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労福協 活動レポート

2023年4月10日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第288号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

黒田日銀総裁10年、退任会見で「異次元緩和成果あった」と総括

4月8日、日銀の黒田総裁が10年という史上最長の任期を終え、8日が土曜日で休館となるためか、退任前日の7日に最後の記者会見を実施した。冒頭に「大規模な金融緩和は様々な効果を上げた。政策運営は適切だった」と10年間を総括し、「物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなった」と成果を強調した。とはいえ、10年間の異次元の金融緩和で「黒田バズーカ砲」とも称された大規模緩和政策にもかかわらず、当初は2年間で2%という物価目標の達成は、10年経っても実現できなかったわけで、「残念である」と語る一方、今年の賃上げが3%台になっていることにみられるように「ノルムは明らかに変容しつつある」とも指摘している。黒田総裁を任命した故安倍総理がよく使っていたフレーズでいえば、「物価目標2%は道なかば」ということなのだろうか。かなり強気の記者会見で幕を閉じたと言えよう。

非伝統的金融政策は世界の経済学者・中銀総裁が認めたと自賛

こうした成果は強調したものの、副作用については言及されなかったし、記者が「出口戦略」について言及しても、相変わらず「時期尚早」と答えていたことが印象的であった。安倍政権と歩調を合わせ、「3本の矢」の「第一の矢、異次元の金融緩和政策」は、安倍総理亡きあとも続けられてきたわけで、どう黒田日銀の10年間を総括すれば良いのか、重要な課題と言えよう。私自身、これまで異次元の金融緩和政策については批判的に捉えてきたわけだが、黒田前総裁が記者会見で述べているように

「非伝統的金融政策についての理論的・実証的な評価はこれからおこなわれることと思う。ただ日本はデフレではない状況になり、欧米でも長く続いた金融危機を克服した。非伝統的金融政策の効果はあったと、ほとんどの世界中の経済学者が認めており、欧米の中銀総裁たちも認めている」(日経新聞からの記者会見要旨から引用)

という見方もあるわけで、しっかりとした総括の中から次の金融政策の在り方についての正しい教訓を掴んでいくことが重要になっていると思う。

河村小百合著『日本銀行』(講談社現代新書)は、黒田日銀を鋭く批判

最近読んだ本に、金融政策を専門とするエコノミスト河村小百合日本総研研究員が書いた『日本銀行 我が国に迫る危機』という講談社現代新書があり、アマゾンランキングでは国際経済カテゴリーの売れ筋ランキング第1位となっているようだ。河村氏は黒田日銀による異次元金融緩和政策がもたらしたものは、GDPの半分を上回る膨大な国債の購入であり、金融機関から購入した国債は日銀の当座預金に膨れ上がってきており、金利上昇があれば日銀勘定が債務超過に陥ってしまい、最悪の場合は新規国債発行ができなくなり歳出の4割カットという凄まじい財政再建策を余儀なくされること等を指摘。それを阻止するためにも異次元の金融緩和政策を辞めさせていく必要があることを強く主張されている。まさに、黒田日銀への挑戦状をたたきつけた著作と言っても過言ではない。特に、欧米の中央銀行と比較して、日銀の市場との対話の在り方など金融政策の舵取りの具体的な違いなどにも言及され、今後に向けて大きく改革すべき点を強調している。新書版であり、きわめて解り易く問題を指摘した著書と言えよう。

ブランシャール著『21世紀の財政政策』(日本経済新聞出版刊)、
日本のマクロ経済政策に「一応の成功を収めた」と見る

本来であれば、河村氏の批判される点を指摘して、次の植田日銀総裁に託して改革していくべきことを主張すれば済むのではないか、と思っていた。だが、最近出版された『21世紀の財政政策』(日本経済新聞出版刊)という本を購入して読み始めたとき、黒田日銀前総裁の進めてきた異次元の金融緩和政策について、マクロ経済政策の在り方としてもう少し考えていくべきことがあるように思えてきた。著者はオリビエ・ブランシャール氏で、かつてIMFのチーフエコノミストとして活躍されていた世界的に有名なエコノミストであり、アメリカのハーバードやMITなど教授職を経験してこられたマクロ経済学者でもある。現在はアメリカのシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所シニアフェローとして活躍中である。残念ながら、未だすべてを読み終えていないので、詳しく書評を書くことができないのだが、この本の「日本語版への序文」を読んで、ブランシャール氏がこの本を書くきっかけとなったのが日本の現実があったからだと冒頭に記載されている。すなわち、
 「巨大な貯蓄と低迷する投資、それによって慢性的に需要が低迷する国において何が起こるのかということを示した最初の例が、1990年代初頭よりそれを経験した日本であった」(1ページ)と述べておられる。われわれが「失われた30年」と述べている背後に何があったのか、ブランシャール氏はIMFに在籍されている時に日本経済が陥った深刻な問題を調査・研究し問題提起をされ続けてきたわけだ。

