2022年6月27日
独言居士の戯言(第248号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
参議院選挙の序盤戦情勢、自公で過半数の勢いは予想通りの展開
22日に公示された参議院選挙がスタートを切った。序盤の情勢について朝日新聞や共同通信の世論調査が報道されていたが、いずれも自公で改選議席が過半数を超す勢いのようだ。勝敗を左右する1人区32議席は、一部の県を除いて自民党(与党)が勝利する見込みで、野党側は統一候補を前回並みに擁立できなかったことが響いていることは間違いない。政権の地位を揺るがすような地殻変動は起きなければ、今回マスコミの一つの焦点になりそうなのは立憲民主党(以下立憲と略)と日本維新の会(以下維新と略)による野党第1党の座をめぐる争いである。もちろん選挙区での戦いで、維新は大阪を中心にした関西圏での優位を誇っているものの、あとは東京や神奈川、愛知といった大都市部での勝敗に望みを託していて全国的な地盤があるわけではなく、トータルでの争いではまだ立憲には及ばないだろう。
焦点が比例区での野党第1党争い、維新が立憲をリードするのか
一番の焦点は比例区での立憲と維新の野党第一党争いである。どちらの世論調査を見ても激しく野党第一党争いを展開しており、残された2週間余りの選挙戦で決着がつくのだろう。昨年の総選挙で見せた維新躍進の勢いがどの程度持続できているのか、退潮しつつある立憲がどう踏みとどまれるのか、当面の焦点ではある。毎日新聞と共同で調査をしている社会調査研究センターの時系列を追った支持率調査では、過去半年間では立憲よりも維新の方が高くなってきている。両党の支持層を見ると、立憲は高年齢層で高く、維新は比較的働き盛りの支持が高くなっているようで、立憲の今後の政党としての在り方を問われる事態になるのかどうか、指導部の鼎の軽重を問われることになるのだと思う。なぜ若者層に支持が広がらないのか、よくよく考えるべきことの一つだろう。
今度の参議院選挙ではそれにしても、盛り上がりに欠け投票率が50%を切るのではないかと心配される。なんとかあと2週間、民主主義にとって重要な国政選挙だけに多くの国民の投票への参加を求めたいものだ。
コロナ禍の鎮静で物価問題が争点に浮上、5月も2.1%上昇へ
政策面では物価問題が焦点に浮かび上がりつつあり、朝日新聞の世論調査結果を見ると「政府の物価高対応」について「評価せず」と答えた比率が60%、「評価する」は23%でしかなく、これまで国民の生活に大きな影響をもたらしていたコロナ禍が落ち着き始めたせいか、焦点はすっかり「物価」問題に移ってきたように見える。公示から2日後の24日には5月の消費者物価指数が公表され、4月に続いて対前年同月比で2.1%の上昇となり横ばいであった。生鮮食料品と石油をはじめとするエネルギー価格の上昇が大きく、それらを除いたコアコアと呼ばれる物価上昇率は0.8%とこれまでどおり落ち着いているようだ。6月の消費者物価指数の公表は7月22日になるわけで、かつての狂乱インフレのような状況とは程遠いし、アメリカやEUのように8%を超すような高インフレにまでは至っていない。
野党側は消費税引下げや手当給付、与党側は業界支援の大判振舞い
野党側がこの物価高に対して、消費税の5%引き下げやインフレ手当10万円の支給といった放漫財政に近い政策を対置しているわけだが、それほど国民にインパクトがあるとは思えない。これまでの定額給付金支給の経験からすれば、その多くが貯蓄に回されリスクに備えることになるのではないかと想定される。とはいえ、与党側の供給者側への支援措置にも同じような問題を抱えているわけで、与野党の財源問題に対する驚くべき脳天気さ・無責任さに、ただただ驚くばかりでしかない。
問題はアベノミクスによる円安低下、金融財政政策の見直しこそ
むしろ追及していくべきはアベノミクスによる円安が進展し、特にアメリカFRBの金利の引き上げが急ピッチで進んだことにより、日本の長期金利0-0.25%との金利差が大きく拡大し始めたことに注目していくべきだろう。アベノミクスに対抗して「新しい資本主義」を打ち出したはずの岸田政権に対して、その変節ぶりをしっかりと国民に訴え、アベノミクスにより進んだ「円安」が、世界的な供給不足となっている石油や食料品の価格上昇を加速させていることを強く問題視していくべきだろう。
