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労福協 活動レポート

2023年10月16日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第314号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

選挙を意識した補正予算案の規模拡大、財政赤字の累積に馬耳東風

解散・総選挙も噂される中で、補正予算や来年度の予算編成に向けていろいろな動きが出始めている。コロナ禍の下で異常に膨れ上がった国家予算は、何時しか異常が正常へと転化して今年の補正予算でも、自民党の実力者と称される人たちの中から10兆円単位の大型補正予算を要求し始めており、これから先、こうして肥大化した財政赤字の累積がインフレによる金利の上昇に耐えうるのかどうか、専門家からは危惧(危険視)され続けている。与党政治家たちには「馬耳東風」でしかないのだろう。金利(r)よりも、経済成長率(g)の方が高ければ、財政破綻はしない、などと嘯き始めているわけだが、金利はインフレが3%台に上昇し始めたことを受け、長期国債は0.88%と1%という日銀のYCCで設定した上限金利を突破するのではないかと心配され始め、景気変動を除いた自然成長率は0%~1.0%の間と見られ、既に金利の方が成長率を上回り始めているとみる向きも多い。10年という長期金利にまで日銀がコントロールする市場原理に反する行為は異常であり、一刻も早く解除していくべき点の一つである。

これから先、日本経済が抱えている問題は人口減少であり、生産年齢人口の急減である。人口減だけでもGDP成長率を約1%引き下げる効果を持っているだけに、これ以上の財政赤字の累積は大変な禍根を残すことは必至だろう。にもかかわらず、選挙を前にした政治家は目先の自分たちの当選を目指して、なりふり構わず出鱈目な要求を求めて永田町界隈を動き回っているのだ。そういうレベルの低い政治家は選挙を通じて痛い目に合わせなければ、増長し続けるのもムベなるかなと思わずにはいられない。

財源問題の行方、とりわけ税収増を根拠に減税することの是非

財政問題というテーマでいえば、国民生活に直結する社会保障や教育といった社会的支出が注目されるわけだが、子ども・子育て支援に向けた財源に向けた最終的な調整がどうなっていくのか、防衛問題の財源増と並んで岸田内閣が実現を約束した大問題である。今後とも、その成り行きに引き続き注目していきたい。おそらくは、来年度税制改正と絡む問題だけに、年末ぎりぎりまで政府と与党(背後に利害関係団体)の攻防が繰り広げられ、岸田総理の決断が求められるに違いない。

今回注目したのは税制問題であり、岸田総理が成長による税収増(昨年度の税収が71兆円と史上最高額を記録)という果実を国民にどのように返していくのか、減税という問題を提起したことだ。これだけ大判振る舞いした財政支出から当初見込んだよりも高い税収増があったことから、結果として余剰財源が生まれたことに着目し、選挙を前にした権力者が減税というおいしいニンジンを国民(というより政治家・業界関係者)の前にぶら下げたわけだ。問題は与党だけではなく野党側にもある。

民主党の流れを受け継いだ野党が、消費税の減税を打ち出す愚挙

与党側は、所得税と並んで法人税の引き下げに言及し始めているが、野党側は消費税の引き下げを打ち出し始めている。消費税については、法律上は目的税と明記されていないが、民主党政権時代最後の民主・自民・公明三党合意の中で、10%への消費税率の引き上げとともに、その財源は年金・医療・介護・子育てという4経費に充当することを明記してきたものである。その後、安倍政権によって消費税率が5%から8%へ、次いで8%から10%へと引き上げられたわけだが、安倍総理時代に幼児教育分野に増税分の一部が充当されたり、食料品の軽減税率(8%)適用措置が取られて今日に至っている。この2つの措置で1兆円を上回る財源が4分野以外に使われたことになる。

その消費税の引き下げを野党側が公約に掲げ始めているとの報道に接する。選挙を前にして、インフレによる生活水準の切り下げに苦しむ国民を救済するにはすべての国民が支払っている消費税を引き下げることが一番効果のある政策だ、ということなのだろう。何と立憲民主党や国民民主党までもがこうした消費税減税を検討し始めているやに聞く。既に国民民主党は15兆円の補正予算に対する要求を打ち出し、その中で消費税率の5%への引き下げを求めている。もちろん、共産党やれいわ新選組などは消費税を廃止することを党是として求めていたわけで、消費税減税にはもちろん賛成となるのは必至だ。かつて民主党に所属していた国民民主党や立憲民主党の方達が、消費税が社会保障目的に使われることを是認していたわけで、その考え方はどこに行ったのか、と厳しく問いただしたいと思う。

