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労福協 活動レポート

2023年1月30日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第278号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

予算委員会での総括質疑、与野党が解散総選挙をにらんだ攻防へ

今日から予算委員会が始まる。久方ぶりに税制問題が議論になりそうだ。岸田総理は、防衛予算のGDP2%への引き上げを公言し、これから5年間で必要な43兆円の防衛予算のうち、不足分は増税でもって賄うことを公言している。どんな財源で、何時から増税していくのか、自民党内では羽生田政調会長の下で検討委員会が設置され、喧々諤々の論議が続けられているやに聞く。羽生田氏は増税をする以上は国民に信を問うべきだと岸田総理にくぎを刺してきたし、総理は来年の総裁選挙までには解散総選挙を実施すると明言したわけで、いよいよ政局は解散・総選挙をにらんだ与野党の攻防の火ぶたが切られようとしている。

防衛費増税問題、与野党議員の『憎税同盟』を破れるのか

自民党内には、国債の60年償還ルールを80年に延長すれば、単年度で約4兆円使えるとの意見も出ているが、岸田総理は税をもって引き上げるという「正論」を打ち出している。とはいえ、単年度で1兆円強の増税とは言うものの、果たして予算の繰り越しや無駄な予算の切込みなどが実現する前提が置かれているわけで、それが恒常的に計上できるものだろうか。防衛予算の在り方次第では、国民の更なる負担は避けられず、統一自治体選挙と衆議院補欠選挙での争点になることは必至で、『憎税同盟』で結ばれた与野党の政治家にどう受け止められるのか、正念場であろう。安保防衛の強化を支持する国民は多くなっているものの、必要な財源が増税となって身に降りかかってくることには反対が根強く、特に3.11の復興財源である所得税付加税への上乗せ・流用には安易すぎると批判が強い。

軍事面での強化よりも前に少子化の強化を目指した「異次元の少子化対策」を具体化すべきではないかという野党側が、立憲と維新の議会内での共闘の軸となりそうだ。もっとも、維新は自民党との間で防衛費の強化やエネルギー政策など政策協定を進めており、国会内での共闘という点でもねじれ、解散・総選挙になれば野党側の勝利は今のところむつかしい。選挙制度の在り方自体も問われる時に来ているのかもしれない。

自民党の「こども手当、所得制限なし」発言に唖然、長妻政調会長

さて、子育て問題で大きな話題になったのが、児童手当の支給にあたっての所得制限問題である。今まで児童手当に所得制限をしてきた自民党が、茂木幹事長の代表質問でいきなり外すべき提案をしたのだ。かつて自民党は2009年の民主党政権が誕生し、一番の目玉政策であった「こども手当2万6000円」所得制限なし、に対してバラマキだ、金持ち優遇だと罵詈雑言を投げかけたのがウソのよぇな発言に、議場が一時ざわついたようだ。(その後、民主党のこども手当は財源難から13.000円と半減)

さすがに、この転換に対して当時こども手当担当大臣であった長妻政調会長は、「開いた口が塞がらない、どの口でしゃべっているのか」と「報道1930」の中で批判していたが、まさにその通りだろう。

統一自治体選挙を意識する自民党、小池都知事の先制パンチ効果

なぜ茂木幹事長は昨年秋に改正までした所得制限を今になって外そうとしたのだろうか。おそらく、4月に予定されている統一自治体選挙向けに打ち出したのだと思わざるを得ない。既に、東京都の小池知事が、所得制限なく高校生まで一人月額5000円支給を打ち出し、劣勢が伝えられる都議会議員選挙での「都民ファースト」を支援することも意識されていたのだろう。また、東京都は出生率が全国最低の1.08であり、何とか汚名挽回を込めているのかもしれない。自民党として、自分たちだけが取り残されてしまうと意識したのだろう、いつものように「鵺」的な性格が如実に出ているのだ。

そもそも所得制限を考える際に、所得が正確に捕捉されているのか、という大問題がある。マイナンバーで金融所得や事業所得の正確な把握が必要になることは言うまでもないが、その点は所得制限論議の際にはほとんどだれも問題視していない。

