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労福協 活動レポート

2023年5月8日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第292号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

G7広島サミットへ、岸田外交は歴史に残る成果を上げられるのか

ゴールデンウイークも終わり、当面の政治は19日から始まるG7広島サミットに焦点が当たろうとしている。サミットで主役を務める岸田総理は、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談をなんとかこなし、数少ない外交機会を利用して連休中アフリカ4カ国への訪問を終えて帰国したようだ。同時に、林外務大臣も中南米を歴訪し、サミット成功に向けてグローバルサウスへのアプローチを強化するべく努力してきたわけだ。果たして、どれほどの国がG7広島サミットの存在感を認識できたのかどうか、盟主であるアメリカによる宿題だけはなんとかこなしてきたのが現実なのだろう。世界の課題は難問山積の中での開催でありどんな成果が生まれるのか、急を要するロシアのウクライナ侵攻に向けた停戦合意の努力など、今のところ広島サミットからは大きな期待は生まれそうにはない。

中国の影響著しい中東産油国への訪問が無かったのは何故なのか

今回訪問のグローバルサウスのうち、中東の産油国を中心にした国々は何故対象にならなかったのだろうか。今年の3月、イランとサウジアラビアが中国の仲介で国交正常化への道を切り開いたことの衝撃は、全世界に驚きをもって迎えられたに違いない。これまでは湾岸地域で圧倒的な影響力を持っていたアメリカが後景に退き、新しく世界史の中で台頭著しい中国によって和平が実現したことの意義は実に大きい。それだけに、日本がG7の議長国として中東の国々を訪問することの必要性が高まっていたのではないのだろうか。それとも、アメリカからの要請がなかったというより、逆鱗に触れるため忖度したということなのだろうか。

連休中に届けられた5月号の『フォーリン・アフェアーズ・レポート』には、「中国と中東 中東における米中の役割」と「中東秩序の分水嶺 イラン・サウジの和解と米中戦争」の2本の論文が寄稿されていた。いずれも、その衝撃が大きかったしアメリカにとって大きなショックだったと認めている。最初の論文では、その要約として次のように整理している。

「2023年3月のイラン・サウジ国交正常化合意は、中東全域に前向きな衝撃を与えるであろう。中東での外交的仲介をめぐって、今回、中国が主導的役割を果たしたことは注目に値する。ワシントンの戦略的間違いが、イランとサウジの双方に信頼される数少ない大国の一つとして中国の台頭を促した。カーター・ドクトリンを封印したトランプがサウジとイランとの外交に向かわせ、バイデンの人権外交が、中東における仲介役としての中国の台頭に道を開いた。中国の安定性は、イラン、イスラエル、サウジと良好な関係を維持しこの三国間の争いに完全に中立を保っていることによって生まれている」(22頁)

かくして、イラン・サウジ合意は、北京にとっての外交的勝利だ、と結論付けているのだ。あれだけ憎しみあって軍事的な対立にまで及んだ両国(イスラエルまで)が、アメリカのくびきから離れて和平への合意を進むことを、世界のグローバルサウスの国々の指導者たちは、仲介役としての中国に対する畏敬の念を持つことは自然の成り行きであろう。と同時に、そうならざるを得なくしたアメリカのトランプ、バイデン両大統領の支離滅裂ともいうべき外交政策の間違いが白日の下に曝されてくる。

G7という狭い枠に閉じこもっていて世界に影響拡大可能なのか

こうした動きが進展する中で、G7広島サミットの議長役だからと言ってアフリカや中南米へと儀礼的な外交を進めても、大きな効果は期待できないことは明らかだ。世界の中で大きな影響力を持ち始め、対内的には権威主義などあっても国連憲章などを尊守しながら国際社会を取りまとめていこうとする中国を排除して、G7の狭い塊の中に閉じこもってグローバルサウスへの働くかけを進めようとしても、過去の歴史が蘇りますます影響力を失いつつあるのが現実ではないだろうか。ここは世界史の流れを大きくつかんだ新しい外交が求められていると思う。何よりも、国連が安保理の常任理事国ロシアのウクライナ侵攻が、国連では阻止できなかったという事実が重くのしかかってくる。国連システムを乗り越えた国際組織の在り方が展望されなければなるまい。

