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労福協 活動レポート

2023年6月5日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第296号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

昨年の合計特殊出生率1.26と過去最低へ、少子化進展への危機

少子化の流れが止まらない。「合計特殊出生率」が昨年1.26へと低下し、子どもの生まれた数も80万人を下回ったことが国の調査で明らかになった。この1.26という出生率は、過去最低を記録した2005年と同じで、一度は15年の1.44へとわずかに改善したと思ったのだが、コロナ禍もあり再び低下してしまった。少子化のペースは政府が予想した以上に急ピッチで進んでいるようで、人口1億人を割るのは2050年過ぎといわれてきたが、もしかするとさらに早まるのだろうか。こうした人口減少が進むことへの警鐘は、1989年の「1.57ショック」以来毎年のように喧伝されてきたわけだが、歴代政府は、というより政治は、抜本的対策を打つことなくズルズルと今日まで放置し続けてきたのが現実であろう(後出の森田長太郎氏の著書を参照して欲しい)。

6月1日「こども未来戦略方針」(案)の提起へ、社会が子供を育てる社会保障制度へ転換は評価すべきだ

それでも岸田総理は、少子化に対して2030年までが最後のチャンスと捉えて果敢に挑戦、抜本的な対策を打つべく「こども未来戦略方針」案(素案)を6月1日に公表した。今年1月4日の年頭の記者会見で「異次元の少子化対策」と名打って「こども関係財源を倍増」することを打ち出したことが、ようやく一つの方針案にまとまってきたことは、先ずは評価されるべき点だろう。

特に、給付案で目立つのが児童手当の拡充で中学生までの支給から高校生にまで延長し、何と所得制限も撤廃された。社会全体で子供を育てていくことを前面に打ち出していることに注目すべきだろう。この所得制限の撤廃に対して、労使の代表がこぞって反対したと報道されているのだが、その背景には財源として「税ではなく、社会保険料からの拠出金」が打ち出されようとしていることへの「反対論」があるからなのだろうか。それ以外にも高等教育費の拡充も財源面で追加されて、総額では来年度から3兆5千億円にも達する規模へと拡充されるとのことだ。

この案に基づいて、「骨太の方針」に盛り込まれ、来年度の予算編成へと引き継がれていくことになるわけで、これからの政治日程ではいつ解散・総選挙が実施されるのか、政界の動きはこの国会での6月解散なのか、それとも秋なのか、いずれにせよ年内解散へと流れが出来上がっていくのだろう。その前に、本来であればしっかりとした与野党の論戦が期待される。

少子化に真正面から向き合う岸田政権、危機感が齎したのか

これまでの社会保障制度が、年金・医療・介護といった高齢者が多く受益する分野から始まったのだが、ようやく「子育て世代」へ本格的に広がろうとしているわけで、日本の社会保障制度史から見ても、2000年から開始の介護保険制度に次いで大きな改革に一歩足を踏み入れたことは画期的だと思う。それだけ、少子化問題が日本社会にとって国の根幹を揺るがすような大問題だと認識され始めたのかもしれない。これは、人口減による経済大国からの脱落を問題視する立場からすれば、すでに手遅れなのかもしれないが、遅きに失したとはいえ制度論としては画期的なことであり、岸田政権にとっては歴史的なレガシーとなるものと言えよう。

肝腎の財源問題、消費税増を否定、先送りされたことは残念だ

とはいえ、問題は財源問題である。こうした社会保障を社会の中で誰がどのように負担していくべきなのか、それこそが一番重要な問題であるにもかかわらず、「素案」には「2028年までに安定財源を確保する」と記した程度で、新たな負担が何時から、どのくらい必要なのかの具体策が示されていない。結論は年末までに先送りとなり、その間の不足する財源はつなぎ国債の「こども特例債」で賄うとのことだ。兆円単位で必要となる財源を、歳出改革だけで賄えないわけで、国民全体で負担していく必要があり、消費税こそがそれにふさわしいと考えるのが当然のことなのだと思う。だが、政治の世界では「消費税引き上げ」はタブー視され続け、岸田総理も初めから増税の道を絶ってしまっている。

「子育て連帯支援基金」という「権丈案」で進めていくしかない

では、どのように財源を生み出していくのか、社会保障財源の中核で支えている社会保険財源から「子育て連帯支援基金」をつくって安定財源を確保するという「権丈案」で進めていくことしか妙案はないのではないだろうか。社会保険料はそれぞれのリスクを拠出者でカバーしていくのが基本にあることは確かではあるが、年金や介護はもとより、医療にしてもその大半は高齢者が受益をしており、少子化により財源の拠出してくれる子供が少なくなっていること事に対して、個々の保険財源からの拠出金でもって賄うことは十分に正当化されるのではないだろうか。

企業側だけでなく労働側も抵抗しているのは到底解せない

この問題では、企業が雇い主としての保険料を拠出していることから反対論が根強く出ているが、この国の将来の労働力が抱えている根本的な問題を、企業側も十分に認識していく必要性があることを強く望みたいものである。ましてや労働組合が、企業サイド以上に社会保険料からの拠出に抵抗している姿には唖然とさせられる。これでは、日本の社会保障制度から最大の受益者となっている労働者にとって、より広く社会全体を見て判断して欲しいと訴えるばかりである。最近では、年金制度でもおかしな議論が年金制度審議会の中でも開陳され始めたやに聞く。何とも、歯がゆいばかりである。

森田長太郎著『政府債務』で触れられている人口減少問題に注目

実は、最近読んだ森田長太郎さんの書かれた『政府債務』(東洋経済新報社2022年刊)を読んでいて、1990年代以降の日本経済が世界の中て大きく停滞していることに触れ、いくつかの大きな問題点を指摘されている。その問題点をどうリスクマネージメントしていけたのか、その能力こそが問われるべきだと指摘されている中に「人口減少問題」がある。
ずばり森田氏は「日本の実質経済成長率が低い最大の理由は、間違いなく人口減少にある」(321頁)と述べ、世界の先進国の実質経済成長率の伸び率の違いも、基本的には生産年齢人口の伸び率の違いでほぼ決まってくるとまで言及される。

既に人口減少問題を止められる時期は失しており、
これからは「経済大国」から「経済小国」への道しか残されていない現実

私が特に注目したのは、この人口減少が食い止められる時期を既に失しているのに、日本の政府はそれに対する的確な政策を打ち出せないままに来ていることを取り上げ、もし人口減を食い止め「経済大国」を維持していくためには大規模な移民の受け入れをする以外にないこと、移民を受け入れないのなら「経済大国」から「経済中国」さらには「経済小国」としての生き残りを目指す以外にないことを提言されている。こうした厳しい選択を現在の政治リーダーたちはみな回避しようとしているのではないか。

「少子化対策」への抜本的な対策を怠った政治(家)の責任は重い

「1.57ショック」以降の80年代以降、本質的な問題を先送りしてきたことが未だに変わっていないと結論づけておられる。岸田総理が異次元の少子化対策と名打って抜本的な改革を打ち出そうとされていても、それは30年以上も遅すぎたわけで、この間の遅れは決定的だったと見ていい。特に、90年代末以降の4人の総理の名前(橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎)を上げ、「不作為の罪」があったとまで指摘される。
私自身に振り返ってみたとき、1992年に初当選して以降、人口減少問題は大問題だと頭では理解していたとしても、日本の根幹を揺るがすような大問題であるとの認識には至らず、今日の状態に陥った事への「政治的な責任」の一端があることを甘受しなければならないと思う。それだけに、今回の動きが実現できるように心より願うばかりである。


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