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労福協 活動レポート

2022年6月6日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第245号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

人口減少スピードの高まる日本、最大の難問が少子化だ

少子高齢社会日本の人口減少スピードがこれまでの予測より早くなったようで、2021年の合計特殊出生率が1.30と一年で0.03低下したことが4日朝刊各紙で大きく報じられている。従来の国の中位数予測よりも6年近く早く1.3に近づいたとのことで、超高齢社会に突入し2042年が高齢化のピークと言われてきた前提が、少しく早まりそうである。どう少子化の流れを食い止めることができるのか、日本社会の抱えている最大の難問題であると言っても過言ではない。少子化に歯止めがかからず、ますます悪い方向へと進んでいることに強い危機感を覚える。

デービッド・アトキンソン氏、生産年齢人口の減少こそ最大の問題

ちょうど3付日本経済新聞のオピニオン欄に、何時も注目しているフィナンシャルタイムス紙のマーティン・ウルフチーフコメンテーターの「迫るスタグフレーション」という論文と並んで、これまた日本の1990年代のバブル崩壊以降の経済分析を進めてこられたデービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長の、『エコノミスト360°視点』で書かれた「日本の病は『供給過剰』にあり」というコラムが目に飛び込んできた。

アトキンソン氏は、単なる人口減少一般ではなく、生産年齢人口がピークの95年から20年までの25年間で、1271万人も減少してきたこと、これまでは女性や高齢者の労働参加率を高めて対応してきたが、すでに労働参加率では世界最高水準に達していて、もはやそうした方法での対処は限界だと指摘する。そのうえで、次のように問題を指摘へ、

「生産年齢人口が減るのがまずいのは、労働力が減るからではない。消費が活発な層が減るからだ。(中略) 消費を活発に行う層が減れば、商品を買う頭数が減る。一部の業種を除いて、経済全般は慢性的な供給過剰状況に陥ることを意味する。これこそが、日本経済が抱える真の問題だ」

「需要不足」が問題ではなく「供給過剰」こそが日本の病なのか?

一部に言われている「需要不足」ではないことは、お金がないことに問題があるわけではないと主張される。さらに、緊縮財政に原因を求め消費税の廃止を求める意見について、低所得層には廃止分は使える余裕ができても低所得層であることには何も変わりはない。積極財政を期待することに対しても、政府支出を増やせば経済成長するというのは因果関係が逆で、慢性的な供給過剰を財政で埋めることは不可能だとばっさり否定。

解決策はイノベーション、新商品開発、新需要発掘、積極財政支援

さらに現代貨幣理論(MMT)に基づいて経済が伸びるまで国債発行して需要を増やすべきだとの主張に対して、政府が増やした需要に対してイノベーションがなければ自動的に供給が増えないで内部留保が増えるだけ(?)と、これまた厳しく論難される。結局、真の解決策はイノベーションに尽きるとされ、新しい商品を開発し、新しい需要を発掘する、それを積極財政で支えるべきことを主張し、岸田内閣の「新しい資本主義」や根拠なき積極財政という絵空事ばかりが議論されており、参議院選挙を前にした与野党の経済政策に対して厳しく批判を展開しておられる。このコラムを読んで、財政支出の増加によって成長を作り出すことは困難であることは理解しつつも、イノベーションを作り出すのは民間のアニマルスピリットなのであり、果たして財政の出番があるのかどうかやや理解し難い。

「供給過剰」とは旺盛な消費の落ち込みで「需要不足」ではないのか

ともあれ、なんとなく理解はできたのだが、「供給過剰」というのは、裏を返せば旺盛な消費の落ち込みという「需要不足」なのではないか。資本主義社会は一次分配で格差の拡大を解消できず、政府による所得再分配政策としての税や社会保障政策の出番が必要になってくるのだと思うが、そのあたりへの言及はないだけに、もう一つしっくりと理解するにはモヤモヤとしたものを感じていた。

権丈教授、需要サイドから社会保障の持つ所得再分配機能の重視へ、
「全世代型社会保障構築会議」での論点提起に注目!

こうした経済政策の問題について、需要サイドから社会保障の持つ再分配政策を一貫して重視してこられた権丈善一慶応義塾大学教授が、岸田内閣の下に設置された「全世代型社会保障構築会議」において、社会保障と経済成長との関係について、次のように指摘されている。権丈教授は、これまでの社会保障国民会議や社会保障制度改革国民会議などに参加され、社会保障政策と経済成長との関係について一貫した主張を繰り広げてこられたことに注目してきただけに、少し長くなるが公開された議事録から引用しておきたい、

「社会保障はニーズに見合った給付を行うための効率化を図る必要がありますけれども、 ニーズに見合っているのであれば、いわゆるワイズスペンディングの主役になり得るものです。第1回の会議で、人を見ると消費者に見えると話しましたが、人が労働力ではなく消費者に見えるというのは、経済成長にとって消費こそが重要であり、人は消費者として、 他人の生産を刺激することにより成長に貢献するものだと見ているからです。
  
