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労福協 活動レポート

2023年2月6日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第279号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

日銀新総裁人事、2月提案へ、新総裁の下、金融政策転換は必至か

次の日銀総裁は誰になるのだろうか。岸田総理は2月になれば候補者を内定して国会同意人事に向けた作業に入るとのことだが、一説には2月9日に具体的な名前が出てくるとの情報もあり、誰が総裁なるのかいろいろと噂されている。(以下、マスコミや情報誌関係から見た日銀周りの状況)

黒田総裁が財務省出身だったので次は日銀内部から、というあたりは一致しているが、雨宮副総裁、中曾前副総裁あたりが有力視されていた。ところが、雨宮氏は何故か強く固辞されているとのこと、中曾氏は2日の講演の中でAPEC諮問委員会の金融会議議長に就任したことを自ら明らかにされており、総裁のめが無くなったのではと見る向きもあるものの、いやそれとこれは別だとの意見も出ているようだ。案外、元副総裁だった山口広秀氏当たりになるのかもしれないが、こればかりはなかなか予想できない。最近になって山口元副総裁が、民主党の野田政権から安倍第二次政権へ移行する際、政府と日銀の「共同文書」策定に慎重だったとの議事録が公表され、日銀の独立性に対するしっかりとした姿勢を評価する向きもあるのかもしれない。いずれにせよ、日銀の金融政策が新総裁の下でどうなっていくのか、総裁候補の名前が具体化してくると再び大きな関心を呼ぶことは間違いない。

白川前総裁、朝日新聞紙上で黒田日銀10年間の異次元緩和を総括

すでに、この「通信」第455号でも紹介したように、白川前総裁がこの間の日銀の金融政策について『週刊東洋経済』で10ページにもわたる長大論文「政府・日銀『共同声明』10年後の総括」を明らかにしておられ、それがこれからの日銀の進むべき道を論議する際のベースになるものではないかと私自身は思っている。白川前総裁は、その後1月31日付朝日新聞の「オピニオン&フォーラム」でのインタビュー記事『異次元緩和 費やした10年』でも、大枠『週刊東洋経済』論文と同趣旨の内容を解りやすく語っておられる。特に、今回の朝日新聞のインタビューで総裁在任当時、最も厄介だったのが「日本の低成長の原因はデフレに在り、日銀の大胆な金融政策で解消できる」という議論が日本社会を席巻していた「時代の空気」であったことを指摘されている。

「時代の空気」、背後に「アメリカの経済理論」の影響力支配を指摘

その背景にはアメリカからの影響があり、「中央銀行が2%の目標を掲げれば人々の期待が変化して実際に2%になる」という、誠に奇妙奇天烈な理論が日本に影響を与えていたことを指摘されている。それだけアメリカのソフトパワーをひしひしと感じたとのことだ。確か、ルーカス教授やクルーグマン教授らが指摘していたのではないかと記憶するが、元財務長官だったサマーズ教授も金融の量的拡大でインフレを作り出すことはできなかったと「貨幣数量説の間違い」を述べていることにも言及されている。是非とも、こうした理論的な間違いを日本の経験に基づきながら指摘し続けて欲しいと思うばかりである。(前回紹介した『週刊東洋経済』1月21日号で、コラムニスト野村明弘氏が書かれた『日銀を振り回した主流派経済学の蹉跌』でそのあたりの状況が詳述されていた)

吉川洋東大名誉教授のルーカス批判、中央銀行の金融政策に浸透

そう考えていた時、毎日新聞社の『週刊エコノミスト』誌1月31日号で吉川洋東京大学名誉教授が『経済学を不毛な知的遊戯に変えた『ルーカス批判』を批判する』と題する小論が目に入ってきた。ケインジャンとして名高い吉川教授がM,フリードマンに続くケインズ批判の先頭に立ったR,ルーカスが、ケインズ経済学を粉砕したことへの鋭い怒りを込めた批判を展開されている。この小論の最後で、ルーカス氏が「合理的期待」という概念を最大限活用(誤解を流布した)事に言及され、今ではルーカスの理論を支持する経済学者は皆無だと断言されている。

