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2024年1月1日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第323号)

令和6年元旦号 今年は「選挙の年」、世界はどうなるのか注目
最大の焦点はアメリカ大統領選だ

新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。(今年もまた、年賀状による新年のご挨拶は遠慮させていただいています事をお許しください。)

2024年、令和6年がスタートしました。今年がどんな年になるのか、世界各国では選挙イヤーということで、1月の台湾総統選挙に始まりアメリカの大統領選挙というビッグな選挙戦のスタートが予備選挙から本選挙まで約10か月間続けられる。老たりとはいえアメリカは世界の覇権国家であり、台頭する中国との激烈な覇権争いを演じるべくG7の国々をリードし続けている。どんな選挙戦になるのか、民主党は現職のバイデン氏が再選を目指して候補に選出されるのだろうが80歳を超えているのが弱点になりつつある。他方で共和党はトランプ前大統領の予備選での勝利が確実視されているが、なにせ過去の言動が予備選挙出馬の資格喪失という州レベルの判決が出始めており、そうした司法の最終判断がどう下されるのか、これまた未知数となっている。

死に体の岸田政権、解散総選挙より自民党内権力の行方に注目

問題は日本であり、今年は参議院選挙もなく衆議院選挙もどうなるのか、岸田政権としては9月の自民党総裁選挙に勝利するため、自らに有利な時期を選んで解散・総選挙に打って出ようとしてきた。昨年6月会期末、9月の内閣改造直後など、チャレンジしようとしたがままならず、ついに今年にまで持ち越され、自民党派閥のパーティ券疑惑問題まで来てしまったわけだ。最新の岸田政権に対する世論調査結果は散々なもので、多くのマスコミ調査で20%台、中には16%という危機的水準へと落ち込んでいる。政党支持率も低下し始めており、内閣支持率と自民党支持率を合計しても50%に達しない「政権危機ライン」を割り始めている。これでは解散・総選挙に打って出ることは先ず出来ないだろう。

安倍派のパーティ券疑惑の行方、衆参一人ずつの逮捕で幕引きか?!

問題のパーティ券疑惑の行方だが、当面は安倍派と二階派に絞られ、とりわけ最大派閥である安倍派「5人衆」を含む国会議員が検察当局からの取り調べを受けているようだ。今のところ逮捕者までは出ていないが、家宅捜査に入ったのが池田・大野の衆参国会議員2名で、いずれも過去5年間の裏金となった金額が4000~5000万円と巨額になっていたことから逮捕にまで行くのだろう。おそらく、安倍派5人衆の逮捕にまでいかないと思われるが、問題は検察審査会での再審査請求が出されるかどうか。通常国会が1月26日頃から始まるとの報道があり、残された期間でどこまで捜査が進展するのか、当面する最大の焦点だ。安倍派が裏金5億円に対して、二階派は1億円と5分の1でしかないので、二階派への波及は無いのかもしれないが、安倍派だけに厳しく二階派にはお仕置きなしでは「不公平」という批判が出てくるのではないか。

政治資金改革の行方、20万円から5万円への公開基準引き下げでお茶を濁すわけにはいかない

それにしても、今回の自民党を揺さぶる政治資金裏金パーティ券疑惑問題について、岸田総理は政治資金の在り方を改正する委員会の設置などを提起しているようだが、身内の政治家だけに任して実効性のある改革案ができるのかどうか、まことに怪しい。現に、公明党の幹部は「公開基準20万円」」を「5万円」に切り下げればよいのではないかという発言を堂々と述べているのを聞くにつけ、こんな程度の認識では政治資金問題の抜本的な解決に向けた改革はできないと宣言しているようなものだ。ここは政治家を除外した第三者による委員会を設置し、政治家とカネの不祥事が隠蔽されることなく透明度を高め、本当に実効性ある抜本的改革を進める以外にないと思う。果たして、今の政治家の側にそこまでの腹をくくった改革に向けた決意が示されるのかどうか、注目したい。

