2022年9月5日
独言居士の戯言(第257号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
内閣支持率激減、岸田総理を追い込み、旧統一教会との関係断ちへ
岸田内閣は7月参議院選挙での勝利にもかかわらず、安倍元総理の選挙中の暗殺事件がもたらした自民党と旧統一教会との、深くどす黒い膿が一挙に押し寄せている。岸田総理はこの難局を突破すべく内閣改造を利用し、予定より一か月前倒しにしたにもかかわらず、内閣支持率は大きく下落させてしまった。とくに毎日新聞によれば、1か月で16%も下落(支持率は36%へ)するという危険な状況に追い込まれ、自身のコロナ禍明けとなった31日、記者会見を開いて改めて自民党国会議員と旧統一教会との関係を断つ方針を打ち出さざるを得ない状況へと追い込まれてしまった。また、閣議で早々と決めた安倍氏の国葬についても、閉会中審査に岸田総理自身が直接出席して答弁に立つことも表明した。今まで、閉会中の国会審査に総理大臣が出席したことがなく、相当厳しく追い込まれていることを自覚したものと見ていいだろう。ただしそれで岸田内閣の支持率が上向くのかどうか、しっかりと国民の抱いている問題点について、何一つ隠すことなく正直に答えていくことこそ今必要なのだ。
日中関係改善の兆し、「北戴河会議」で何が話し合われたのか
こうした国内政局の動きとは別に、外交面でも新しい動きが出始めているようだ。ずばり中国との関係であり、今月29日が「日中国交回復50周年記念日」にあたっており、秋葉剛男国家安全保障局長と中国外交責任者揚潔チ氏の会談が8月17日天津で開催され、日中の首脳会談実現に向けた動きが出始めたとのことだ。中国共産党にとって最高に重要な「北戴河会議」が終わった直後のことであり、林外務大臣も日中首脳会談を検討すると発言している。また、8月22日には岸田総理がコロナに感染したことに対して、習近平国家主席、李克強首相がそれぞれ御見舞の電報を打ったことが国営テレビのトップニュースとして報じられるなど、対日関係改善に向けての雰囲気づくりが進み始めている。「北戴河会議」で、対日政策について何らかの重要な決定がなされたのではないかと思われるが、今のところ正確な情報があるわけではない。
ペロシ議長訪台時とは打って変わったのは日本との関係重視か
この間、8月4日ペロシ下院議長の訪台に際して、日本のEEZ(排他的経済水域)にミサイルを撃ち込んだ際の中国側報道官の厳しい態度とは、180度打って変わった融和的な姿勢をどう捉えたらよいのか、戸惑いを感じさせるに十分である。ペロシ訪台への台湾包囲網攻撃によって、中ロ対G7の対立がより一層鮮明化し始めたと思われただけに、中国の日本に対する融和策の背景には、1989年の天安門事件以降、情勢打開に向けて日本に対して先進国の中国包囲網を突破する役割を求めて接近したことを思い出させる。やはり中国と日本とは、他のG7の国とは異なる歴史的・文化的・地理的関係があるとみてよいだろう。中国の経済発展は、日本の援助無くして実現できていないことは確かであるし、日本はアジアにおいて中国とは「隣の国」であり続けるしか生きていけないのだ。
中国が新興国・途上国重視の「南南協力」重視が基本だが
もっとも、中国自身は対外政策の軸足を、新興国・途上国との「南南協力」に置こうとしてきたことは間違いないわけで、今後の中国外交を見る時、9月15-16日ウズベキスタンで開催される上海協力機構(SCO)の首脳会議での習主席の言動、とりわけロシアのプーチン大統領とのパートナーシップについての言及に注目が集まる。このSCO首脳会合には、インドも参加することになっていて急速にその存在感が高まっている。その2週間後の9月29日、50周年を迎えた日中両国首脳の会談で、どのような方向が両国で合意されるのか、予定通り実現すれば、久方ぶりに世界が注目する会談になりそうだ。
林外務大臣、親子二代の「日中友好議連」会長という好位置
中国と言えば、林外務大臣の父上である林義郎元財務大臣が日中友好議員連盟の会長をしてこられ、林大臣も同じく会長に就任してきたたわけで、中国側にとっても一番やり易い日中外交推進役になるわけだ。次のリーダーを狙う林芳正氏にとって、願ってもない役回りが訪れたと言えないだろうか。最近、あまり独自性を発揮せず地味な役回りに終始してこられた林大臣だが、抜群の安定感は”いぶし銀”のような存在感をもっており、これからの日中関係100年に向けて最高の見せ場の役回りが与えられたのかもしれない。とはいえ、中国とアメリカとの狭間の中でどんな日米・日中関係を築くことができるのか、まさに正念場を迎えようとしているのかもしれない。
