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労福協 活動レポート

2022年5月23日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第243号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

ウクライナ侵攻を予測したミヤシャイマー教授、リベラルを批判へ

ウクライナ侵攻から3か月近く経過しようとしている。プーチン大統領の思惑どおりには事態は進んでいないと報道されているが、ウクライナの人々の受けた被害は甚大なものがあり、事態をどう収束させていけるのか、なかなかその見通しが立てられないところに今の混迷した状況がある。

今回のロシアによるウクライナ侵攻を予言していた一人の政治学者が注目を浴びている。アメリカシカゴ大学の政治学者ミヤシャイマー教授で、今年2月のロシア軍の侵攻した9日前に侵攻することをSNSで予測して見事に的中させ、一躍世界的に注目されている。ミヤシャイマー教授は、なんと2014年にロシアがクリミヤを併合した直後、「悪いのはロシアではなく欧米だ——プーチンを挑発した欧米のリベラルな幻想」という論文を『フォーリンアフェアーズ』2014年9月号に執筆している。9日前どころか何と8年も前に、今の事態を予側しておられるわけで、ロシアや中国などを利するものだという批判が渦巻くものの、その洞察力は当然高く評価されてしかるべきものだろう。

透徹したリアリズムに立脚した「攻撃的現実主義」で国際政治分析

ミヤシャイマー教授は、この8年前の「フォーリンアフェアーズ論文」の冒頭で次のように述べている。

「ロシアの高官たちはワシントンに対してこれまで何度も、グルジアやウクライナを反ロシアの国に作り替えることも、NATOを東方へと拡大させるのも受け入れられないと伝えてきたし、ロシアが本気であることは2008年にロシア・グルジア戦争で立証されていた。結局のところ、米ロは異なるプレーブックを用いている。プーチンと彼の同胞たちがリアリストの分析に即して考え、行動しているのに対して、欧米の指導者たちは、国際政治に関するリベラルなビジョンを前提に考え、行動している。その結果、アメリカとその同盟諸国は無意識のうちに相手を挑発し、ウクライナにおける大きな危機を招き入れてしまった。状況を打開するには、アメリカと同盟諸国は先ず『グルジアとウクライナをNATO拡大策から除外する』と明言する必要がある」

『フォーリンアフェアーズ』2014年9月号論文でプーチンのウクライナ侵攻を予測へ

今から8年も前に今のロシアのウクライナ侵攻という事態の可能性を見抜き、ウクライナとジョージアのNATO加盟はさせないという欧米の国々の方針こそが求められている、と述べている。アメリカの政治学者であり軍出身者でもあるミヤシャイマー教授の分析と方針は、今月号の『文芸春秋』の論文「この戦争の最大の勝者は中国だ」で述べておられることとも一貫している。ミヤシャイマー教授は「透徹したリアリズムに基づき大国間のせめぎ合いを分析・予見する『攻撃的現実主義』の第一人者」と言われ、リベラルな原則として「法の支配、経済相互依存、民主主義」を基盤にしたヨーロッパの統合と自由を維持していこうとする人たちに対して、真っ向から批判を展開している。

先に引用した「フォーリンアフェアーズ論文」の中での次の批判は、今の現実を見事に予言しているようで、何度も強調して恐縮だが見事というほかはない。

「この壮大な(リベラリズムによる‥峰崎挿入)ビジョンとスキームはウクライナで大きな挫折に直面した。ウクライナの危機は、国際政治では依然としてリアリズムが重要であり、それを無視すれば大きなリスクに直面することを物語っている。アメリカとヨーロッパは、ロシアと国境を接するウクライナを欧米圏に組み込もうと試み、大きな失敗を犯してしまった。その帰結はいまやはっきりとしており、今後も現在の間違った政策を続ければ、さらに深刻な結末に直面することになる」

プーチンの核兵器使用もありうるとミヤシャイマー教授は予測へ

「さらに深刻な結末」が、今眼前に展開するロシアのウクライナへの侵攻という戦争である。ミヤシャイマー教授は、このままロシアが戦争状態を継続しても展望が開けず「敗北」に至るようになれば、核兵器の使用も辞さないだろうと予測されている。まさに、人類は「核戦争の脅威」の下にあることを知るべきなのだろう。国際政治について素人である小生が、国際政治におけるリベラルと「攻撃的現実主義」の違いの是非を論評する資格も能力も持ち合わせていないが、それにしても、こうした分析を無視することはできないと思う今日この頃ではある。

