2023年1月5日
独言居士の戯言(第274号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
あらためて、新年おめでとうございます。今年もどうぞよろしく
昨年12月は、民主党が総選挙で敗北し、政権を失い私は内閣官房参与を辞して札幌に帰って10年という節目に当たっていた。それから少しの時間をおいて、参与時代に発信していたブログ『官邸御庭番日誌』から『チャランケ通信』へとメルマガの名称を変更して今日に至っている。原則1週間に1回発信しており、今年中には500号に到達する予定である。
引き続き気力・体力の続く限り国内外の政治や経済の動向を中心にしながら、『チャランケ通信』を発信していくつもりである。大変失礼なことに、名刺交換しただけで一方的に送り付けていることが多いわけで、もしこれ以降の送付を御希望されない方がおられましたら、ご遠慮なくご連絡ください、直ちに停止させていただきます。また、どなたにでも転送されるのもご自由でございますので、よろしくお願いいたします。
岸田内閣の支持率低落へ、政権の存亡が懸かる広島サミットまで
昨年は、ウクライナへのロシア軍の侵攻、安倍元総理銃撃事件といった重大な出来事に直面し、戦争は継続し、安倍元総理を始めとした旧統一教会と自民党との関係も、すっきりとした解決に至らないまま年を越してしまった。コロナ禍の下で、安倍元総理から菅前総理、そして一昨年の秋に成立した岸田政権と自民党政権は継続しているわけだが、安倍元総理が凶弾に倒れて以降、旧統一教会との関係を中心にして岸田政権は国民からの支持を落としてきており、毎日新聞の昨年12月中旬の内閣支持率は25%という政権発足以来最低の支持率を記録している。他のマスコミの世論調査でも、ほぼ同じように支持率を低下させ、不支持率が支持率を上回っていることは共通している。岸田政権は存亡の危機という表現はややきつすぎるかもしれないが、かなり際どい立場になりつつあることは確かであろう。
短兵急な防衛費GDP2%への引き上げ、お粗末な増税論議の行方
それを垣間見せてくれたのが、アメリカとの約束もあるのだろうか、防衛費の引き上げ「GDPの2%」を岸田総理が明言し、これから必要となる防衛費増を既存の余剰や効率化により財源を捻出、それでも足りない1年あたり財源約1兆円強を、国民負担(=税)で賄う方針を自民党税調に検討するよう指示をしたのだ。これに対して、安倍元総理が「国債で賄う」方針を打ち出していたことがあったからなのだろうか、安倍派に属していた西村経産相や高市大臣は半ば公然と反対の声をあげ、「閣内不一致化」と政局の行方に暗雲が垂れ始めたと思われたのだが、最終的に今年の税制改正では課題にはしたものの実施時期や内容は先送りとなり、今のところは「大山鳴動ネズミ一匹」という状況に至って今日に至っている。
「新しい資本主義」とは、結局「アベノミクス」への回帰なのか
この防衛費増額問題だけでなく、原子力発電の新増設問題など、一体どこでどんな議論がされたのか判らないような重大問題が、あたかも既成事実となったかのように進められてきているわけで、1月23日から始まる通常国会での真剣な議論が求められていると言えよう。この通常国会での与野党の攻防がどう展開していくのか、と同時に総ての政治の動きの焦点にあるのが5月19日から始まるサミットの開催であり、岸田総理は選挙区である広島での開催を機に解散に進むのか、それとも退陣に追い込まれるのか、1月からの国会と4月の統一自治体選挙・衆議院補欠選挙の結果次第にかかっていると言えよう。全ては、内閣の支持率にかかってきており、岸田総理が「新しい資本主義」を打ち出したものの、アベノミクスを乗り越えるものが見えないまま、何をしたい政権なのかがはっきりしておらず、これでは今後の難局を乗り越えることは難しいのではないだろうか。
日銀総裁発言へのいら立ち、どんな金融政策を求めるのか不明だ
もう一つ、人事の面で大きな転換が予想できるのが日銀総裁の後退であろう。黒田総裁は2013年4月に就任してアベノミクスの三本の矢の一つである「金融緩和」を一貫して支え続けてきたわけだが、10年も経つのに当初目指したインフレ2%を2年以内に実現するという目標を実現することができず、その後2016年にはイールドカーブコントロール(YCC)政策に転換し、10年国債をゼロ金利(当初は0.1%その後0.25%へ)に維持する方向へ転換し、2%というインフレに到達するまで持続させると明言してきたわけである。
