2022年12月5日
独言居士の戯言(第270号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
泉立憲民主党代表就任1年経過、維新との共闘は順調に見えるが!?
今回は政治の動き、とりわけ野党側の状況に立ち入って検討してみたい。
ちょうど昨年秋、自民党の菅総裁から岸田氏へと総理が交代し、新しく組閣した岸田総理の下で解散総選挙が行われ、自民党が勝利して岸田内閣は順調な滑り出しを見せたことは記憶に新しい。逆に、立憲民主党は一部野党の候補者調整を進めたものの、現有議席を減らして敗北し、枝野代表が辞任し泉執行部が発足してちょうど1年が経過しようとしている。
その後7月の参議院選挙でも立憲民主党は敗北し、泉代表の責任を問う声もあったが結果として留任、新たに岡田幹事長や安住国対委員長ら民主党政権時代の重責を担った人たちによる人事を断行、民主党政権時代に設置された『ネクストキャビネット』も復活させるなど、手堅い党運営を進め、最大の難問と思われていた維新との国会内共闘では成果を上げつつ岸田内閣を追及してきた。私には、維新と立憲が国会内での共闘が何故うまくできたのか、未だにその真相がわからないのだが、安住国対委員長の個人的な資質による手腕が発揮されたことも大きな要因の一つだと思ったりするが、これまた本当のところはわからない。前代表である松井大阪市長は、選挙協力などへの動きには絶対許さない、等と発言されているようで、維新内での今後の動きには引き続き注目していくべきだろう。
枝野幸男前代表の「消費税減税は間違いだった」発言に注目!!!
こうした野党側の動きの中で、注目したいのが枝野幸男前立憲民主党代表の「消費減税訴えは間違い」発言である。11月13日の朝日新聞で報道されたわけたが、元々は枝野氏のユーチューブ(10月28日配信『えだのんTalk Vol9』)の中で語ったものであり、枝野氏は昨年の総選挙での立憲民主党・共産党、れいわ新選組、社民党の4党で選挙協力する際の共通政策として「消費税5%への引き下げ」を主導してきた。その内容は7月に行われた参議院選挙の直前である6月10日に「時限的消費税減税法案」として4党共同で提出するところまで至っている。枝野氏は、自分が代表として進めてきた野党共闘の目玉政策が「間違いだった」と述べているわけで、どうこの問題を捉えたらよいのか理解に苦しむ声が出るのは当然のことだろう。
もっとも、立憲として「消費税5%引き下げ」を間違いだったとは総括していないわけで、今のところ枝野前代表だけの「独り言」でしかないわけだ。とはいえ、事は前代表の発言なのであり、この問題をどう考えたらよいのか、立憲民主党としても明確にする必要があるのに今のところ音なしである。
経済成長について重要なポイントを指摘している「枝野発言」
実は、このユーチューブを見てみると枝野前代表はなかなか興味深いことを述べていることがわかる。双方向ユーチューブの視聴者からの「政府規模に関する質問」に対して、枝野氏は
「所得の再分配とセーフティネットを張らなければ、経済が成長しない時代になっている」として「単なる大きい政府」ではなく「頼れる政府」を作ることが重要だと述べている。
さらに、「財政規律に関する質問」に対しては、MMTなど放漫財政を唱えていた人たちの間違いを指摘、物価高の原因は円安に在りと日銀の金融緩和政策を批判する。だが、今の日本経済は引き締めができる状況にはなく、賃上げなどで経済をよくする必要があるが「消費増税」には反対だと述べている。と同時に、先に引用したように「昨年の総選挙で消費減税を主張したのは政治的に間違いだったと思っているが、消費増税には反対である」とも述べ、消費増税をするためには所得税の富裕層増税や法人税増税、更には金融所得課税強化を実施したうえでなければ認められないとも述べている。また、「頼れる政府」をつくると主張していながら「減税」を主張したのは、どこに向かうのかを有権者にメッセージとして伝えられなかったわけで、「二度と減税も主張しない」との力強い言葉が発せられてその限りでは頼もしい限りなのだが・・・。
枝野氏は「再分配政策によるセーフティネット」に関する権丈論文をしっかりと学んでほしい
私が注目したいのは、枝野氏が「所得再分配とセーフティネットを張らなければ経済が成長しない時代になっている」という認識であり、それは何故そう思うのかという点に触れていないことだ。この点について、私の知る限り権丈善一慶応義塾大学教授はもう20年近くも前から、社会保障の充実は需要が飽和化した先進国である日本にとって、再分配政策による社会保障の充実こそが内需拡大による経済成長に繋がることを強調してこられているわけで、枝野前代表は権丈論文(最新の夫妻との共著『もっと気になる社会保障』勁草書房2022年9月刊、特に第14章「再分配政策の政治経済学という考え方」など)をしっかりと目を通して、出来もしない政府(経産省主導)の成長戦略の問題点をしっかりと批判していく立場へと転換して欲しいものだ。