田日銀総裁は、かつては「円安」については日本経済にとっては良いことだと肯定的な評価だったが、さすがに政策決定会合ではその文言は消え「為替の動向には注目していく必要がある」とそのポジションを変えてはいる。だが、円安を招いている金融政策については何の変更もなく、これまで通りの長期金利を0~0.25%以下に抑え込むイールドカーブコントロール政策を取り続けている。そのために、10年物長期国債の指値オペとして0.25%以下で買い取り続けているのだが、時に0.25%を超す水準になる10年国債も出始めるなど、何時までこうした低金利政策を取り続けていけるのか専門家の間でも疑問の声が出始めている。
岸田総理の変質を強行する安倍元総理の暗躍、唖然とさせられる
一番この問題に神経を使っているのは岸田総理や黒田総裁であることは当然のことだが、安倍元総理が自民党内の積極財政派の拠点となっている「自民党財政政策検討本部」に最高顧問の立場で出席して、政府の財政支出は結果として日銀が買い取れば問題はないというMMT派の主張などを前面に出しているわけで、岸田総理直轄の「財政健全化推進本部」の出す方向と大きく異なってしまうのではないかと思ってきた。
軽部謙介教授、安倍元総理の動きを厳しくウオッチされている
ところが最新の『週刊東洋経済』(7月2日号)の「フォーカス政治」という定番のコラムで、帝京大学軽部謙介教授の書かれた「そこのけ、そこのけ積極財政派が通る」(「日銀は政府の子会社」と述べた安倍元首相はその後も絶好調。財政・金融政策の根元が揺らぐ)のなかで、この2つの本部がまとめる案は、事前にすり合わせることで合意ができているとのこと。さらに関係者の話として、元総理は健全化推進本部のドラフトの数十ヵ所に「ダメ出し」をしてきたとのことで、具体的には次のような改正を求めてきたとのことだ。
「財政出動の質を重視するべきだとの記述は削除されたし、アベノミクスの成果がことさらに強調されたのだそうだ。また『債務残高が増え過ぎないように』という記述は『債務残高対GDP(国内総生産)比が増え過ぎないように』に修正された」とのことだ。
これ以外にも安倍元総理の言動が、「統合政府という考え方の下、日銀は子会社だ」を始め、日に日にエスカレートしている姿が強まっており、軽部教授も「財政ファイナンスとの批判が強い論調」をこうも堂々と主張されることに対して、厳しい批判の論陣を張っておられる。
(https://dcl.toyokeizai.net/ap/naviContents/contentsViewInit/toyo/2022070200/-1)
野党側はアベノミクスの問題こそ選挙戦で厳しく追及すべきでは
野党側は、このアベノミクスにたいして選挙戦を通じて堂々と批判をしていくべきであり、「骨太方針2022」の中で岸田総理は元祖アベノミクスの象徴ともいえる「三本の矢」を実践していくことを堂々と明言したこと忘れてはなるまい。さらに、安倍元総理らはゼロ金利政策を変えていくためには2%の消費者物価上昇ではなく、先ほど見たエネルギーや生鮮食料品を除いたコアコア指数に切り替えるべきだとも主張し始めたとのことだ。つまり、放漫財政を継続していかなければ日本経済・財政が立ち行かなくなることを恐れ始めてきたのではないだろうか。
国民の生活を第一に考えたとき、日銀の異次元の金融緩和政策をどのように正常化していくべきなのか、そのことは同時に日本の危機的な財政をどのように中長期的に安定化していけるのか、アベノミクスのしっかりとした総括こそ参議院選挙の最大の争点にすべき点ではないだろうか。でも、残念ながら無いものねだりになりつつあるのかもしれない。肝心の岸田総理は、安倍元総理に堂々と対抗できずに自らの主張を取り下げているし、野党側にもその迫力は乏しい。どうしたらよいのだろうか、よりましな政治を追い求めるしか今はないのだろう。