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労福協 活動レポート

2024年1月9日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第324号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

物価と賃金が上がれば、凝り固まった社会は本当に動くのか

日本経済新聞の元旦号1面は、見出しが「解き放て」と斜めに大きな字で書かれ、何と「昭和」をやめ、若い力を引き出そう、という書き出しで始まっている。シリーズ「昭和99年 ニッポン反転」が連載されるとのことだ。注目したのは1面の最初に囲み記事、次の言葉が書かれている。

「2024年、日本は停滞から抜け出す好機にある。物価と賃金が上がれば、凝り固まった社会は動き出す。日本を世界第2位の経済大国に成長させた昭和のシステムは、99年目となると時代に合わなくなった。日本を『古き良き』から解き放ち、作り変える。経済の若返りに向け反転する」

本当にインフレが起きてそれに賃金が連動すれば日本経済の停滞を解き放つことができるのだろうか。日経新聞のこの特集は、今の政府と日銀が強調している事を鵜?みにしたまま日本が変わると信じているようだ。経団連をはじめ経済界もその流れを支持しているようだが、果たしてそうなのだろうか。

日銀は実質賃金の引き上げができなくてもYCCは撤廃するのか

先ず、日銀の動きから見てみたい。インフレは2%という目標をはるかに超えて2年近く経つが、昨春就任した植田日銀新総裁はコストプッシュによる物価の値上がりであり、賃上げが伴う需要拡大型でないので金融緩和政策は変えず、今年の春闘の賃上げの推移をみて判断していきたいと述べていた。インフレは2%を超えて一時は4%台に達していたこともあり、未だに総合指数では2.8%と2%目標を確実に超えているし、賃上げも、定昇込み3%台半ばを超え、90年代初頭以来の名目上昇率となっている。にもかかわらず黒田前総裁の進めてきたイールドカーブコントロール政策を継承し続けているのは何故なのだろうか。一年だけの賃上げでは不確実で、今年の春闘が昨年に引き続いて「大幅」賃上げが続けば見直しをするということなのだろうか。

インフレと賃上げによる負担増で内需は拡大できるのか

ただ、インフレで実質賃金が上がらなければ、生活苦の下で内需拡大には結びつかず、経済が好循環を維持できなくなるのではないか。特にインフレにより国民の多くは消費税の増税や所得税の引き上げとなって可処分所得の低下を招くわけで、それをカバーするだけの賃上げを実現するためには連合の提起している「5%の賃上げ(定昇込み)」では満額獲得できたとしてもインフレによる目減りと増税で帳消しになることは火を見るよりも明らかではないだろうか。若し、賃上げによる内需の拡大に結び付くことをゼロ金利政策からの脱却に結び付けるとしているなら、今年もまた難しいのではないかと思うのだが、日銀はどう判断しているのだろうか。

既に長期金利は事実上引き上げへ、マイナス金利の撤廃は何時?

この辺りは、日銀の政策を変えるのが何時になるのか、専門家の間でもいろいろと取りざたされているが、今年の春闘の大勢が判明する3月頃になれば動きがみられるとみる向きもある。既にイールドカーブコントロール政策の枠内だが、長期(10年国債)金利の1%まで(10月には1%以上も容認へ)の引き上げは容認しているわけで、短期の政策金利がマイナスにしていることを変えれば金利の動き始める世界に戻ることになる。ゼロ金利からの脱却が四半世紀ぶりに復活するわけで、それはそれで日本経済にとって大きな出来事に違いない。何よりも、日米の金利差の縮小となって為替相場での円安が少し円高への回復が進むわけだが、かつてのような1ドルが100円前後には程遠く、「円安」日本が定着したようだ。心配されるのは、これから引き下げると見られていたアメリカのFRBが、予想以上の景気の底堅さにより日米金利差が縮小しなくなってしまうこともありうるわけで、日本の異常な金融政策からの脱却がどうなるのか、円安がインフレ要因の太宗を占めているだけに、注意深く見ていく必要がありそうだ。

「連合」に足しげく通う岸田総理、インフレタックスを何とかしろ

次に政治の動きへと視野を変えてみたい。岸田総理は昨年に引き続き連合の新春旗開きや、10月開催の定期大会に歴代自民党総裁として初めて出席してエールを送り、物価上昇率を上回る賃上げを実現するよう努力したいと明言している。さらに、今年の賃上げが名目では定昇込みで3%台と高かったわけだが、物価上昇率に追いつかなかったことを意識していることもあり、政権浮揚を狙ったと評判の良くない所得税の減税を実施することを予算案に盛り込んでいる。

もし仮に、今春の賃上げで、連合が目標と提起している5%満額が引き上げられたとする。定昇込みなので約2%引いた3%のベースアップがあったとする。インフレ分は直近の昨年11月全国平均で対前年比2.8%となっていて、2%どころか3%近くに達している。昨年の賃上げが定昇込み3.8%でしかなかったため、名目で大幅賃上げとなったが実質では賃下げが17か月も連続していて家計は潤ってはいないのだ。今年の春闘で5%満額獲得してようやく実質賃金が維持できるレベルなのだ。どう考えても、今年の春闘でインフレを上回る賃上げが実現できるのかどうか、まことに怪しい。

イノベーションはインフレと賃上げでは出来ない、人への投資こそ

物価が上がり賃上げが進めば、経済成長が回復していくのだろうか。残念ながらそうならないのではないか。経済が成長していくためには資本と労働の伸び、それとイノベーション(全要素生産性の伸び)が合わさってプラスになる必要があるが、資本の伸びがプラスでも労働の伸びがマイナスで、全要素生産性の伸びは1%に到達できていないのが今の日本の実力だ。こうした経済学の常識にかんがみて、インフレと労働者の賃上げが動き出せばイノベーション(全要素生産性)が上がるという理屈がどうしてもわからないのだ。

前回の502号で紹介した松元崇元内閣府事務次官が日経新聞12月28日の「経済教室」で述べているように、経済を成長させるためにはイノベーションが必要であり、それはケインズの「アニマルスピリット」や下村治氏のいう「人間の創造力」に依るわけで、賃上げやインフレが動き出すこととどう結び付けられるのか、なんとも的外れの目標になっているとしか思えないのだ。新春早々のシリーズが始まるわけだが、何ともしっかりとした根拠のない目標に付き合わされるのもいい加減にしたいと思う。

岸田総理、放漫財政のツケは必ず国民生活を破壊する

心配すべきは、日本の財政の異常さであり、1000兆円を超す国債の累増だけでなく、岸田政権が予算措置を先送りしている子育て、防衛、温暖化対策などが借金で賄われ始めようとしていることだ。国民に負担を求めることの重要性がいつの間にか忘れ去られようとしているわけで、この点では与党も野党も同じ病にかかっているようだ。


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