なぜ消費税減税という間違った政策を提起したのか、その総括を
そのためには、これまでなぜ消費税減税なるものを提起してきたのか、権丈論文などを深く吟味・理解して総括しなければなるまい。かつて2004年の年金改革問題での枝野氏自身の「トンでも発言」など、今ではどう総括しているのか、所得再分配とセーフティネットを張ることの重要性を指摘する以上、権丈教授から厳しく問われ続けていることへの丁寧な答えも忘れてはなるまい。
さて、所得再分配とセーフティネットを張るということは、まさに社会保障(+教育)充実に向けて「財源の確保が重要」になるわけで、消費税を社会保障目的の財源として位置づけ、10%への引き上げを進めてきた2013年の歴史的な「三党合意」の約束からしても、「消費税減税」などはそれこそもってのほかであり、「消費増税」こそが求められていることを声高らかに主張すべき点ではないかと思える。
所得税や法人税改革も重要だが、それができないと消費税増税はできない、というのは結局何もできないことに通ずるのでは
確かに、所得税の累進性の強化やいわゆる「1億円の壁」を打破したり、法人税の増税などの必要性はその通りなのだが、それができないからと言って消費増税ができないと壁を作るのは、結局のところ何もできないことにつながるのではないだろうか。消費税には累進性はないが、高い所得の人ほど高い消費税を納めるわけで、再分配による社会保障の充実による低所得層ほど有利なり格差是正効果があることを支出面から強調していくべきだ。
さらに時間がかかる課題として、所得の正確な捕捉のためにマイナンバーの活用が図られなければならないわけで、すべての所得・資産とマイナンバーの紐づけこそが枝野氏の求める所得税の総合課税による累進性や1億円の壁を打破するためにも不可欠であることを主張していくべきだろう。また、所得や資産の的確な捕捉ができて初めて「頼りになる政府」にしていくことができることも指摘しておこう。
同時に、自身が所属する立憲民主党の政策にしていけるように全力を挙げていく必要があるし、次の選挙に向けて全面的な政策転換ができるようにしなければなるまい。責任のある政治を展開し、政権交代していくためにはその転換を進めなければ得られないことを深く自覚すべき時だろう。
【先週中に気になった情報のあれこれ】
中国の動向が気になり、いろいろと情報を掴む努力をしているのだが、最近の「ゼロコロナ政策解禁」の動きはどうなっていくのだろうか。4日日曜日の毎日新聞のコラム「時代の風」では高原東大教授が「中国『三期目』の課題」について「問われる習氏の方法論」と題して習近平体制についての論点に触れておられる。党大会での閉会式の場で胡錦涛前総書記が半ば無理やりに連れ去られたことは、「習派によるポスト独占ヘの胡錦涛氏の不満が図らずも皆に感得されることとなった」と見ておられ、中国政治の人事面という横軸で習氏はほぼ完全な勝利を収めた」が、縦軸ともいえる「党と大衆の関係について」はゼロコロナ政策に対する行方について、国民の不満が増大し習氏への批判が出始め「白紙」を掲げて街頭に立つ運動が繰り広げられていることを指摘し、国民から直接選ばれていない政権の正統性の欠如がカラー革命として噴出することを習氏が警戒していると述べている。確かに、習近平氏と会談したミシェルEU「大統領」との1日の会談で、3年間にわたる学生たちのコロナ禍での不満が出たものと習氏が語ったと報じられていた。また、同じ毎日新聞の中村紘一中国総局長が書かれたコラム「声を上げた『愛国世代』」でも、若者たちの不満の発露と見たようだ。
こうした背景でゼロコロナ政策の見直しが進められていることは確かなのだろうが、中国問題の専門家である遠藤誉氏のYahoo japanニュース11月30日、「遠藤誉が斬る」第862号「反ゼロコロナ『白紙運動』の背後にDAO司令塔」というコラムの中で、アメリカの介入が進められていることを突き止めたと述べておられる。これからどう「白紙運動」が展開していくのか、中国国内の動きと連動したアメリカの政治的な勢力との繋がりにも目を向けていく必要がありそうだ。このコラムはいろいろと複雑だが、全米民主主義基金やトランプ政権のバノン氏などが背後にいて、DAO(分散型自立組織)である「全国封鎖解除、戦時総指揮センター」を動かしているとも述べておられる。こうした動きの真偽を含めてどう展開していくのか、中長期的に注目してみておく必要がありそうだ。