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労福協 活動レポート

2023年8月21日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第306号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

中国経済も「日本病」に罹ってしまったのか、不動産バブルの崩壊

お隣の中国経済がおかしくなり始めているようだ。中国最大の不動産企業グループ恒大産業が、アメリカ連邦政府に破産法15条に基づき申請をしたことが報じられている。これまで住宅をはじめとする不動産投資がけん引する形で世界第2位の経済大国へとのし上がってきた中国経済も、ここにきて停滞を余儀なくされている。かつて日本経済も、1980年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と世界を席巻してきたのだが、80年代後半からは土地バブルが広く蔓延しやがてその崩壊へと突き進んで今日に至っている。バブル崩壊直前までは「土地神話」があり、土地価格が下落しなかったし、土地さえ持っていれば何とかなると信じていたことが脆くも崩れ去り、その後金融危機を経てデフレ経済へと移行し、低成長時代に移って今日に至っている。世の人たちはそれを称して「日本病」と呼ぶ。

中国も、日本と同じ道を歩んでいて、「日本病」に陥り始めたのではと噂され始めており、不動産さえ持っておけば何とかなると思い込み,利用するためではなく投資で儲けるために信用が肥大化したと見られている。「不動産神話」が崩壊へ、人口減少もかつての「一人っ子政策」注視があっても少子化が続き、日本以上の少子化に直面しているとのことだ。今後の中国経済がどう展開するのか、前途はなかなか見通すことが難しくなり始めている。土地の実質的な所有権が地方政府にあったこともあり、中国特有の権威主義的な市場経済をどう舵取りできるのか、その与える影響が大きいだけに世界が固唾を飲んで見守っている状況にある。

日本経済は再び成長率を高め始めたのか、GDP速報値の異常さ

そんな中国経済の落ち込みを横目で見ながら日本経済の今を見てみると、これまた前途は決して明るいものとは言えない。停滞する経済の姿がより明確になりつつあると言えよう。

8月15日に内閣府が発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値によれば、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期(1~3月期)比1.5%増、年率換算では6.0%という異常に高い数値を示していた。もっとも、GDP統計の速報値はその後いろいろと修正が加わり、確定値になるとプラスだったデータがマイナスになったりすることも多く、あまり速報値に一喜一憂すべきではない。ただ今回の場合は実質で年率6%、名目ではインフレもあって年率換算12%という数値の高さに目が向き、その中身について知りたくなった次第である。これまで、日本経済の潜在成長率はせいぜい0.5~1.0%と見ていただけに、6%という数値の高さは異常値ではないかと思ったわけだ。

内需の低下、高いと思った賃上げも、実質賃下げで消費の停滞へ

GDP統計の中身を見てみると、成長の主力となるべき内需は個人消費も前期比マイナス0.5%と落ち込み、設備投資も0.03%と横ばいに留まってしまい、経済を牽引すべき内需が振るわなかったことは間違いない。今年春の賃上げが約3.5%引き上げられたのだが、定昇(約2%程度)を差し引くと1.5%程度でしかなく、消費者物価上昇率3%台を考えると実質的には賃下げになったのではないか、それが内需を停滞させているわけだ。あれだけ総理や経済界も含めて賃上げをうたったにもかかわらず、現実にはこの程度での賃上げでしかない。来年の春の賃上げに向けて、どう賃金を引き上げていけるのか、その前に年末のボーナスの引き上げも含めて労働側は勝ち取って欲しいものだ。

労働力稀少社会へ突入、連合はもっと攻撃的な賃上げの戦いを

今や労働力稀少社会へと移りつつあり、賃金引き上げにとっては有利な条件に入り始めており、最低賃金も全国的に目安となる39~41円の引き上げを上回る県が23も出て、平均で時間当たり1002円を2円上回る結果となったとのことだ。それだけ、賃上げをしなければ労働力が確保できない時代に突入していると言えよう。2期目も継続となる芳野連合会長には、有利な経済的な背景の下で経済界に大きく譲歩を迫るような戦いを展開して欲しいと思う。経済界には、賃上げ無くして経済成長なし、ということをかみしめて欲しい。