例えば、毎年のGDPは供給と需要のどちらか小さいほうで決まります。今の時代、大方の人たちはGDPを決めるのは需要の規模ではないかと考えているのではないか。そうだとすると、成長戦略は需要を育てることになり、人は消費者としてこそ成長に貢献することになる。

その観点から見ると、購買力を日本中に分配して、消費のフロアを底上げしている社会保障というのは、十分に成長戦略としての経済政策になります。資本主義はある程度成長してくると、消費は飽和してきて、過少消費に陥ります。皆さんも、どうしても月賦で買いたいというのはなかなか思いつかないと思います。

過少消費の状態に入った経済への処方箋は、貯蓄を減らして消費を増やすことであって、 消費が飽和していない人や、領域や、地域に所得を再分配することにより、消費の中心的な担い手としての中間層を厚くしていくことになります。

経済政策として大規模にそれをやっているのは社会保障で、成長率が極大化するように 所得を最適な形で分配するのを資本主義というのは苦手としていますので、どうしても資本主義は社会保障に頼らざるを得なくなります。OECDも、分配の不平等が成長を阻害すると報告しています。分配の不平等の改善を図っているのは社会保障ぐらいで、人々の将来不安を緩和して、現在の消費を促す役割を果たすことができるのも社会保障です。

本日の資料にある社会保障の幾つもの改革案は、いずれもジニ係数を改善する再分配政策で、特にこの構築会議のメイントピックとなる非典型労働者が抱える問題の解決、住まいの保障をはじめとした地域共生社会の構築は、再分配を行いながら国民の生活不安、将来不安を緩和する政策であるため、これらが実現できれば、経済成長にとってはプラスに働く可能性があります。

逆に、成長のためには生産力の増強が必要であって、人を見たら労働力と見えてしまう 風潮が高まると、昨年出版された『「現代優生学」の脅威』でも挙げられていたように、 津久井やまゆり園のような事件が起こります。つまり、人を生産的であるかどうかで、役に立つ、役に立たないと評価する風潮が高まったりします。

もちろん社会保障には、ニーズに見合う給付を行うために効率化を図るという大きな課題を抱えているのですが、その一方で、人を見たら労働力というよりも消費者に見えるように国民経済を捉え、社会保障を成長戦略としてのワイズスペンディングとみなすことができるという観点があることも一応話しておきます」(「第3回全世代型社会保障構築会議」議事録13-14ページより)

高度な経済は消費の飽和した過少消費状態へ、
飽和できない人・領域・地域に所得再分配で「中間層の厚み」形成へ

少し長い引用になったが、アトキンソン氏の提起が「供給過剰」だったことに対して、権丈教授は高度に経済が成長すると消費が飽和した過少消費状態になり、「消費が飽和していない人や、領域や、地域に所得を再分配することにより、消費の中心的な担い手としての中間層を厚くしていくことになります」と、「供給過剰」の解消に向けた社会保障政策である「所得再分配政策」の果たす役割に言及されている。もちろん、税や社会保険料を国民が応能負担して再分配していくという前提があることは言うまでもないし、そのあたりは、第4回の全世代型社会保障構築会議の中では、次のように論じられている。

「過去、ものが見えている経済学者というのは、分配の平等は消費が増えて、人への投資も増えるので、成長を促すと考えていました。中間整理にある政策を、能力に応じて支える方針に基づいて進めていくと、格差が緩和されて、分配の平等化が進んでジニ 係数は小さくなります。この国の成長戦略として真っ先にとるべき政策だったと思います。 成長を促すワイズスペンディングとして、中間整理の方向で社会保障改革を進めていただ ければと思います」(第4回会議での発言より)

加えて新たに需要を創出するプロダクト・イノベーションが経済成長で果たす役割の重要性についても『ちょっと気になる政策思想 第2版』や高齢者は経済の宝、社会保障で地方創生は可能 | 政策 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)などにおいて指摘されてきていることを付言しておきたい。何よりも、全世代型社会保障構築会議が少子化社会をどう克服していけるのか、中長期の議論を展開している中での問題点の提起だったことに注目したい。

日本経済、先進国共通の悩み「インフレ」から蚊帳の外という現実

日本経済の停滞とは対照的に、アメリカやEUの経済は40年ぶりの高いインフレが進み、このままインフレ抑制策に転換していけばスタグフレーションになる危険性を冒頭触れたマーチン・ウルフ氏は指摘している。スタグフレーションにならないためには、かつてのポール・ボルカー氏が議長として辣腕を振るった強力なインフレ抑制政策を、FRBは断乎進めるべきことを強調している。だが、私は日本だけがインフレ抑制論議から蚊帳の外になっている現実こそ気になって仕方がない。日本経済は、既に先進国の仲間から外れかかっているのではないか、世界的な危機において、「危機なら円高」ではなく「円安」が進んでいるわけで、そんな思いが募る今日この頃ではある。


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