そのうえで、ルーカス理論は「あだ花」ではあったが、「期待」の役割を強調する経済モデルの流行はいまだに消えておらず、「期待に働きかける金融政策」がどれほど政策運営を混乱させてきたか、と厳しい。この考え方に基づいた黒田総裁下での10年余りの金融政策にも言及され、その考え方は日銀だけではなく多くの中央銀行にも適用されていたと指摘。ただ、よく考えてみると、金融緩和という視点から見た時、黒田総裁以前の90年代のバブル崩壊以降の日銀の金融政策にも問題があったことを指摘せざるを得ないのではないだろうか。もちろん、もう一つのマクロ経済政策の柱である財政政策にも問題があったことは言うまでもない。

1月の日銀金融政策決定会合、時間稼ぎの「共通担保オペ」導入

一方、今年に入って初めて開催された日銀の政策決定会合では、政策としては現状維持を全会一致で決定したわけだが、「共通担保オペ制度」を導入した。この「共通担保オぺ制度」なるものは、金融機関が日銀に差し入れた国債や社債を担保に日銀が資金供給するもので、これまで10年物の長期金利だけを抑えることから、幅広い年限で国債利回りの上昇を抑え込むのがその狙いのようだ。これがどう機能するのかまだ良く判らないようだが、国債の年限によっては金融機関が提出できる国債不足が出始めているとのことで、所詮は時間稼ぎでしかない代物のようだ。再び0.5%の上限金利を上回るような投機が増加すれば、黒田総裁10年の最後となる3月の政策決定会合で、変動幅をさらに拡大させることに追い込まれる可能性も十分ありうるわけだ。

新総裁の下で、物価2%目標の中期化、マイナス金利やYCC政策の転換へ、「どうするリフレ派政策委員」

新総裁になれば、おそらく2%の目標は中長期的なものに転換させられ、マイナス金利の解除やイールドカーブコントロールなどが徐々に廃止される可能性が大きいのではないかと私自身はみている。というのも、日銀出身の民間エコノミストの方々のマスコミでの発言などを見ても、それらの問題点を指摘されているし、1月30日には「令和臨調」が緊急提言した中でも指摘されているようで、黒田総裁やリフレ派の頭目と見られていた岩田規久男元副総裁や安倍元総理から任命されたリフレ派の政策委員以外はほぼ認めるのではないかと思っていた。

だが、最新の『週刊東洋経済』のコラム「マネー潮流」で、野村総研のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏は、1月26日の政策決定会合で「YCCの継続、金融緩和の継続を揃って支持している」政策委員が、4月以降の政策転換を支持していくのかどうかについて、「現在の政策委員については、総裁および執行部の方針を受け入れる傾向が強いとみられる」とみて、混乱することなく政策が転換されていくことを予想されている。木内氏もかつて日銀の政策委員だったわけで、日銀内部の「政治」の動きをよく理解されたうえでの予測なのだろうが、なんとなく部外者にとっては良く判らない世界なのかもしれない。

注目したいニュース・記事
【日経新聞(電子版2月5日)の「霞が関ノート」に「霞が関を驚かせた『権丈案』 少子化対策財源で有力視」】

岸田政権が内閣の最重要課題として提起する「少子化対策」にとって、最大の問題は何と言っても財源問題だろう。全世代型社会保障構築会議においてこの問題で年金や医療などの社会保険から少しずつ拠出して資金を集める案が政府内で浮上している事を取り上げている。この「霞が関ノート」を書いた千葉大史記者が注目したのが慶応義塾大学の権丈善一教授であり、「子育て支援連帯基金」ということで同会議の中で提案されているものだ。要は、「年金、医療、介護保険は、自らの制度の持続可能性を高めるために、子育て費用を支援できるように」することを提起されている。世界でも初めての内容のようで、霞が関の縦割りの世界では出てこない貴重なアイディアなので、ぜひとも実現させていくべきだと思う。かつて自民党内では、小泉進次郎議員が「こども保険」の導入というアイディアを提起したことがあるが、あまり広がっているようには見えない、是非とも『権丈案』を実現させてほしいものだ。今年の骨太の方針にどう結果が反映させられるのかが最大の焦点になるのだろう。ひょっとすると、解散・総選挙での重要な争点になることも予想されるだけに、注目したい。


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