いつまでも「万国公法の遺伝子」にしがみついていることから脱却を

ここで、わが『通信2号前』で紹介した「万国公法の遺伝子」について紹介したい。あまり耳慣れない言葉だと思うが、幕末から明治維新以降の近代史にとって見逃すことのできない重要な概念である。紹介してくれた松本収氏によれば、「万国公法」というのはアメリカの国際法学者ヘンリー・ホイートンが書いた国際法のスタンダードな教科書で、日本語への翻訳は1865年幕府開成所で、維新後も版が重ねられたという。もともとはキリスト教諸国間だけに通用する「西欧中心主義の国際法」ともいうべきもので、非欧米諸国に対して非常に過酷で、欧米の植民地政策を正当化する作用を持っていた。この国際法(万国公法)は、その主権平等を適用するかどうかの基準に「文明国か否か」を置き、文明国=欧米で、欧米文化に近いかどうかで①欧米を「文明国」②オスマン帝国や中国、日本等「半文明国」③アフリカ諸国やカリブ海諸国などを「未開国」と位置づけ、明治維新政府が「反文明国」と位置付けられたため、主権が制限され、アメリカによる不平等条約を砲艦外交で強制されたことを日本史の中で記憶されているだろう。ましてや、「未開国」とされれば、どんなに先住民がいたとしても、「無主の地」とされ、そこが自由に植民地化されたということになったわけだ。

こうした中で、日本は日清・日露の戦争で勝利し、第一次世界大戦後には「脱亜入欧」を成し遂げ、今度はアジアを「反文明」「野蛮」と見立てて、文明国への仲間入り後に第二次世界大戦へと突入したわけだ。(日本の明治維新前後には、琉球処分やアイヌ民族の統合などが強引に進められた歴史も忘れてはなるまい)

台頭著しい中国の存在、どう世界が国際社会での合意できるガバナンスを作り上げることができるのか

こうした流れを見た時、G7での日本の欧米中心主義への復帰路線には、こうした「万国公法の遺伝子」を蘇らせるが如く見えてこないだろうか。まず先進国、続いて新興国、開発途上国または低所得国が連なるわけだ。中国の台頭によって途上国や新興国、低所得国などをグローバルサウスと言い換えたとしても、先進国同盟としての「G7サミット」での唯一のアジアの盟主日本は、「脱亜入欧」という「万国公法の遺伝子」を再び目指そうとしているとしか思えないとみるべきだろう。

アメリカの前に覇権国家だったイギリスでは、チャールズ国王の戴冠式が執り行われた。その王冠には世界一のダイヤモンドの宝石が燦然と輝いているが、その原産地はコンゴ共和国とのことだ。世界の国々の中には、西欧先進国からの植民地化の奴隷制下で呻吟させられた何百年という暗い歴史を経験しているわけで、欧米先進国についての支配者として君臨した歴史の記憶は容易には消し去れないのだ。

韓国・中国、更にはアジアの国々は「歴史の記憶」を忘れていない

ゴールデンウイーク最後の7日には、岸田総理が隣国韓国を訪問するシャトル外交の始まりである。ユン大統領が日本との和解を野党側の反対を押し切って進め、ようやくここまでたどり着けたのだ。日本には1965年の日韓条約締結で国家間の取り決めができているという思いがあるわけだが、『歴史の記憶』は簡単には消し去ることはできないわけで、日清、日露、第一世界大戦の勝利を通じて「世界の一等国」の仲間入りをしたと思い上がった「万国公法の遺伝子」は、残念ながら日本の政治家や経済人などには心の片隅に残存し続けていることの自覚が必要に思えてならない。

それにしても、グローバル化した世界、そのもとで民主主義がどうグローバル化の弊害(地球温暖化や貧富の格差拡大など)を統御できるのか、外交の背後にある根本的な課題にも世界は回答が求められている。日本よ、どうしたら多様化する世界での民主的ガバナンスの在り方への貢献ができるのか、考えて欲しい。


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