外需の拡大のからくり、輸入の低下分はGDPに入れてない計算

他方、大きく伸びたように見えるのが外需で、輸出は前期比で3.2%増とプラスに転換している。統計上サービス輸出に含まれるインバウンド収支も堅調だったことが含まれているが、物の輸出に関しては半導体の供給に目途が付きようやく自動車が伸び始めているのが目立つ程度で、総じて貿易収支で黒字を稼げる産業が自動車産業以外に少なくなっている。そのこと自体が日本経済の現実を如実に表していると言えよう。

一番奇妙な現象は、輸入の伸びが前期比で4.3%のマイナスで、1~3月期の2.3%のマイナスからさらに落ち込んでいる。にもかかわらず輸入分はGDP統計ではカウントされないためマイナス分だけ輸出分の貢献が高くなり、輸入の落ち込みが輸出の実力以上の成長への貢献を高めたことになる。今回のGDPの伸び率が大きく伸びたことの大きな背景にはこのことがあるからなのであり、考えてみれば日本経済の底力がそれだけ落ち込み始めていることを、このGDP統計は示しているのではないだろうか。

外需以外にも内外の経常収支差の黒字がカウントされており、もはやモノづくりによる経済大国から海外投資による経常収支黒字で辛うじて経済を膨らませている投資国家(衰退・停滞・成熟国家)になりつつあると言えよう。

最新の週刊『東洋経済』で経常収支が黒字なのに円安となるメカニズムについて、唐鎌大輔氏が解説しておられるが、経常収支の黒字分は債券や株式投資の配当などで国内に還流せず再投資されていることや、サービス関係の海外支出の増大が円安になっている要因として挙げておられる。日本は、経済的な投資が拡大しにくい国になっているのだろうか。

人口減少国家が辿るGDP総額停滞、一人当たりGDPで見るべき

実際の金額ベースの数値でGDPを見てみると、今回の数値は560.7兆円で過去最高となり、コロナ禍直前の19年7~9月期557.4兆円をかろうじて上回った程度なのだ。明らかに日本経済は停滞国家として、世界経済のけん引役からはその役割を終え始めていると言えよう。人口減少し始めた先進国が辿るこうした停滞国家への道は、遅かれ早かれ辿らざるを得ない道なのであり、東アジアの中国や韓国等がその後を追いかけてきているのだろう。そうした中で、ひとりあたりGDPで考えるべきで、どう成熟した社会へと転換できるのか、それを追い求めていく以外には日本が生きていける道はないのだろう。いたずらにかつての高度成長時代に戻るべく「夢よ、もう一度」と思い続けていては、現実に直面する難問(それが100年前の関東大震災級のショックといった)を回避できる力を失い、累積した放漫財政に火がつきハイパーインフレ化し、国民は塗炭の苦しみに追いやられてしまうのではないかと思えてならない。これは、思い過ごしであろうか。

黒田日銀から植田日銀へ、変わり映えのしない金融緩和政策、何時まで続けるのか

アベノミクスと称される金融経済政策の延長の下で、黒田総裁から植田新総裁へと変わったにもかかわらず、相変わらず日銀の異次元金融緩和政策が展開されている。インフレが2%はおろか、いまや3%台へと上昇し続けていても、短期金利はマイナスで、長期金利すら0~1%の幅にイールドカーブ政策と称して、力づくで長期金利までコントロールし続けている。先月の日銀の政策決定会合で、わずか0.5%だけ長期金利の引き上げ幅を事実上引き上げたに過ぎない。この間、インフレは放置したまま、海外との金利格差の拡大で円安をもたらし、今後も円安による輸入物価の上昇も加わり続けるのだろう。国民の生活にとって死活的に重要な賃上げと言えば、定昇込みで物価上昇率にも及ばないものでしかなく、国民の生活を圧迫し続けてきているし、これからもその流れは続くのだろう。

こんな出鱈目な財政金融政策、何時巨大なショックが襲うかも

政治の現場では、巨額の国債発行が当然のごとく進められ、ゼロ金利政策のために支払金利ゼロという異常な時代が展開されているのだ。停滞し始めた衰退国家を襲うこうした無謀な財政金融政策が、どんな結果をもたらすのか、誰もあまり語ろうとしない。無責任な政治の行く末が、われわれ日本の暗い未来を待ち受けているのだろう。真夏の夜の悪夢が正夢となるのも時間の問題なのだろう。もうすぐ関東大震災から100年、ナオミ・クラインの書かれた『ショックドクトリン』が思い出される。


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