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労福協 活動レポート

2022年8月1日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第253号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

インフレが続くアメリカ、FRBは予想通り0.75%金利引き上げへ

最初にお詫びしなければならないのは、前号でヨーロッパ中央銀行(ECB)の金利の引き上げが0.25%としたことであり、正確には0.5%の引き上げだったことだ。その後アメリカの中央銀行FRBは予定通り0.75%の引き上げとなり、その結果アメリカは過去4回の利上げで2.25%~2.5%へと政策金利引き上げたわけだが、今後の金利引き上げがどう展開していくのか、パウエル議長は明言を避けたようだ。一方でアメリカ経済のGDPの伸び率が2期連続のマイナスに転ずるなど景気の行く末に対する不安も増加し始めており、議長が8月末恒例のジャクソンホール会議にどんな発言をするのか、目が離せなくなっている。

日米金利差拡大は中長期的には円安で物価上昇をもたらすことへ

ということで、7月末の0.75%の引き上げによって日米金利差が更に拡大し、1ドル140円台に向けて円安が進むとみていたのだが、市場では一気に132円台へと円が急騰する事態となっている。これからどう展開していくのか、なかなか予想することが難しくなっているわけだが、パウエルFRB議長やラガルドECB総裁はインフレ対策を何よりも優先していくことを明言しており、基調としては日銀の黒田総裁が退任する来年4月頃までは日米金利格差はより一層拡大し、一時的な乱高下があったとしても基調としては円安が進展していくのだろう。

吉崎達彦双日総研チーフエコノミストの論文「異常な日本はいつまで経っても賃上げできない」に注目

こうした世界経済の動きを見ながら、注目したのが吉崎達彦双日総合研究所チーフエコノミストの『東洋経済オンライン』の最新の論文「異常な日本はいつまで経っても賃上げできない」であり、7月26日に公表されたIMFのWEO(世界経済見通し)を引用しつつ、これから来年にかけての経済見通しが急速に悪化し始めているとのことだ。吉崎氏は①新型コロナウイルス②40年ぶりのインフレの拡大③FRBの金融引き締め④ウクライナ戦争は終息が見通せず⑤対ロシア制裁は効果が上がっていない、という5点を「恐怖の5段活用」とよび、それは今後の世界に暗雲をもたらしていくことを予想されている。日本ではウクライナの戦争から遠く離れている事やインフレの脅威が実感できないこともあり、すんなりとは納得できないのだが、世界経済は間違いなくこれから確実に失速していくのだろう。やや半世紀前のスタグフレーションという言葉が頭をよぎってしまう。

「労働者を守ったアメリカ、企業を守った日本」という指摘に納得

興味深かったのは、コロナ禍の下でアメリカ労働者の賃金が上昇しているのに、日本の労働者の賃金は全くと言っていいほど上がらないのは何故なのか、という点についての吉崎氏の分析である。結論から言えば、「労働者を守ったアメリカ、企業を守りすぎた日本」ということだとみている。コロナ禍でアメリカの失業率が大きく上昇した際、政府は労働者に対する大判振る舞いと言っても過言ではない失業給付と手厚い給付金(所得階層別に支給額を変えていることに注意)を投入し、労働者が少しでも不満があれば辞めていくという状態へと転換し、経営側は労働者を引き留めるために賃上げを進めざるを得なくなったわけで、結果として労働市場がリシャッフルされアメリカ経済の生産性を高めたとみておられる。

日本の労働市場を流動化することで上手くゆくのだろうか?

これに対してわが日本では、雇用は雇用調整助成金や「ゼロゼロ融資」等によって人工的に嵩上げされたわけで、経営基盤がぜい弱な企業が多く生き残ってしまい、いくら政府が賃上げを要請したところで企業側は無い袖は振れず、日本企業と働き手は依然と同じ仕事を愚直にやっているだけだ、と見ておられる。総じて、日本のエコノミストの多くの方達は、日本的な雇用維持政策が企業の活力を弱めており、雇用の規制緩和をできやすくすると同時に、政府の失業期間の生活と仕事を転換するための職業訓練を充実させていくことで労働移動がやり易くなるシステムへの転換を求める意見が強い。

かつてのスウェーデンの「レーン・メードナーモデル」を念頭に置いた議論なのだろうが、新しい将来性のある仕事への転換がそれほど簡単に進むとは思えないわけで、機械的な労働市場の流動化だけで本当に労働者の生活と権利が守られていくのか、なかなか疑問は尽きない点である。何といっても、小泉内閣時代の雇用の規制緩和で非正規労働者が急増し、労働者の生活と権利が大きく低下させられたことを忘れることはできない。とはいえ、日本のコロナ禍対策が企業を守ることを優先し、労働者を守ることは二の次になった事は確かであろう。

『論座』(7月27日付)での翁邦雄氏のインタビュー記事にも注目

先週は経済論壇での貴重な論文に接する機会が多かった。朝日新聞のインターネット誌『論座』(7月27日)で元日銀金融研究所長翁邦雄氏に対する朝日新聞編集委員原真人氏のインタビュー記事に注目した。題して「インフレ目標も成長戦略も達成できず、野放図な財政拡大を招いた『異次元緩和』」である。この中で、翁氏が論争したリフレ派の論理、すなわち「デフレもインフレも貨幣現象だから金融政策で解決が可能」という幻想が破綻していること、結果的に財政ファイナンスとなって「財政規律」を弛緩させ、日銀の出口戦略に大きな問題をもたらすことを明言されている。また、最近の円安問題について、円高を阻止するために円を売ってドルを買うことはほぼ無制限にできるが、円安を阻止するためにドルを売って円を買い入れるわけで、ドルという外貨保有という制約もあり無制限にはできず投機筋から見透かされていると強調。さらに、国債の暴落からハイパーインフレの危険性について、円の暴落やそれが引き金となった高率インフレの危険性に言及、あり得ない話ではないと明言される。

アベノミクスによって肝心の成長力は低下し財政破綻の危険増大へ

最後にアベノミクスについて、肝心なのは成長戦略なのに、それができないまま巨額の財政赤字を抱え、インフレが始まり金利が上昇し始めると財政破綻する危険性が増大しているし、アベノミクスの時代に経済成長率を規定する全要素生産性が当初は1%程度あったのに、今では0%程度まで落ち込んでしまったことを挙げ、出生率の低下という大問題が遠くに追いやられてしまったこともアベノミクスの罪として挙げておられる。

かつてのリフレ派の人達とのインタビューも是非やって欲しい

大変貴重なインタビュー記事ではあるが、原真人編集委員にお願いしたいのは、翁氏と激しく論争し、その後日銀副総裁になられた岩田規久男教授とのインタビュー記事を是非ともやってほしい。さらに、リフレ派として審議委員になられ、今は別の職場に戻っておられる方達にもその歴史的な総括を進めて欲しいと思う。


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