おっとっと、総理大臣は岸田文雄さんだったわけで、いくら個人的に贔屓にしているとはいえ林外務大臣は岸田総理の下での外交を展開していることを忘れてはなるまい。
FRBパウエル議長演説、世界に影響、日本は歴史的「円安」へ
先週とりあげたアメリカFRBのパウエル総裁が、恒例のジャクソンホールでの講演でインフレファイターとして闘う姿勢を明確にしたことを受け、ニューヨーク株式市場は一時1000ドル以上も値下げを記録するなど激震が走った。その影響は、基軸通貨ドルであるがゆえに世界の国々へも大きな影響を与え続けてきた。日本もその例外ではなく、アメリカの9月21-22日に予定されている政策金利の引き上げが0.5-0.75%になることは必至であるため、日米金利差の拡大が避けられず、一時130円台前半まで低下していた円ドル相場は9月に入って1ドル140円台へと円安が一気に進み始めたのだ。この流れは、これから140円台半ばまで進むのではないかと予測する専門家もいて、「歴史的な円安」の進展が日本経済に悪影響をもたらす時代へと大きく変化しているだけに、深刻な問題として受け止めるべきだろう。日本の「円」がロシアや新興国通貨よりも価値が下落しているようで、「ジャンク通貨」に落ちぶれてしまったことを指摘する声も出始めている。貿易赤字の恒常化といい、日本経済の国際的地位の下落は、かつての経済大国の面影が消え去ろうとしているのだろう。
アメリカ雇用は安定状態、低所得層の所得増続きインフレ持続か?
そうした中で、注目されていたのが2日公表された8月分のアメリカ雇用統計の速報値である。非農業部門の就業者数が前月比で31万5千人増と予想を上回り、失業率の方は3.7%と0.2%のプラスであった。この数値は、予想以上に雇用が堅調で、インフレを大きく下落させるまでには至っておらず、この数値ではFRBの大幅な利上げが避けられないことを示したと言えよう。最近のアメリカの低所得層の所得の増加がコロナ禍の下で進み始めたとの報道(ブルームバーグ8月30日)に接すると、いったい日本はどうなっているのか、大いなる疑問が湧いてくる。当然のことながら、日米の金利差は拡大し続け、日本銀行のイールドカーブコントロール政策が継続され、長期国債ですら0%(実際には0-0.25%)に据え置くわけで、円安が引き続き進展することは必至と見ていいだろう。
日本の値上げの秋到来、円安による輸入価格上昇も加わり生活苦へ
そうなれば、ただでさえロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的な食糧やエネルギー価格の上昇するなか、インフレ率が食料品を除いても2%をこえている日本にとって、この9月から10月にかけて一斉に消費物資の値上げが予定されており、それにさらに円安分が加味された値上げ分が国民生活を襲ってくる。しかも、その影響は低所得層になればなるほどダメージが酷くなるわけで、賃金水準が長期的に停滞している労働者にとって生活を大きく圧迫することは必至である。構造的に需要不足が問題になる日本経済にとって、ますます国民の内需が落ち込むわけで、物価値上がり問題を何とかして欲しいという国民の声が強まることは必至だろう。黒田日銀総裁は「日本がちょっと金利を上げた程度では円安は収まらない」(7月21日記者会見)と発言しているが、2%のインフレが続いているのに何もアクションを起こさないことも含めて問題視すべき時ではないだろうか。来年4月で10年という総裁の任期だが、まだ半年以上もこんな状態を継続し続けることが許されていいのかどうか、そろそろ堪忍袋の緒が切れても良いころではないだろうか。
バイデン政権、若者を苦しめる奨学ローン返済免除法案の提出へ
先ほどアメリカの低所得層の賃上げや資産の増加について触れたのだが、バイデン政権は中間選挙を前にして、奨学ローン返済の免除法案を策定し議会にかけていくとのことだ。所得制限がついてはいるものの、低所得者層では2万ドルものローン返済が免除されるとのこと、多くの若者がローン地獄に苦しめられていたことから解放するわけで、議会で共和党の反対を乗り越えて実現すれば、彼らにとって大変な朗報と言えよう。日本でも、こうした苦しむ若者への支援措置が的確に進められることを願うばかりであるが、来年度の予算や税制改正要望が提出された主な項目を見る限り、国民の要望とはかけ離れたものになっているようだ。