低成長・低金利の下で金融政策よりも財政政策の重視を強調へ

結論から言えば、世界の先進国・地域であるEU、日本、アメリカについて、リーマンショック以降陥ったアメリカEUの経済的な低成長と低金利が、90年代の日本に引き続いて見られるようになったことに着目され、一時的なインフレという混乱はあるものの、これからの先進国経済が必然的に陥るトレンドだと予測されている。すなわち、金融政策によって経済的な停滞から脱却することは不可能であり、財政政策による経済政策を重視していくべきことを強調されている。

そして、その財政政策について、アメリカはコロナ対策として財政規模が過剰すぎてインフレを招いていること、EUはリーマンショックを受けて財政の規律を重視した緊縮政策の行き過ぎを経験したことを挙げ、日本こそは金融の緩和と並行して財政政策を適度に採用した国として評価されている。われわれからすれば、GDPの2.6倍もの巨額の財政赤字を累積させていることについては、単に財政赤字の総額だけでなく資産と相殺した純債務を見ていくべきだし、何よりも経済成長率gが、金利rよりも大きいこと、すなわちg-r>0という事へ視点を当てるべきであり、確かに公的債務の総額は大きいとしても、成長率の方が金利より高い伸びを示していることで財政発散は防ぐことが可能だし、それを前提にしてこれからのマクロ経済政策を進めて行けば良いという指摘をされている。果たして、そうなのだろうか。

ピケティ教授とは真逆の判断をブランシャール氏、g>rとg<r

かつて、同じフランス人の経済学者であるトマ・ピケティ氏が『21世紀の資本』のなかで、g―r<0が先進国では一般的(確か50年単位で計測)なのであり、経済政策を考えるうえでそれを前提にしなければならないと指摘されていた。果たしてどちらが正しいのか混乱してしまうのだが、今後ブランシャール氏が指摘されていることが中・長期的に正しいのか、ピケティ氏が正しいのか、それこそ注意深く見極めていく時に来ているのではないだろうか。

いずれにせよ、ブランシャール氏は日本のマクロ経済環境の下で、財政金融政策としては一番「適切」な道を歩んできたと認めているわけで、黒田前総裁が世界では異次元の金融緩和政策が認められていると記者会見で胸を張っているのには根拠があると言えるのかもしれない。ちなみに、ブランシャール氏は、公共部門への財政支出に当たって社会保障分野での支出の増加なども効果があることなど、マクロ経済学的な観点から再分配政策を重視すべきことなども指摘している。また、高水準の債務を抱えているだけに、需要を維持するために財政赤字以外の方法を考えることは優先課題だとも指摘している。岸田政権にとって、大いに参考にしていくべき視点ではないかと思う。

そうは言っても、これから日本経済が直面しているマクロ経済環境は、それほど安泰であり続けるのだろうか。毎年のように赤字国債を大量に乱発し、貿易収支の赤字もさることながら経常収支の赤字への転落など、日本経済の落ち込みが財政赤字の重圧に耐え続けられるのかどうか、まことに危ういと常識的には考えられるのだが、どうなのだろうか。ブランシャール氏の新著は「論文」というよりも「エッセーに近い」モノだと述べておられるように、比較的読みやすいものとなっている。一読を進めたい。

いよいよ黒田日銀から植田日銀へと主役が交代するわけで、これからどんな金融の舵取りに向かうのか、世界の目が注がれている。

【囲碁雑感 本因坊戦の規模縮小は残念】

囲碁に関心があり、最近では大学の退職者仲間で時々囲碁の手合いをしてもらっている。今回は、あまり良い話ではない囲碁界の話。

毎日新聞社が戦前から続いている本因坊戦で、来年から規模を縮小することになるとのこと。これまでは2日間で7回戦だったものを、1日打ち切りで5回戦とするもので、しかもリーグ総当たり方式からトーナメント方式に切り替え、賞金総額を2800万円から850万円に切り下げるとのことだ。プロ棋手はもちろんだろうが、囲碁ファンとしても由緒ある本因坊戦だけに何とかこれまでのレベルでやって欲しいと思う。だが販売部数が激減している今の新聞業界の状況からすれば、やむを得ないかもしれない。状況が好転すれば、元の姿に戻すこともあるとのことだ。

残る2日間制のタイトル戦は、朝日新聞「名人戦」と読売新聞「棋聖戦」の二つとなる。両新聞も部数が減っており、何時まで維持できるか心配ではある。ちなみに、今の本因坊は井山裕太、名人は芝野虎丸、棋聖は一力遼の各氏である。


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