化し支えられる側になるわけで、中長期的な視野に立って考えるべきだと思う。もちろん、赤字国債を出してツケを後の世代に回していることは、大問題であり是正していくべきことは言うまでもない。
ちなみに、インタビューアーは二つの記事いずれも、神足俊輔、石田奈津子両氏であった。毎日新聞は引き続き、財源問題も含めてこの問題を追及し続けて欲しい。この問題こそ、これからの日本の行方を左右すると言っても過言ではない最重要問題になることは必至だと思う。