新年度予算案は相変わらず財政赤字を放置、
減税はあるが、インフレタックスによる国民負担の増加に注目を

さて、経済に目を転じてみたい。今年の一般会計予算は110兆円を超え、予備費が大きく減額されたため昨年度より総額では減額されたように見えるが、実質的には前年度予算以上に膨れ上がっている。そのため、新規国債発行額が35兆円近くまで増大し、放漫財政からの脱却には程遠く財政赤字の解消は絶望的である。もっとも、毎年の税収が予想以上に伸びており、インフレによる価格の上昇が消費税の増加、円安による大企業の利益拡大=法人税収の伸び、何よりもインフレによる個人所得の名目額増加がブラケットクリープとなって「所得の伸び以上に税収増」となって国の財政を潤している。日本の税収の基幹税となっている所得・消費・法人という3つの税だけで60兆円を超すレベルにまで跳ね上がっている(所得減税など4万円を含む)ことに注目すべきである。

日銀は何時まで異次元緩和政策を続けるのか、円安による企業利益増加、株高による格差の拡大へ

これは、日銀の異次元の金融政策が続いていることにより円安が続き、その結果として輸出関連企業の利益が増大するとともに、海外からの輸入物資の価格上昇が消費者物価を直撃しているわけで、結果として家計部門の負担が増大することによって企業部門と政府部門が潤うという「インフレタックス」効果が広がっているのだ。国民の生活が一番苦しめられ、国と企業が「高笑い」しているというのが昨今の経済の一番の特徴となっているのだ。もちろん、株価の上昇による一部富裕層の利益急増もあるわけで、貧富の格差の拡大が続いている。

腰の引けた「連合」の5%以上賃上げ目標、怒りを込めた春闘こそ

こんなインフレ利益からほど遠い圧倒的多数の国民はもっと怒ってよいわけで、本来であれば「れいわ6年の春闘」で大幅賃上げを勝ち取るゼネストの提起があってしかるべきだと「昭和時代に生きた者の感覚」では思うのだが、連合の今年の賃上げ要求は「5%以上の賃上げ」とまるで腰が引けている。昨年の賃上げが定昇込みで3.8%(定昇分は約1.7%程度)と名目的には久方ぶりに大幅に見えたのだが、物価も3%近く上昇し実質賃金は17か月連続してマイナスのままなのだ。その分も含めて、5%というのは定昇抜きでならいざ知らず、定昇込みで5%以上ではとても生活向上となって国民の暮らしを良くすることにはならない。怒りの春闘へと国民が奮い立つことができなくなっている現実に、われわれ現役でないものには古き良き時代が懐かしくなる今日この頃である。

この賃上げに日本のマクロ経済政策の在り方がかかっているとみているエコノミストが多いだけに、その期待に応えた戦いを是非とも強化して欲しいと思う。とりわけ、中小企業に従事する低賃金労働者の方達の賃上げが持続できるのかどうか、大いに注目したい。この中小企業の賃上げができない要因の一つとして、ゼロ金利政策によって低い「付加価値生産性」の企業が市場から退出されないで生き延びていることに日本経済の問題があるという指摘がされ始めている。

松元崇氏、日経紙の「経済教室」論文、「衰退途上国」日本から脱却しなければ・・・

日本経済が、「衰退途上国」に陥り始めていると警鐘を鳴らしておられる論文に注目させられる。日本経済新聞の昨年12月28日付「経済教室」に元内閣府事務次官松元崇氏寄稿「『積極財政で成長』幻想 捨てよ」である。詳しくは直接論文を読んでもらいたいのだが、「発展途上国」という言葉は聞いたことがあるが、「衰退途上国」とは初めて聞くという方が多いのではないだろうか。その違いを図示しておられるので日経紙から引用し掲載しておく。

今の日本が、こうした「衰退途上国」に陥っていることを指摘され、生産性の低い企業を温存していることからの脱却を訴えている。それは、スウェーデンのレーン・メードナーモデルと呼ばれるもので、低い生産性しか上げられない企業は無理に救済せず、そこで働いていた労働者は失業しても再訓練を充実させ、次の高い生産性を上げられる企業に転職させていくことを求めておられる。松元氏はその考え方は日本の高度成長を主導した下村治氏の「ゼロ成長論」に求めたとのことだ。つまり、経済成長はイノベーションによっておこるわけで、人間の創造力であり、リスキリング(学び直し)の重要性に通ずるものと見ておられる。

