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労福協 活動レポート

2022年9月12日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第258号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

朝日新聞連載「長期政権からの宿題」、二木立日本福祉大名誉教授と浜口桂一郎JILPT所長の発言に注目

朝日新聞紙上では、「長期政権からの宿題」という安倍政権の時代についての各分野での評価と岸田政権の課題について、それぞれの分野の専門家によって1週間に一度程度とり上げられてきている。あまり派手な取り扱いではないが、貴重な問題提起となっていることは間違いない。

9月7日には「全世代型社会保障と同一労働同一賃金」の二つのテーマについて、前者は二木立日本福祉大学名誉教授が、後者については浜口桂一郎独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の労働政策研究所長にヒアリングされている。私自身このお二人の専門家とは、議員を辞めて以降、直接・間接ともに面識があり、大変参考になる情報を日頃から提供していただいているし、多くの名著を精力的に発刊されている。愛読者の一人であることも間違いない。

安倍政権の医療政策には厳しい評価、国民医療費抑制政策だった

まず、二木立名誉教授とは、毎月1回「二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター」(以下「ニュースレター」と略)を送っていただいており、医療分野の不勉強な私にとって大変貴重な情報に接することができている。それゆえ、この新聞記事にも注目した。

ずばり「安倍長期政権下の医療政策をどう評価しますか」という記者の問いに対して、
「その前の民主党政権との最大の違いは、厳しい医療費抑制政策を取った事です。薬価を含めた診療報酬の全体を引き下げ続け、結果として国民医療費の伸びを抑えました。小泉政権のような派手さはありませんでしたが、目立たず、でも着実に引き下げた。その結果、医療機関の経営は悪化しました」と厳しい。

安倍政権は全世代型社会保障でも財源確保に目を向けず成長頼み

また一番のメインテーマである「全世代型社会保障」についても、民主党政権時代の「社会保障・税一体改革」で本格的に登場した考え方なのに、安倍政権の下では「現役世代の負担上昇を抑えるために高齢者の負担増を行うという『コストシフティング』に終始して」いるとこれまた厳しい評価である。そうなるのは安倍元首相が「筋金入りの『上げ潮派』だったから」であり、経済が成長に復帰すれば、税収はついてくるという考え方が背後にあるわけで、財源確保という社会保障にとって一番大事な改革をしなかったから長期政権が続いたともいえる、と鋭くその背後にある間違った政策理念にも批判を展開されている。

もっとも、強権的ではあったが「ウエット」な面もあり、医療・社会保障分野への市場原理導入には抑制的だったとみておられる。民主党政権時代の医療改革の方が評価が高いことにやや軽い感動を覚えたのは、日頃余り評価されることの少ない民主党政権時代の当事者の一人としての自覚があるからだろうか。

岸田政権の「全世代社会保障構築会議」には「少し期待」感あり

最後に、岸田政権への期待について「全世代型社会保障構築会議」(以下「構築会議」と略す)には安倍政権時代の「検討会議」とは異なり、社会保障・税一体改革の時に機能強化と負担増の議論に向き合ったメンバーが入っていて、「少子高齢化の中で求められる負担増への議論が進むこと」への「少し期待」しておられる。二木先生が求めておられる社会保障制度の充実には財源問題が一番のカギであり、民主党政権の時からスタートした三党合意に基づく「社会保障・税一体改革」では消費税の引き上げを進めてきたことを高く評価されてきたし、今後も「構築会議」では、財源問題を巡って「こども保険」という新しい提案や消費税引き上げなどが論議されていくのかどうか、じっくりと注目し続けていく必要がある。岸田政権が、社会保障重視の道を歩むのかどうか、リベラル政権か安倍政権のエピゴーネンになるのか、重要なポイントになる。

何を隠そう、私自身も、この岸田内閣の「構築会議」には「少し期待」し続けていきたいと思っている一人である。

二木立教授の「ニュースレター」についてのご案内

新聞記事とは離れるが、二木教授の最新(9月1日)の「ニュースレター(通巻218号)」において、「1.論文:日経・日経センターの医療制度『改革提言』で特に問題なこと」《「二木教授の医療時評(204)」『文化連情報』2022年9月号(534号):34-38頁》は、経済界や新自由主義に近い立場からの日本の医療(保険)制度に対する攻撃に対して、真っ向から反論を展開されている。是非とも一読をお勧めしたい。

(注)二木教授の「ニュースレター」のすべてのバックナンバーは、いのちとくらし非営利・共同研究所のホームページ上に転載されているとのことです。ホームページのアドレスはhttp://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/です。

濱口所長、「同一労働同一賃金」についての安倍政権、「大山鳴動、ネズミ2匹、3匹」という印象

もう一つのテーマである、「安倍政権が同じ仕事をした場合の賃金に不合理な差を付けないようにする『同一労働同一賃金』について」、浜口所長の評価は、
「一般的に労働組合団体からの支持を受けない自民党政権にもかかわらず、正社員と非正社員の格差問題を解決するというメッセージを社会に出した。これは政治的にとても大きな意味がありました。しかし結果は、大山鳴動したもののネズミが2匹、3匹出てきたような印象です」

と実にそっけないものだった。というのも、日本の賃金と職務との関係において、浜口所長が初めて提起(『新しい労働社会』2009年岩波新書刊を是非とも読んでほしい)された日本の正規職員の賃金決定は、欧米のように「職務」に賃金がつく「ジョブ型賃金」ではなく、「人」に賃金が結びつく「メンバーシップ型賃金」となっており、「年功制や、部署の配置転換による経験によって賃金が決まる」こととなっている。それに対して「非正規社員」の賃金は、年功制や配転がない仕事で専門職以外の多くは「最低賃金+α」にとどまっている。こういう状況の下で同一労働同一賃金を実現することはどんな政権でも困難であったとみておられ、結果的に非正社員と正社員との均衡・均等待遇は抜本的な改善とはならなかったわけだ。

非正規労働者待遇改善の道は、産業別最賃の引き上げに目を向けよ

それでは、非正社員の待遇をどのように改善して行けば良いのか、浜口所長は産業別最低賃金制度に注目し、地域の最賃を上回る形で個別産業ごとの最低賃金水準を設けたり引き上げたりすることを提案する。これもハードルは高いが、人手不足対策としても踏まえて議論して欲しいと提起されている。私自身、今までは最低賃金の底上げを重視していくべきと主張してきたのだが、多角的に、産業別最低賃金の引き上げというやり方も大いに使っていくべきだと思う。

濱口所長のインタビュー記事、東洋経済オンラインは興味深い

浜口所長については、9日付の『東洋経済オンライン』において、「世界の中で日本だけ賃金も物価も上がらない理由~日本経済を陥れた「労使協調路線」という呪縛~」という黒崎亜弓さんのインタビュー記事が興味深い。賃上げを阻んでいるのはオイルショックの「呪縛」ではないかという問題提起は、私自身が鉄鋼労連本部にいた最後の74春闘後に「経済整合性論」として鉄鋼や電機、自動車・造船といったIMFJCという民間主要単産の賃金政策として展開されたわけで、特にそのアイディアを労働界から編み出した故千葉利雄鉄鋼労連副委員長のことが思い出される。次号でその点について少しく触れてみたい。何と言っても50年近い前の出来事であり、その時の「成功体験(!?)」が、今も日本の賃金が上がらない大きな原因となっているとの指摘には注目する必要があることは言うまでもあるまい。


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