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労福協 活動レポート

2024年2月26日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第330号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

喜びに浸ってよいのか、34年ぶり株価の史上最高値の塗り替え

先週の22日、ついに日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を塗り替えた(3万8915円→3万9098円)。失われた30年とよく言われるが、振り返ってみた時バブルの崩壊がもたらした爪痕は実に無残なものだった。不良債権の後始末に何と15年近くも要してしまったし、デフレからの脱却には今なお完全には成功しているとは言えないようで、2%のインフレ目標を掲げて金融緩和政策を展開し続けているが、未だに正常な金利政策へは戻っていない。(もっとも、最近植田総裁は国会で労働力不足による賃上げなどを指摘し、インフレになっていると明言しているようだ)。様々な指標を見ても、日本経済の実力は確実に低下し続けているのだ。

それだけに、この株価史上最高値の塗り替えを心の底から喜んでよいのかどうか、一部の株式投資家や企業にとっては喜ばしいのかもしれないが、普通の市民にとってはとても喜んでいるわけにはいかないのだ。何よりも円安による物価上昇に追いつかない賃上げでしかなく、実質賃金が21か月連続してマイナスを記録し、GDP統計では内需の伸びが3四半期連続前期比マイナスとなるなど、国民生活はマクロの平均数値の上でも決して良くなっていない。円安による輸出関連大企業の利益の膨張と株価やマンション価格の高騰による不動産業界(所有者)などが潤っているだけではないのか。

国民生活との落差に唖然、「円安」のもたらした仇花ではないのか

肝心の国民生活を引き上げるためには今年の賃上げがどう展開するのか、中小企業も含めた労働者の生活の行方が心配だ。賃金を引き上げていく労働組合の組織力の弱体化が進んでしまった今日、政府や経団連など大企業が、過去の自らの反労働組合政策(労働分野の規制緩和、とりわけ非正規雇用の拡大や権利の弱体化など)を何ら反省することなく「物価上昇を上回る賃上げを」と発言していることに戸惑いや違和感を強く感じてしまう。

今回の株価の上昇の背景には、前号でも述べたように海外からの資金が大きく流入し、国内の個人取引はマイナス(売り越し)となっているとのことだ。東証によると1980年度に個人投資家は日本株の約28%分を持っていたのが、2022年度には約18%まで低下し、同じ期間に海外投資家は5倍にも増やしてきたとのことだ(朝日新聞の22日報道より)。なぜ海外からの資金が大きく流入しているのだろうか。もちろん、大前提として、企業が利益を増加させ株主に向けた配当性向を引き上げてきたこと(逆に言えば労働者には賃上げを抑制してきた)が挙げられる。それに付け加え、一つには、日本企業とりわけ海外依存度の高い企業の業績が、円安によって大きく上昇していることもあり、海外から見た日本株の価格が、これまた円安によって割安となっていることを上げなくてはなるまい。名目値だけで見ても、ここ1~2年で1ドル120円前後だった日本円の価値が、今では1ドル150円まで下がっているし、斎藤誠名古屋大学教授の試算では、過去30年の実質的な為替レートでは対ドルで50%近い円安となってしまっているとのことだ。多くの海外資本にとって、日本の株式は大いに買い時であることを今回の株価のバブル越えは示していると言えよう。

日銀の進めてきた異次元金融緩和政策は、所得分配にまで影響した

こう考えてくると、日銀が進めてきた異次元の金融緩和政策がもたらした「円安」は、海外からの輸入物価の上昇となって国民生活を苦しめるだけでなく、海外に対して『日本大安売り』となって国民が作り出した付加価値を流出させている。さらに、今でも日銀はETF購入を継続し続けてきており、かなりの企業で日銀が大株主の筆頭に躍り出ていて、含み利益も数十兆円に達しているとの情報もある。

日銀という民主主義的な統制が直接及ばない政府機関の実施する金融政策が、結果として所得分配における格差をもたらしていることに対して、やり過ぎではないのか、という批判が出てきて当然だと思われるのだが、今のところあまり強く出ているようには見えない。円安の進展は、ドル換算した時の国際比較では日本の経済的ポジションの低下に拍車をかけ続けているわけで、結果として、今ではドイツに抜かれてGDPは世界4位にまで落ち込み、やがてインドにも追い抜かれるとのことだ。よく言われる言葉として「第二のアルゼンチン化」への道をひた走っているのだろう。

「流動性の罠」脱却に向け「期待に働きかけ」は失敗したのでは

アベノミクスを支えてきた黒田日銀の金融政策の誤りについて、早急に総括し、正常な金融政策に戻る必要があるのではないか。金融政策は、高いインフレを抑制することはできたとしても、「流動性の罠」に落ち込み、低くなりすぎた金利を金融政策による「期待への働きかけ」を通じて引き上げることはできなかったという事ではないだろうか。最初に「流動性の罠」に陥った時、アメリカのクルーグマン教授が提起した「期待を変える政策」が、結果として失敗したとクルーグマン氏本人が公言してきたわけで、黒田日銀の「期待に働きかけてきた歴史」も失敗の歴史だったと言えるだろう。失敗というよりも、格差社会をもたらしてしまったという点ではアベノミクス全体が「反国民的な悪政」だったとみて良いだろう。

世界のマクロ経済政策の大転換、今では「金融から財政」へ

黒田日銀の10年間は、大量に金融緩和を進めても2年以内にはインフレ目標に到達できず、次いでフォワードルッキング政策からマイナス金利、さらにはイールドカーブコントロール政策と続けてきたものの、2%へのインフレ目標には未だに到達できていないという事なのだ。1980年代に、世界の潮流として「財政政策ではなく金融政策」によって経済をコントロールできると思ってきたミルトン・フリードマンを頂点にしたアメリカの「主流派経済学者」たちは、リーマンショックを経て最近では「金融政策ではなく財政政策」が必要だと転換し始めてきたわけで、日本においてもマクロ経済政策をどう進めていくべきなのか、考え直していくべき時に来ているようだ。

日本の財政は維持可能なのか、肥大化した財政赤字をどうする

その財政政策だが、GDPの200%を超す財政赤字を累積しても物価はインフレになることもなく推移し、金利もゼロ近傍に張り付いてきたわけで、国債を発行しても金利がゼロであれば借換債を発行し続けて行けば何の問題もないのだ、とばかりに財政規律が緩みっぱなしで推移している。かつてはプライマリーバランスの回復を目指した財政規律の回復問題が国会で激しくたたかわされてきたわけだが、今ではほとんど問題にならなくなっている。財政政策には、資源配分機能と所得再分配機能、更には経済安定化機能もあるわけで、その活用によって日本経済をどう立て直していけるのか、今後の重要な課題だと言えよう。


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