経済成長と経済回復の違いを理解すべきだ、成長には「アニマルスピリット」「人間の創造力」が必要

と同時に、もう一つ重要な問題を指摘されている。それは、経済を成長することと経済を回復させることとの質的違いについて言及。経済が不況に陥っていることから回復させる財政金融政策はありうるし財政支出もその限りでは有効であるが、財政支出を増やせば経済成長するのではないことを区別して理解することの重要性である。日本ではケインズ政策として財政支出の増加による成長政策として主張する向きが多いが、当のケインズは経済成長をもたらすものは「アニマルスピリット」と答えていたし、下村治氏は前述のように「人間の創造力」と答えていたことを指摘する。

1990年代にバブル崩壊後、経済成長率が0%台にまで落ち込んだことに対して、歴代政権は財政赤字を累増させて景気対策を打ち続けてきた。その結果が1000兆円を超す赤字の累積である。その結果経済はどうなったのか、まさに「衰退途上国」への道を転がりつつあることに、われわれは早く気がつかなければならない。積極財政による誤った経済政策のツケは確実に次の世代に引き継がれるわけで、一刻も早く「積極財政」政策による経済成長の呪縛から抜け出すことだと述べておられる。けだし、その通りだろう。

日銀の異次元金融緩和からの脱却を急ぐべきだ、
西野智彦著『ドキュメント異次元金融緩和』(岩波新書)を読む

もう一つの大きな課題は日銀による「異次元金融緩和」政策からの脱却である。先にも触れたように、異次元金融緩和政策によって円安がもたらされ、その結果株価の上昇と輸出からの企業利益の増大という「成果」を上げてはいるものの、円の価値の低下は物価の上昇となって家計を直撃している。それだけに、今進められている異次元の金融緩和政策を一刻も早く正常化させていくことが求められる。

西野智彦氏の書かれた『ドキュメント異次元金融緩和 10年間の全記録』(岩波新書2023年12月20日刊)を年末に買って一気に読み終えた。実に読みやすく異次元金融緩和がどのように進められてきたのか、よく理解できる良書である。特に感心させられたのは、さすがにジャーナリストでありその取材力の凄さである。丹念に関係者からの証言を集めておられ、安倍政権の側からの情報と日銀内の動きなど、臨場感あふれる描写がふんだんに散りばめられており、読む者の関心を逸らすことは無い。今後も過去10年以上に亘って進められた『異次元の金融緩和政策』に言及する時、必ず参照されるべき一書となるに違いない。

日銀内部に異次元金融緩和を推進する勢力の存在に驚く、
「磐田・翁」論争だけに注目していた見方の狭さを反省

私自身読み始めて一番注目したのは日銀内部の動きである。アベノミクスの第一の矢となった金融政策が、なぜ日銀内部の方達にすんなりと受け止められていったのだろうか、という思いがあっただけに、黒田総裁の「異次元金融緩和」政策に積極的に対応した雨宮正佳理事(副総裁)のような考え方をする一定の層が存在していたことにやや驚きを以て読むこととなった。リフレ派のような金融政策については、日銀としては公式の理論としては「翁・岩田論争」にみられるように採用されてこなかったと勝手に理解していただけに、この本を読んで意外であった。どんな組織でも一枚岩で固まることは無いわけで、そんな理解をしていた自分のお粗末さこそが反省されるべきなのだろう。

日銀の異次元金融緩和について、一度総合的に総括してみたい

詳しい中身について触れるのは後日にしたいが、既に2020年には『ドキュメント日銀漂流』(岩波書店)を上梓されており、同僚であるジャーナリスト軽部謙介氏の書かれたアベノミクス三部作にも目を通して欲しいとの事だ。私自身未だそれらの著書に目を通していないわけで、その後でも遅くはないだろう。さらに、今読み始めた河野龍太郎氏の書かれた『グローバルインフレーションの深層』(慶応義塾大学出版会2023年刊)には、今進んでいるインフレとこれまで進めてきた日銀の異次元の金融緩和のもたらした政策理論の問題点が鋭く指摘されており、それらも含めて検討してみる必要があると考えているからに他ならない。

少し長くなってしまったが、今年もまたよろしくお願い申し上げ、元旦号を閉じることとしたい。

今年こそ、皆様方にとって良き年でありますよう。


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