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労福協 活動レポート

2023年10月30日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第316号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

岸田内閣に対する支持率の低迷、与党自民党参議院幹事長からも代表質問で苦言

内閣改造を経て10月に実施されたマスコミ各紙の世論調査の結果は、いずれも岸田内閣の支持率が低迷していた。こうした事実に対して政策研究大学院大学の竹中治堅教授が『中央公論』11月号で3つの理由を上げておられる。一つ目が、当選回数に配慮しすぎる閣僚起用、二つ目が看板政策の「新しい資本主義」の内容が判然とせず国民に理解されていない、三つ目は必要とあらば、自民党やその支持基盤層との対決を厭わず、経済・社会を改革するという姿勢を見せないことだという。けだしその通りなのであろう。まなじりを決して国家国民の抱える難問に挑戦する姿からは程遠いと見られているのだろう。

臨時国会が始まり、総理の所信表明演説に対する各党の代表質問が展開された中で、与党である世耕参議院自民党幹事長が岸田総理の政治について「国民が期待するリーダーとしての姿が示せていない」と苦言を呈するなど、相対的に厳しい声が野党だけではなく与党側にも広がっていることを伺わせてくれた。これでは、いくら岸田総理自身が解散・総選挙を目論んだとしても、党内からの同意は得られないだろう。ちなみに、世耕参議院幹事長は旧安倍派の幹部の一人であるが、安倍派の塩谷代表が早々と岸田再選支持を打ち出した報道(9月の内閣改造直後)を記憶しているだけに整合性が取れておらず、一体どうなっているのかと困惑するばかりである。最大派閥の指導者たちのこの状態は、第三派閥麻生派を率いる麻生副総理の台湾有事の際の「闘う覚悟」発言と言い、リーダー内部が相当混乱し始めているように思える。

岸田総理主導の所得税4万円減税、何のための減税・給付なのか

内閣支持率が低迷していることに危機感を感じたのだろうか、岸田総理は最近の税収増加分を国民に減税で返していくとの方針を打ち出し、党税制調査会での議論に委ねるべきところを、急遽政府与党代表者会議の場を設定して一人当たり4万円の減税を打ち出し、3万円が所得税分、1万円は地方住民税分の定額を支給するとのことだ。特に低所得層として地方税非課税世帯に対しては7万円の現金給付とし、すでに支給することとなっている3万円と合わせて10万円給付にするとのことだ。

この支給内容では地方税は納めているものの所得税を納めていない低所得層がすっぽり抜け落ちることの指摘について、何らかの公平性が保てるよう配慮をすると答弁。物価が3%を超えて上昇していることに賃上げ分が追いついていないことを挙げ、低所得層には早急に手当てをし、来年6月にはすべての対象者(世帯)に支給するつもりとのこと。どうも1勝1敗に終わった22日衆参補欠選挙の投開票直前の20日の国会で、所信表明演説にこうした減税案を盛り込みたいとの意向があったようだが、さすがに露骨な政治的意図は実現せず、所信表明から外したうえでの与党側との会合で具体的な提案に至ったようだ。
とはいえ、岸田総理の言動がかなりぶれてしまったわけで、減税論議が内閣支持率を高めることに結び付いたのかどうか、竹中教授の指摘ではないが総理の政治家としての思いが自民党の支持基盤とぶつかったとしてもやり遂げるという事とは程遠かったのではないかと思う。

どんなに批判されても、これだけはやりたいという意気込みがない岸田総理、潮の流れが変わったのでは

そうなると、来年度から増税を予定していた防衛費についてはどうなるのか、予算委員会での自民党羽生田政調会長の質問に答えて、少なくとも来年度の増税は実施しないということになったわけだが、SNS等では「増税メガネ」と揶揄されていたことを気にしていたのだろう。あまりにも慌ただしい減税の動きが返って岸田内閣に対する定見のなさを露呈し、支持率の低下に歯止めがかかったとは言えないようだ。
マスコミ各紙は、かつて1990年代後半にバブル崩壊直後の橋本龍太郎総理の下での減税政策が、自身の発言が右往左往したことにより政権の寿命を縮めてしまったことなど、減税が必ずしも政権の浮揚につながらなかった歴史を指摘、今回の減税の動きについて厳しい見方を示している。

また、牧原出東大教授は朝日新聞22日投稿欄において「今回の決定は、政権にとってはターニングポイントとなる」と見ておられ、今回の「不真面目」かつ非合理的な政策は、本来の自民党支持層(低支持率を支え続けてきた支持者層)から見放される端緒になるかもしれないと厳しく見ておられる。過去の政治寿命を短くした先輩と同じ轍を踏まないようになるかどうか、今後の動きに注目したい。

防衛費増税は先送り、子育て支援連帯基金はどうなるのか

ところで、防衛費の増額(5年間で43兆円)と並んで今年の年末までに予算上の措置をどうするのか問われているのが異次元の少子化対策の財源問題(3.5兆円)がある。税による負担ではなく、年金や医療・介護といった社会保険財源の中から子育て連帯支援基金への拠出というアイディアを含めた財源問題の扱いはどうなるのだろうか。税が対象になっていないとはいえ、社会保険財源からの拠出となれば国民皆保険制度であるがゆえに、すべての国民と共に企業側も拠出しているわけで、利害関係者は固唾を飲んで見守っている。とりあえず防衛費が先送りにはなったものの、社会保障の財源としては2年に一度の医療費の診療報酬改定と3年に一度の介護保険料改定も同時に決定しなければならないわけで、子育て連帯支援基金が先送りになるという事にならないよう祈るばかりである。

ボロボロになっている所得税の現実、新しい時代に対応できる税制改革の時期ではないか

それにしても、所得税という日本の税制の中核に座るべき基幹税ではあるが、過去の税制改正の中であまりにも中途半端な改正が繰り返され、その所得再分配機能も著しく低下させられて今日に至っている。何よりも課税最低限以下の所得(方働きの夫婦子供の4人世帯で約285万円)になっている労働者が多くなっており、この非課税と所得税の最低税率5%と10%までで労働者の過半数を超えているのが現実だ。同時に、配偶者控除という制度があるため、パートなどで103万円の所得を超えることで扶養控除対象とならなくなるわけで、ただでさえ労働力不足の現実に直面している企業サイドからも何とかして欲しいという声が上がり始めている。こういった配偶者控除を始めとした所得控除の在り方も含めて、高度成長時代の方働き専業主婦(夫)制度の下での税や社会保障の在り方を全面的に見直すべき時に来ているわけだが、肝心の与党側にはそのことに手を付けようとしていない。それと同時に、民主党政権時代にマイナンバー制度を入れようとしたそもそもの目標であった金融所得も含めた総合課税への道を進めていくべきことは言うまでもない。今の時代に高額所得を得ている層は勤労所得ではなく株式の配当や売買益でその多くを稼ぎ出しているわけで、なんとしても改革を進めて欲しいと思う。

こう考えてみると、今から70年以上前にアメリカのシャウプ使節団が来日し所得税制の基本的な骨格を作り上げてきたわけで、その後の日本経済・社会の大転換の中でどのように所得税制を変えていくべきなのか、政府税制調査会の課題なのだろうが、なかなかその姿がよく見えない。この国は一体どこに向かって進んでいこうとしているのだろうか。


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