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労福協 活動レポート

2023年9月4日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第308号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

日本経済新聞のコラム「大機小機」(9月2日)を読んで

日本経済新聞の名物コラム『大機小機』(9月2日朝刊)で、ペンネーム「万年青」氏が「アベノミクス後の展望議論を」という題で岸田政権に問題を提起している。依然として正式にはデフレが解除されていない日本ではあるが、後述するようにデフレ4指標が全てプラスとなり、デフレ解除を宣言しても良いのではないかという声も出始めている。このコラムは1.000字前後の短いものだが、なかなか興味深い論点が多かったので私なりの解説も入れて紹介したい。

まだデフレからの脱却を正式に宣言できていない日本

われわれがインフレやデフレを判断する際に、一番身近な指標である消費者物価指数は、対前年同月比でみて1年以上も2%のインフレ目標(10年以上前からターゲットに)を上回り続けているわけで、国民にとって「未だデフレ宣言を解除していなかった」こと自体がおかしいと思っているに違いない。というより、もうデフレなんて意識の中にすらなくなっているのかもしれない。

確かに、石油や食料品など海外からの輸入物資高騰によるコストプッシュ型の物価上昇では本当にデフレから脱却したのかどうか、海外要因がなくなればまた物価は停滞するのではないかという危惧はあるのだろう。ただ、需要拡大によるディマンドプル型の物価上昇となるためには内需の太宗を占める労働者の賃上げが必要であり、それに設備投資増が加わって内需主導の物価上昇となる必要があると政府・日銀関係者はみているのだろう。

デフレ4指標いずれもプラスへ、アベノミクス以降の政策構築を

今回の脱デフレ4指標が、今年4~6月で推計値ではあるがプラスに転換したという。4指標とは、需給ギャップ、消費者物価指数、GDPデフレーター、単位労働コストであり、消費者物価は7月の対前年同月比3%超、需給ギャップは4~6月期で実に15期ぶりの0.4%プラス、GDPデフレーターと単位労働コストは前年同期比の数値の改善である。コロナ禍で4指標が大きく低下していたことから、ようやく回復途上にあると見ていいのだろうが、元々人口減少下で需要が飽和化した日本ではこれで精いっぱいと見ていいのではないかと思える。

「万年青」氏も、「デフレの克服」はできたのだから、そろそろアベノミクス以降の政策を体系的に構築する時期だと主張されている。

「万年青」氏の政策転換提起、”供給重視から需要重視”に同感

問題は、次の指摘であり、以前この通信欄で小生も同じことを主張し続けてきたので、わが意を得たりという感を持ったのだ。

「そもそも先進国は経済成長できるのかという議論が芽生えている。供給サイドに焦点を当てた経済政策よりも需要喚起に目を向けた対策が必要という見解も示されている」と述べ、暗にアメリカのサマーズ教授らを中心にした最近の政策論議の論調を暗示しているようだ。サマーズ氏は、これまでの主流派経済学が依拠してきた「セイの法則」、すなわち「供給はそれ自体の需要を作りだす」という「販路法則」の見直しにまで言及されていたことを思い出す。ちなみに、こうした「セイの法則」の主張する際に、供給側を強くすれば富裕層が豊かになるが、そのおこぼれがしたたり落ちてくるのだ、という「トリクルダウン」理論なるものが喧伝されてきた。残念ながら、トリクルダウンは起こったためしがないのだ。貧富の格差は拡大し続けていることを見ても明らかだろう。

需要飽和化した先進国日本、供給重視はデフレを招くと指摘

「万年青」氏は「セイの法則」にまでの言及はなかったものの、コラムの中で「欲しいものがない」「必要なものは安く手に入る」「富裕層に購買意欲はない」という指摘をした後に「需要低迷時代に供給力を増やす政策ばかり進めても、デフレに後戻りするだけだ」と明言される。アベノミクスの次の展望を出すべきだ、と主張されているのは、供給サイドではなく需要サイドに力を入れていくことの重要性を提起されていると見ていいのだろう。今日、こうした見方の大転換こそが、先進国経済にとって必要であることを強調しておくべきだろう。

権丈教授、「分配なくして成長なし」こそが求められる時代

この点に関して、よく引用させていただいている権丈善一慶応大学教授の最新著書『もっと気になる社会保障』(奥様の権丈英子様との共著で勁草書房刊)の中で指摘されていることなのだが、「供給の成長はコントロールするのが難しいが、需要の育成はコントロールできる」わけで、特に社会保障の充実・強化による所得再分配政策による内需の拡大こそが成長戦略として重視していくべき時だ、と主張されている。今の日本において、一次分配面における賃金水準の引き上げを進める(労働組合の闘いが重要)ことや、政府の進める所得再分配政策である社会保障や教育のサービス水準を引き上げることによって、必要としているすべての国民の需要を引き上げていくことこそが、結果として有効需要を引き出し内需の拡大となり安定的な経済成長が可能となるのだと思う。今こそ真剣に取り組まれるべき時ではないだろうか。

スローガン的に言えば、「分配なくして成長なし」なのであり「成長なくして分配なし」ではないのだ。

ケインズからフリードマンへ、リーマン以降の今日、再びケインズへ再起できるのかどうか

再び、「万年青」氏のコラムに帰ろう。岸田政権が取り組むべきなのは、こうした「供給サイド重視」から「需要サイド重視」に大転換の上で、将来のしっかりとした政策体系を打ち出すことだとみておられる。宏池会の先輩である故大平正芳元首相の主催した政策研究会に学んでいくべき時だ、と提言されている。

ケインズ経済学が1930年代の世界的な不況からの脱出を図るべく、政府による「有効需要」創出政策へと転換し、第二次世界大戦後には雇用や社会保障の充実による福祉国家論を支える経済政策が70年頃まで続く。だが、スタグフレーションやブレトンウッズ体制の崩壊などによりフリードマンらが市場原理主義に基づく新自由主義を復権させ、それがリーマンショックとなって崩壊し、今や経済政策は混とんとして世界経済が漂流し始めているのだ。

支持率低下の岸田総理、本格的に内需拡大政策へ大転換で来るのか

もう一度「万年青」氏が言うように、新しい時代に対応した「供給サイドから需要サイドへの経済政策の大転換」が求められているのだ。、それが今の経済界の全面支援を受けている自民党にできるのかどうか、労働者の賃上げと景気の好循環を唱えている岸田総理にとって正念場といえよう。


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