2024年2月19日
独言居士の戯言(第329号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
東京株式市場、日経平均株価3万8800円台へ、バブル期最高値に迫る
先週末の16日金曜日、東京株式市場の日経平均株価で一時3万8800円台を記録し、これまでの最高値3万8915円にあと一歩、というところまで迫ってきている。さて週明けでどうなるのか、市場関係者には、もはや1989年12月に記録した最高値を上回ることは確実で、4万円台すら窺がうことができるのではないかといった見方すら出始めている。果たして、そうした強気の流れが継続できるのかどうか、バブル経済なのではないかなど、今後の株式市場の行方についても関心がもたれる今日この頃である。
なぜ株価の上昇が続くのか、海外からの資金流入なのに「円安」とは
それにしても、なぜこのような株価の上昇が続いているのか、株式市場に流入する資金は、「国内側では売り越し」なのに「海外勢が買い越し」しているとのこと。ではなぜ海外からお金が日本へやってくるのか。週刊『エコノミスト』2月27日号の「独眼経眼」欄で渡辺浩志(ソニーフィナンシャル・グループシニアエコノミスト)氏は、要約すると次の5点をあげている。
第一に、日本が昨年3月以降進めた「企業の経営改革」=東証の資本効率改善要請にある。つまりPBR=1を上回る要請への評価
第二に、「賃金・物価の好循環」、デフレからの脱却と経済活動活性化に期待
第三に、「低金利政策とインフレ」によって、個人マネーが貯蓄から投資へ移動することに注目
第四に、「脱中国」で、世界マネーが中国から日本へ、中国からも日本へ
第五に、「米国の株高」の影響で、米ハイテク株上昇の波及、分散投資の資金配分によって日本株への投資も拡大へ
こうした様々な要因によってカネの流れが日本株に投じられているのかもしれないが、第4番目の中国からの資金の流入以外は、いずれもこれからの行方に掛かっている。大きく見れば、その根底にはアメリカを中心にした先進国の巨額の資金余剰が存在しているのだろう。それにしても、それではもう少し円高に振れてもいいように思われるのだが、最近の為替相場では再び1ドル150円を超える円安になりつつある。この円安をどう理解したらよいのだろうか。むしろ、この「円安」によって日本株への投資が割安になっていることも大きく影響しているのかもしれない。
日本経済の現実、ドル換算GDPでドイツに抜かれて世界4位だが
その点を検討する前に、日本の経済がどんな状況にあるのか、同じ16日の新聞には日本のGDPが世界4位へと転落したことが新聞の1面を大きく飾っている。円安が響いて人口の3分の2しかないドイツを下回ったとのことだ。GDP自体は名目で591.4兆円と前年より5.7%増え、ドル換算した数値4.2兆ドルがドイツの4.4兆ドルに抜かれて4位になったわけだ。円安頼みの経済政策のなせる業としか言いようがないのだが、この間の日本の国際競争力の低下や経済成長率の停滞が続き、中国に続いてドイツにも追い抜かれたという事なのだ。この名目GDPの絶対水準の落ち込みよりも、国民1人当たり名目GDPではもっと日本の地位は低下し、今やG7の先進国の一員であると称するのが恥ずかしくなるレベル(イタリアに抜かれて7位)へと落ち込んでいる。さらにOECD加盟38カ国では21位にまで落ち込んでいることも指摘しておこう。
GDP順位の低下で、日本人が貧しく不幸になったわけではない
では、本当にそれで日本人が貧しくて不幸なのか、と言えばGDPという数値で見るだけでは本当のところは掴めないわけで、よく指摘されるようにもっと別の幸福度などの指標が開発されるべきだと思う。特に、サービス化した経済の下で、サービスに対する適正な対価が計測されているのかどうか、なかなかむつかしい問題を持っているようだ。ただ、経済の成長という点での伸びは無くなっているし、円安が加速しているためにドル換算して行けば日本経済の落ち込みが大きくなっていることが、こうした順位にまで落ち込んでいることに繋がっているわけだ。円安になる大きな要因の一つが金利差の問題であり、日銀の金融緩和政策の問題でもあることは言うまでもない。
斎藤誠教授、日米の為替相場の格差は50%の円安・ドル高へ
かつて、斎藤誠名古屋大学教授の書かれた日経新聞「経済教室」(2022年9月20日)に掲載された「実質で見る破格の円安 日本経済『体力』低下著しく」から引用させていただいた「実質金利の日米格差と円ドル為替レート」という図表(下記の図表参照)の説明の中で、最近の円安については名目で見るだけでは実態をつかむことができず、実質金利と実質為替レートで円の実力の把握をすべきことを指摘されている。その実態は、名目値1ドル120円から150円に上昇したと騒いでいるが、実は180円から270円へと50%近い円安が進行するほど日本経済の実力が落ち込んでいることを指摘されていた。
われわれは、この50%近い急激な円安の実態を直視し、なぜこのように落ち込んでいったのか、今後はどうしていくべきなのか、真剣に考えていく必要があろう。コロナ禍の下で、日本に抱えた預貯金を「円」で保有・運用するよりも「ドルや外貨」で運用することの方を選択し始めたことが、急激な円安を招いたのではないかと思われるが、今後の調査・研究を待ちたいと思う。
斎藤教授の新著『財政規律とマクロ経済』、
これから起きる巨大自然災害による経済危機へどう対応すべきか、注目の一書
ちなみに、斎藤教授は昨年10月に『財政規律とマクロ経済 規律の棚上げと遵守の対立を超えて』という400ページを超す大著を名古屋大学出版会から上梓されており、そのあたりについての分析を展開されている。日本経済が過去30年間に陥った不可思議な均衡とその行方について分析され、いざ日本列島を襲う巨大災害に直面した際には「過剰な公的債務に対応した過剰な個人資産」を凌駕するような歳出によって日本経済が直面するインフレがハイパーインフレにならないようにするにはどうすべきなのか、という問題提起がなされている。政府・日銀は何をなすべきなのか、なかなか重要な問題を提起されている。今後、斎藤教授のこの著書についても改めて読み込んでみたいと思う。
株価の上昇に浮かれている場合ではない日本経済の弱体化の現実
少し横道にそれてしまったが、株価が過去最高値を超えるかどうか、といったやや浮かれた議論に入る前に、日本経済の力が大きく低下し続けてきたことを真剣に考えるべきことを指摘しておきたい。国民は、冷静に自分たちの資産運用を考えており、株価が史上最高値を超えたからと言って資産運用を転換するという事にはならないのではないだろうか。海外の資本の流れが何時逆流するのか、グローバルな経済の行方に十分な警戒が必要なのだろう。