和田春樹名誉教授らと若手専門家たちのウクライナ侵攻での論戦

もうひとつの論戦として取り上げたいのは、毎日新聞電子版(5月18日)に掲載された「長老たち『ロシアの言い分聞くべき』 若手専門家が猛反発」という記事である。ロシアのウクライナ侵攻という事態に直面した日本で、ロシアなど歴史研究を進めてこられた和田春樹東大名誉教授ら14名が、『ウクライナ戦争を1日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか』と題された声明を公表され、「日本、中国、インドの3カ国がロシアとウクライナに対して戦闘停止を呼びかけ、停戦交渉を仲介すべきだ」と解決に向けた提案も行っている。最初に読んだとき、率直に言ってやや焦点がずれているのかな、と思ったりしていたのだが、ミヤシャイマー論文などを読むにつれ、こうした提案も一つの考え方ではないか、と思うようになっていた。

これに対して、若手の研究者たちは猛然と批判の立場を明らかにしたとのこと、いわく「ロシアの侵攻は国際法違反であり、ウクライナが自衛のために武力を行使するのは正当だ」という立場である。この記事の中では若手の代表として福田充日大教授の意見を取り上げ、和田教授らの主張と対比させて論点の整理を進めている。

和田名誉教授はロシアが攻め込むに至る歴史・背景に注目、福田充日大教授、
人権尊重や民主主義の価値観の重視を強調へ

和田教授は「若い世代は、ロシアが攻め込むに至った歴史を考えないのです。今回の戦争はウクライナが聖人君子で、突然ロシアが攻め込んできたというわけではない」と主張され、世界をロシアのような「専制主義」と米国のような「民主主義」との戦いに2分した捉え方をすべきではないと主張されている。

これに対して福田教授は「歴史的背景の重要性」をもちろん否定しているわけではないが、今進められいるロシアの軍事的侵攻のもたらす戦争犯罪に厳しく対処すべきことを主張されている。この記事を書いた毎日新聞の金森崇之記者は、双方の「妥協点」を見出すことは困難だと述べ、基本的な考え方に隔たりがあることを次のように指摘する。

「福田教授は『最後は自分たちが理想とする社会とは何かというイデオロギーのぶつかり合いです』と総括する。和田氏は『世界を専制主義と民主主義の闘いとすべきではない』と持論を述べたが、福田教授は人権尊重や民主主義の価値観を重んじる。」

福田教授らの立脚するリベラルな立場、どれだけ「歴史と記憶」に耐えられる深みのあるものなのか

もちろん、ミヤシャイマー教授の「攻撃的現実主義」と和田教授らの立場は全く違うのだが、福田充教授らの提起しているのはリベラリズムなのであり、背景にある『歴史と記憶』の問題をどの程度意識されてたいるのか、私自身は和田教授らの指摘の方に親近感を感じてしまう。個人的には、リベラリズムの立場がもっと現実の政治において影響力を持つべきだと思うのだが、それにはリアルな歴史的背景を踏まえた現実主義をも包み込めるだけの「深みのあるリベラリズム(持続可能性と実現可能性を備えた)」が今求められているように思われて仕方がない。この点は、日本のリベラルと自称する政党・政治家の欠点とも重なっているのではないだろうか。

ロシアとアメリカの狭間でリアルな国際政治を展開したメルケル前ドイツ首相、
国内政治でも柔軟なリアリズムへ

アンゲラ・メルケル前ドイツ首相の評伝を読んで、メルケル氏が16年間も宰相の地位にとどまることができたのは、CDUのイデオロギーにこだわることなく社会民主党や緑の党の打ち出してきた政策の中で、国民が求めている物は取り入れていくという柔軟性に裏打ちされていたのではないかと思えてならない。それは、自分たちの政党の理念や政策は、絶えず現実に直面する課題との葛藤の中で進化し続けていく必要があるからなのだろう。もしメルケルであれば、今回のウクライナ問題にどう対処してきただろうか、という思いが今頭の中をよぎる。2014年のクリミヤ侵攻後の粘り強いプーチン大統領との27回にもわたる交渉を進める中で「ミンスク合意」を取り付けた責任者だが、彼女がクリントンやブッシュ時代においても「ウクライナのNATO加盟に否定的」だったことは、ロシアという大国との攻防の最前線でのリアルな現実をどう解決していくべきなのか、底の浅い安直なアメリカ流のリベラリズムでは乗り越えられないなかでの率直な思いだったのだろう。

日本の政治、米中覇権争いの中でどう対応すべきか、林外相に期待

これから、中国の覇権主義との闘いが控えているだけに、日本の立ち位置は非常に重要となる。ミヤシャイマー教授の提起を乗り越えることのできるリベラルな国際政治をどう作り上げていけるのか、岸田総理というよりも次を狙う林芳正外務大臣の出番ではないかと思えてならない。大平総理に倣って、知的ブレーンを結集して何とか存在感を高めて欲しい。


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