経済界が消費税の引き上げを求める背後に、社会保険料負担増が

一方で、これからの社会保障や教育といった国民生活にとって重要な支出を賄うべき財源として、経団連は社会保険料ではなく消費税に求めるべき主張を繰り広げている。従来の三党合意の主張からはそういう考え方が出たとしても、普通に考えれば、当たり前の考え方として理解することはできる。だが、背後には社会保険料の半分は企業側(中小零細企業などは除く)が負担をすることになっているわけで、その財源の増加はいやだし出来れば社会保険料から消費税へと財源の在り方を変えて欲しい、という声を表明したものと受け止めることができよう。これから子供・子育て支援基金の財源問題で出ている「社会保険関係の基金」からの拠出拡大防衛のための予防線を張るもの、と受け止めていいのだろう。

消費税による税収増があって福祉国家が充実できたヨーロッパ

確かに消費税は1%で約2.5兆円にも達する税収を調達できるわけで、それだけ広く国民全体で拠出する財源であり、累進制ではないが高額所得者の方が消費税額は高く支出していることも間違いない。所得税に比べて累進性が弱いことから格差社会をもたらす税として批判にさらされてきた。だが、この消費税のもたらした大きな影響は、トマピケティが名著『21世紀の資本』で述べているように、この税による税収増が無ければ国民全体をカバーできるだけの社会保障制度の充実はあり得なかった、という歴史的事実であろう。この消費税(ヨーロッパでは付加価値税)が最初な導入されたフランスから随時スウェーデンやデンマークなど北欧の福祉国家やドイツやオランダなどへと広がり、低所得層だけでなく膨大な中間層も含めたすべての国民に「防貧機能を持った社会保障財源を賄う税収」として位置づけられてきたのだ。この税があったからこそ福祉国家が充実できていたとみるべきなのだ。

日本での消費税引き上げは、国民の厳しい批判を浴びた政治の歴史

日本では、マイナンバーと同時に一般消費税という名称で大平総理が日本での導入を目指して以降、何度も歴代総理が挑戦し続け、1989年から竹下内閣の下でようやく消費税3%が導入されたのだ。その竹下総理も、消費税導入を置き土産として退陣し、導入直後の参議院選挙で「山を動いた」という社会党土井たか子委員長の言葉で示されたような「自民党大敗北」を喫して、以降消費税の増税を提起した政権政党は、選挙での敗北を余儀なくされており、今や消費増税は政治家にとってはタブーとして誰も消費増税を打ち出そうとしていないのだ。

私が財務副大臣時代に、菅直人財務大臣が消費税の増税を打ち出す際に私に語った言葉が忘れられない。それは、自民党が野党に転落して10%の消費税の引き上げを打ち出してきた。その時菅直人氏は「我々も10%の消費税引き上げを打ち出そう、相手が増税を打ち出したのなら、この増税は選挙の争点にならない」と述べられたのだ。私は民主党のマニフェストは消費税の引き上げはしないと約束しています、野党が述べた公約よりも、政府の打ち出す公約の重みが違うので「争点にならない」とは言えないと反論したのだが、菅氏は総理になって参議院選挙で消費増税を打ち出し、一敗地にまみれてしまったのだ。まことに、無責任の極みだと言えるし、それだけ消費税の引き上げは政治的な難問だと言ってよいだろう。

消費税の引き上げによる子供子育て財源選択は理想、
フィージビリティとサステナビリティを考えると困難と判断

今、経団連がこれからの子供・子育て支援基金の問題で社会保険財源からの拠出ではなく、消費税の増税を訴えていたとしても、自民党政権は動こうとしていない。社会保障財源の増加に向けて消費税引き上げを打って出たとしても、国民からは文字通り総スカンを食って総選挙で惨敗することが目に見えているからだ。それだけ、国民から嫌悪され続けてきた消費税の引き上げは、正論であるが現実には実現できないお題目でしかなくなっている。この事実をどう考えていくべきなのか、今回社会保険財源からの拠出を求める側の専門家にとっても、消費税の引き上げができるのならそれがベストだと思っている方達は多い。

だが、その実現性(フィージビリティ)を考えたとき、その選択肢はあり得ないと思わざるを得ないのが日本という国の現実なのだ。と同時に、税でもって歳出を賄っている分野においては、絶えず政治によって税収が削減される危険性を持っているわけで、税だけによるこの国のかたちを作り上げていくことは、安定化(サステナビリティ)させていくことの困難性を持つことを覚悟しなければなるまい。フィージビリティとサステナビリティを同時に確保していけるかどうか、責任ある政治家はその視野をしっかりと持ち続けて税制問題を考えていかなければならない。


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