2023年5月1日
独言居士の戯言(第291号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
植田日銀、初の政策決定会合スタート、先ずは安全運転から始動
いよいよ植田日銀の仕事が始まった。総裁就任後初めての政策決定会合が4月27~28日に開催され、黒田日銀時代の金融政策を変えることなく継承して行くことでスタートした。総裁が交代することで、イールドカーブコントロール政策を変えるのではないか、とかETFのような露骨に株価を支える政策は辞めるのではないか、といった様々な予測があったが、先ずはこれまでの政策を踏襲することから始めたようだ。
もっとも、これから1年半かけて1990年代末からの4半世紀にも及ぶ金融政策の検証を行うことを明言しており、予想以上に時間をかけての政策転換を模索しているようだ。そんなに時間をかけて検証していくことで大丈夫なのか、植田新総裁は検証している間でも必要な改革は進めていくと明言。ETFという株式購入ぐらいは、そろそろ中止して市場の株価形成から距離を置くべきではないかと思うのだが、何も触れられていない。もちろん、REITの購入についても中止が当然のことだと思う。一方で、黒田日銀の異次元緩和政策がもたらした副作用の存在を認めておられるが、日本経済新聞紙上の記者会見要旨を見る限り、何が副作用なのか明確にした質疑応答はなかったようだ。もっともこの点は正確な記者会見議事録を確かめて見る必要がある。
原真人朝日新聞編集委員、新総裁の記者会見のやり方の変化に言及
他方で、今回の政策決定会合を終えた植田総裁の記者会見では、これまでの黒田総裁時代とは変化したことを、朝日新聞の原真人編集委員が29日付の「デジタル版」で明らかにしておられる。題して「政策も答弁も、未だ安全運転 植田新総裁の会見、黒田氏との違いは?」という表題だ。その中で先ず黒田総裁時代にコロナ禍に対応するため、2020年からは140席ほどの記者席がありながら、なんと30席に減らされてきた。日銀記者クラブ加盟社でも原則各社1名に制限、追加で若干名が認められる程度だったようだ。それが、今回から50席へと拡大され、メディア各社2人という制限はあるが少し拡大されたことは事実である。コロナ禍がインフルエンザ並みに引き下げられたわけで、以前と同様140席フルに使っての記者会見に戻すべきだと思うが、意外に慎重であることがわかる。
黒田総裁時代の記者会見、質問者の指名が総裁独断で決まる異常さ
それよりも重要だと思ったのは、黒田総裁時代には質問者を総裁自身が指名するやり方を取ってきたわけで、この記事の中での指摘を読む限り、原真人氏には手を挙げていても指名されないことが続いていたとのこと。その点今回の記者会見では、時間の制限はあったものの、質問者の指名を総裁ではなく日銀の広報担当に委ねるようになったようだ。植田日銀のスタートとしては、まずは安全運転からスタートしたと原編集委員は見ておられ、黒田日銀時代との変化が進んできたことをやや好意的に評価されている。
その判断を確かめるように、原編集委員は記者会見の場で植田新総裁に次のような質問をしておられる。
「前任の黒田総裁は未だ質問の手が挙がっていても会見を途中で打ち切ったり、特定の記者を指名しなかったりという運用をしばしばしていた。植田総裁は今回、黒田総裁時代とは違う運用をしているが、どういう姿勢で臨むのか?」
植田総裁の答え、
「基本姿勢としてはなるべく丁寧にわかりやすく、ということだ。特定のメディアや個人を排除することは全く考えていない。その上でどこまで(会見の)時間を引っ張るかについては皆さんの時間も私の時間もあるので相談させていただきたい。今日は大まかに1時間をめどにということで始めた」
黒田総裁時代にそんなやり方で記者会見が実施されていたことを知らなかっただけに、植田総裁になって変わった事には好意的に受け止めるべきなのだろう。でも、それって当たり前のことだと思うだけに、黒田時代の異常さが改めて浮かび上がってくる。
日銀独立性強化以降の総裁への温かい眼差し、黒田総裁へ言及ナシ
原編集委員は、日銀法による独立性が強化されて以降の日銀総裁のうち、速水優総裁、福井俊彦総裁、白川方明総裁について特徴のある説明ぶりに言及。速水氏は誰であろうと歯に衣着せぬ「円高容認論」を、福井氏はユーモアを入れた自由で柔らかい説明ぶり、白川氏は理論家として中央銀行の誇りにこだわりぬいたと、それぞれの総裁の個性に魅力があったこと指摘。「植田総裁には異次元緩和を早く正常化させるとともに、熱気を帯びた会見問答をぜひ期待したい」と結んでおられる。黒田総裁については言及されていなかった。
私自身が国会での質疑を通じて速水総裁との質疑が一番多かったと思うのだが、国会という場で自分の思っていることがなかなか理解してもらえないもどかしさを表情にあらわされることもしばしばで、セントラルバンカーとしての気骨を十二分に発揮された総裁で、今では懐かしい思い出である。
番外編【政治の流れはどこへ向かうのか】
統一自治体選挙の後半戦と5つの衆参補欠選挙の結果が出て、「維新」が前半戦の伸びをそのまま維持して和歌山1区の衆議院補欠選挙で勝利し、その他の4選挙区は自民党が4勝するという結果となった。何よりも投票率の低下が極めて低く、すべての選挙区で50%以下でしかない。そういった盛り上がりを欠いた選挙ではあったが、結果は自民党の勝利なのであり、立憲民主党は大分選挙区での議席を維持することができなかったわけで、敗北したことは明らかであろう。特に、今まで参議院の議席を得ていたこと、野党の選挙協力が出来上がって自民党候補との一騎打ちにもっていくことができたことなど、その敗北は統一自治体選挙の北海道知事選挙と同様、今までの野党共闘の在り方に一石を投げかけているのではないかと思われてならない。
藻谷浩介日本総研主席研究員のコラムに注目、政界のこれから
そうした中で、今度の統一自治体選挙と衆参補欠選挙の結果を受けて、藻谷浩介日本総研主席研究員の毎日新聞4月30日付の定期連載オピニオン「時代の風」欄に、「政権交代望めぬ自民政治 脱・既得権、地方の手で」と題するコラムが目に留まった。いろいろな指摘がされているわけだが、私と同じように考えておられるのが次のくだりであり、今後の政界の大きな流れがこうした方向に進むことを願ってやまない。なにせ、今年の中央メーデーに岸田総理が出席して、「賃上げに自ら先頭に立って取り組む」と絶叫している自民党の総理大臣を見る限り、どう見ても維新よりも労働界に近い存在であることは確かだろう。
「折々に既得権を壊して洗浄せねば、国も会社も衰える。清話会(安倍派)+維新と、宏池会+国民民主党+立憲民主党のような仕切りで、政権を担える政党が併存する形が日本にはあっているはずだ。『不安定化は嫌』と、政権交代から逃げた先にこそ、動脈硬化の末の老衰死が待っているのだ」
リベラルと保守の違いに焦点を当てておられ、その通りだと思うだけに何とかそうした政治戦線構築に向けた努力が進んでいくことを期待したいものだ。「令和臨調」には、あまり期待できそうには思えないが、では一体だれがそのリーダーシップを取るのだろうか。やはり労働組合だと思うものの、「連合」がその力を発揮できるのかどうか、今後の動きを注目していきたい。