社会保障収入でなく支出に所得制限を掛けることの是非を問うべき

そうした不公平性の問題もさることながら、今回のような社会保障による現金給付において所得制限を付けることの是非について考えてみたい。社会保障財源には社会保険料と税が挙げられるが、社会保険料は年金・医療・介護といった人生が直面するリスクに対して、保険料拠出して防衛するためのものであり、財源は主として所得比例で拠出されている。所得税のような超過累進制度ではないが、上限付きの所得比例で徴収されている。一部企業負担も加味されているが、中小零細企業や非正規労働者などは企業からの負担はない。高額所得者にとっては、保険料では所得に比例して拠出しているわけで、社会保障給付を受ける際には拠出した保険料に関係なく同質のサービスを受けることが当たり前の考え方だと思う。

皆保険制度の持続可能性は重要で、国民の分断は避けるべきだ

ところが財源不足から、社会保障サービスを受ける際にも、所得に応じて負担が増加させられているわけで、保険の原理から逸脱しているとおもう。よく考えなければならないのは、国民皆保険制度を維持していくためには、高額所得層まで含んだものにしなければならないわけで高額所得層が離脱していかないように努力していく必要がある。それだけに。所得制限を付けないで運営し、必要な財源は保険料拠出や税でしっかりと負担を求めていくべきだろう。財源不足が深刻であるだけに、所得制限に向かいがちではあるが、ここは制度をどう維持していくべきなのか、しっかりと議論して欲しい点である。

所得税の「N分N乗方式」の提案は問題があり、慎重に対処を

少子化を巡って代表質問の中で出てきた新しい問題に、所得税に関する「n分n乗方式」の問題がある。詳しくは、次回に譲りたいが、世帯所得全体を世帯人数全体で分割し、税負担を決めていくやり方で、確かに子供の多い世帯には有利だが、むしろ高額所得層に有利で共稼ぎ世帯が多いサラリーマン中間層には不利だと言われている。それだけに、しっかりとした議論を展開して欲しい問題である。

「少子化」問題の背後にある「新自由主義」経済政策思想が問題だ

少子化を考えるとき、韓国(出生率0.8)、中国(1.2)、日本(1.3)が共通して低くなっていることに注目したい。儒教圏であるが、それだけではなく教育における競争の激しさに目を向けるべきだろう。最新の『週刊東洋経済』で「中国動態」というコラム欄に益尾知佐子九州大学教授の「新型の『挙国一致』に乗れぬ若者たち」と題して最近の中国の若者たちの動静を分析されている。その中で、「少子化が突き付けた白黒」として中国が一人っ子政策を辞めても人口が減少したことを指摘され、次のように分析されている。

中国の人口減少の背後にある「無限競争社会」の齎す社会の疲弊

「問題はその原因だ。出生率には前年の社会動向が影響する。すなわち、16年に始まるトレンドの主因は、米中貿易戦争や新型コロナ流行による経済見通しの悪化ではない。むしろ若者は、幼少時から続く無限競争に疲れ果て、次世代を無理して生み育てることに意義を見出せないのだろう。中国の若者は、国家進行を望まないわけではないが、個人のささやかな幸せをより重視する。劇的な少子化は、家庭を持つことに夢を抱けない彼らが、習政権の統治に投じた白表と言えよう」(29頁)

日本や韓国における受験競争の激しさ、アメリカも奨学金地獄

韓国でも、大学受験に向けての激しい競争が繰り広げられているようだし、日本においても、首都圏では有名中学受験に向けて小学校低学年からの学習塾通いが進み始め、月10万円を超すような授業料を負担しているとのことだ。経済の自由な競争が齎した格差社会、今や子供の教育分野にまで進出し、よい雇用につくためには有名大学へ、そのためには有名受験中学へと競争は激化しているのだ。新自由主義的な政策思想が齎した今の現実、日本だけでなく韓国や中国も同様だろう。いやアメリカでもそうなのだ。そこにこそ、目を向けていくべき時だと思う。


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