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労福協 活動レポート

2022年8月29日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第256号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

FRBパウエル総裁、ジャクソンホール会議でインフレ退治を強調

26日、アメリカ・ワイオミング州の景勝地ジャクソンホールで、年に一度の会議が今年もまた世界の経済関係者の注目を集めて開催された。当日、FRBのパウエル議長の10分足らずの短い講演において、高インフレに直面するアメリカ経済について「やり遂げるまでやり続けなければならない」と利上げを表明し、「歴史は次期尚早な金融緩和を強く戒めている」とまで言及したのだ。まさに「タカ派」ぶりを強く前面に出し、それまで金融引き上げのトーンダウンを期待していた市場関係者に衝撃を与えたようで、直ちにニューヨーク・ダウ株式相場は1.000ドル以上の大幅な値下げを記録するに至った。パウエル議長は、9月20-21日に予定されている次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)については、「新たに入ってくるデータや経済見通しを総合的に判断する」と明言は避けたものの、「物価の安定を回復するには引き締め的な政策姿勢をしばらく維持する必要がありそうだ」と述べたとのことだ。

ポルカー元FRB総裁、インフレファイターとして悪役を演ずる

この日経新聞電子版報道では、歴史の教訓として例示した1970年代のインフレの長期化について「現在の高インフレが長引けば長引くほど、高い物価上昇率が続くという予想が定着する可能性が高くなる」と懸念しているわけで、「インフレファイター」としてのFBRの存在を高らかに宣言したと言えよう。

私は1995年5月、当時の自社さ政権(村山内閣)「与党円高問題訪米団」の一員としてワシントンやニューヨークに出向いたことがあるが、1970年代の高インフレを退治した時のFRBボルカー総裁の話を聞く機会があった。なにせインフレを抑え込むために不況に突入することを厭わないで10%以上の高金利を設定したことなど、苦虫を噛み潰したような表情が巨漢ボルカー氏の顔に広がったことを思い出す。二度とあのインフレを招いてはいけないというという思いは、パウエル総裁も同じ思いだったのだろうか。

経済は不況のシグナルへ、なぜコロナ禍でインフレになったのか

債券市場では、アメリカの長期金利の指標となる10年物国債の金利が約3.03%で、先週末に比べて0.04ポイント高くなっているが、2年国債の方は0.11ポイント上昇の3.38%台となっている。短期の利回りが長期を上回る「逆イールド」の状態が続き、景気後退への懸念を強めていることは間違いない。ただ、雇用が依然として好調な状態が続いているわけで、景気が多少影響を受けるにしてもここでインフレを抑え込まなければ禍根を残す、と判断を固めたようだ。

デフレの脅威から一転してインフレの脅威、注目の雇用統計

なぜ高インフレが生じたのだろうか。21世紀に入ってサブプライム危機から脱却したものの、経済成長率が低下し続け、FRBの政策金利もゼロへと引き下げ、日本と同様に「デフレ」の脅威すら語られていたことを記憶する。それが、コロナ禍の下で一挙にインフレへと転換したのは何故なのか、いろいろと指摘されてはいるが。まだ納得できる答えは用意できていないようだ。最新のニュースによれば、コロナの後遺症で400万人近い人が仕事に復帰できないでいるとのこと。9月2日には最新のアメリカ雇用統計の数値が公表されるわけで、その動向に注目が集まることは間違いない。

日本の金融政策はどうなっているのか、約束の2%インフレへ突入

問題は日本の金融政策である。安倍元総理に任命された黒田総裁は来年で2期10年の任期満期を迎える。アベノミクスの三本の矢の内、1本目の異次元の金融緩和を取り続け2%のインフレが起きるまでは続けていくことを表明し続けてきたわけだ。今年4月からの消費者物価指数は2%を連続して超えており、本来であれば異次元の金融緩和政策を転換しなければならないはずである。

黒田総裁は、コストプッシュ型のインフレで2%上がっているわけで、景気が拡大し賃金上昇を伴うディマンドプル型のインフレではないとして異次元の金融緩和政策を変えようとしていない。これは、2013年に安倍政権の下で始まった金融緩和政策を提案する時に、インフレについてコストプッシュ型ではダメでディマンドプル型でなければだめだ、という約束事は入っていない。翁邦雄氏が批判しているように、こういうのを「後出しじゃんけん」というのではないだろうか。