突然の長期金利幅の0.5%への拡大、これまでの金融政策の転換へ
今年に入って日本の消費者物価の上昇が輸入原料や食料品価格の高騰もあって2%を超えたものの、コストプッシュ型ではなくディマンドプル型の上昇でなければ金融緩和を転換することはないとして、インフレが進む先進各国の金利の引き上げが続く中で日本だけが金融政策を変えないできたわけだ。その日銀が突然昨年12月20-21日に開かれた政策決定会合で、YCC政策は維持するものの、上下の変動幅を0.25%から0.50%へ拡大すると決定した。文言上は上下の変動であり、マイナス幅も拡大しているわけだが、既に黒田総裁は過去の記者質問で0.25から0.50へと拡大することは、「金利の引き上げとなり考えていない」と明言してきたわけで、誰が見てもこれまでの金融政策の転換を進めたと考えるのが当たり前であろう。
この転換は、アベノミクスの第一の矢である「金融緩和政策」が今後大きく転換させていくスタート台についたのではないかと考えられており、次の総裁が誰になるのか決まってはいないが、今後注目すべき論点となるのは間違いないだろう。
なぜ日銀は突然金融政策の転換を打ち出したのか、朝日のスクープ
では、どうして年の瀬も迫ったこの時期に金利の幅を引き上げたのだろうか。その点を追及した朝日新聞の12月26日付けの「黒田日銀10年 行き詰った異形の緩和策」によれば、11月10日官邸で行われた岸田総理と日銀総裁の会議の中で、岸田総理が次のように述べたと報じている。
「余分なことをまで会見で言わないように」
このように岸田総理が発言したのは、9月22日の金融政策決定会合の後の記者会見で、記者からの質問に「当面、金利を引き上げることはないと言ってよい」と述べ、さらに緩和を引き締める時期について「2-3年先」と黒田氏の任期後にまで言及したことを問題視しているわけだ。この発言直後から為替相場が1ドル145円まで下落し、政府が為替介入に追い込まれてしまったわけだ。
岸田総理が、独立性が保障されている日銀総裁に対してここまで発言したことは、これまでの金融政策の在り方についての厳しい見方を持っているのかもしれない。少なくとも、急速に進んだ円安が日本の物価上昇となって襲っているわけで、こうしたやり取りの背後には「岸田首相のイライラ感」が露呈しているようだ。
この12月の金融政策決定会合での「突然の」金利幅の0.5%までの拡大というサプライズは、為替相場で1ドル130円代まで円高へ押し上げているわけで、政府側からの期待通りの結果が得られたことになったようだ。
岸田総理、もう一度「分配・再分配」の在り方についての切込みを
それにしても、岸田総理の「新しい資本主義」なるものが一体どんなものなのか、株式市場活性化に向けたNISAの拡大にみられる貯蓄から株式への誘導というレベルのものでしかなかったわけで、果たしてこれで資産倍増できるのかどうか、肝心の株式市場の動きも不透明感が漂い非課税枠の拡大だけではリスクもあり不確実である。まして、多くの低所得に喘いでいる国民にとって、1800万円もNISAに投資できないわけで、たとえ株式市場が多少盛り上がってきたとしても、全く無縁でしかない。岸田総理が当初打ち出していた分配や再分配による転換を進めなければ格差は縮小していかないわけで、賃金の引き上げと同時に社会保障や教育の充実に向けて、税も含めた再分配政策を充実させていくことが切実に求められている。
【ウクライナ侵攻の中止を考える】
それにしても、ロシアのウクライナへの侵攻から10か月以上経過する。何時停戦が実現するのか、世界が注目しているわけだが、最近における中国とロシアの緊密な同盟が気にかかる。ロシアは中国の支援無くしてウクライナ戦争は勝てないとみているのだろう。ウクライナも米英を中心にしたNATOの支援がなければ戦いの展望はないわけで、どう米中の話し合いにまでもっていけるのか、そこにかかっているとみて間違いないだろう。その米中対立が、世界の覇権をかけての戦いに入ろうとしているだけに、どう停戦に向けた努力を展開していけるのか、人類の英知が試されていると思う。