出口戦略を語ってほしい日銀、国民の生活は悪化しているのだ

先週26日に公表された最新の物価統計を見ても、生鮮食料品を除く対前年同月比で2.6%も上昇している。この物価高の影響は、多くの国民(とりわけ低所得者層)の生活を圧迫し続けているわけで、ますます需要を落ち込ませるだけではないだろうか。もちろん、この背景には異次元金融緩和がもたらした円安による輸入物価上昇があることは言うまでもない。利上げはもちろんのことだが、株式の買い上げやREIT市場にまで日銀資産買い上げ続けている事など、日銀の出口戦略について何も語ろうとしない黒田総裁に対して、疑問を持つのは小生だけであろうか。

岸田総理、原子力発電所の新・増設へと転換へ、国民的論議不在だ

8月が終わろうとしている。77年前に広島・長崎の原爆投下という惨禍を受けた日本、その戦争による核兵器使用問題とともに、核の平和利用とされた原子力発電所でもチェルノブイリやスリーマイル島事故に引き続き、2011年3月東電福島第一原子力発電所の大惨事を経験した。あの経験から11年、原発への依存を削減していく方向へと舵を切り始めたのかと思いきや、なんと岸田総理は原発政策を転換し、原発の新増設や建て替えの検討を進める考えを示したとの報道に接する。この方針を示したのは脱炭素を議論するGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議の第2回会合の場であり、非公開の下で産業界や電力会社の幹部も加わって経産省主導で決められたとのことだ。

「黄金の3年間」、待ってましたと経産官僚・経済界首脳ら

7月に実施された参議院選挙前には原発の新増設を尋ねられても答えなかった岸田総理が、選挙終了と共に検討を始め年末には結論を出すとのことだが、これで果たして民主的な政策決定と言えるだろうか。内閣支持率が大きく低下しつつある岸田政権、「支持率がある程度あって国政選挙も終えた今の状況でやらなければ、もうこの先もずっとできない」との声がある中での今回の動きとのことだ。岸田政権にとって「黄金の3年間」とは、原発の新増設への転換といった国民の反対が多い問題を進めるためのものになりそうだ。被爆地広島選出でリベラルな宏池会出身だが、どうしてどうして進める政策はタカ派顔負けである。故安倍政権を背後で操縦していた、経産官僚の姿がちらついているように思えてならない。

原発については、使用済み核燃料の処理の問題をはじめ、多くの未解決の問題が山積しており、そのコスト面でも太陽光発電よりも割高になりつつあるわけで、必ずしもコスト面での優位があるわけではない。ここは冷静に国民的な議論を展開していくべき時だろう。

ウクライナのザポリージャ原発、ロシア軍拠点となって攻防激化

ウクライナへのロシアの侵攻による国際的なエネルギー危機と並んで、ウクライナにあるザポリージア原発をロシア軍が抑え、危険極まりない原発への直接的攻防が繰り広げられ始めている。ロシアとウクライナどちらが原発攻撃を仕掛けているのか判然としないのだが、いずれにせよ極めて危険な状態にあることは間違いない。また、ロシア軍が原発を抑えることにより事実上の「核兵器=人間の盾」に仕立てていることは間違いない。NPT会議が決裂したことは、こうした大問題を解決するべく世界の核軍縮を求める人たちの声をロシアが拒否したことになるわけで、NPT体制が今後どうなるのか、あまり明るい展望を持てそうにない。

原発はいつでも核兵器へ、日本だけでなく韓国原発の存在に注目

われわれは、プルトニウムを抽出するという方法だけではなく、原発はいつでも核兵器へと転換できることを、今回のウクライナへのロシア侵攻であらためて知ることになった。日本の原発だけでなく、お隣の韓国の原発政策にも目を凝らしておく必要がありそうだ。韓国の新しいユン大統領は原発新増設を、しかも日本との至近距離に積極的に展開するとの情報に接する時、ロシアはもちろん中国、北朝鮮に接している北東アジアの国際的な安全保障の行方が心配になってくる。もう一度、反核・平和をどう実現していけるのか、台湾問題と共に「核」という切実な大問題に直面していることを痛感する今日この頃ではある。


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