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労福協 活動レポート

2024年5月13日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第340号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

門間一夫元日銀理事のコラム「政府債務が減殺する利上げの効果」に注目

門間一夫さんというエコノミストに注目している。元日銀の理事を経て今は”みずほリサーチ&テクノロジーズ”というシンクタンクのエグゼクティブエコノミストとして活躍されている。その門間氏が、毎月1回「門間一夫の経済深読み」というコーナーをシンクタンクの情報誌(電子媒体)に書かれていて、最新の4月30日号では「政府債務が減殺する利上げの効果」という論文に大変興味深く感じたので、今回はその内容の紹介を中心に問題提起してみたい。

「利上げで財政破綻という怖い話は起きない」のだ

この論文で最初に提起されているのは、「利上げで財政破綻という怖い話は起きない」のだという事を説明される。

よく日本の今の巨額に及んだ財政赤字の累積がGDPの265%(グロス)、ネットで114%に達しているため、金利の引き上げに脆弱で、財務省の試算では1%の引き上げで利払い費が8.7兆円にもなるとのこと。それだけ財政負担増となって深刻な財政危機をもたらすのではないか、という声を聴く。

その点について門間氏は、財政の出だけでなく、入りの方もインフレの下で税収増となるわけだし、支出面でもインフレ下では財政赤字を減らすチャンスにもなりうることを指摘。さらに、金利支払いは長期債が中心で徐々に増えていくわけで、政府が対応できる時間的余裕があること。また、市場の過剰反応による長期金利の上昇や円安に対しては、日銀の国債買い入れや政府の為替介入という非常手段もあり、対応が可能だと述べておられる。なかなか説得的であり、間違った思い込みを振り払う必要がある点だと思う。

「大きな政府債務が利上げの効きを悪くする」という「不都合な話」

次に提起されているのが、「大きな政府債務が利上げの効きを悪くする」という点で、経済政策を考えるうえで「不都合な話」として問題提起されている。この点は、金利の引き上げによって景気を抑制しようとした場合、利払い費が1%で8.7兆円増えた分は、廻り回って民間の収入となって景気を刺激する効果を持つようになるのではないかと指摘しておられる。

最近、アメリカのFRBが、金利を引き上げて景気抑制を進めたにもかかわらず、景気は落ち込むどころかむしろ好況になったのではないかと言われている背景に、バイデン政権の財政支出の拡大があることを指摘する向きもあるわけで、財政赤字の巨大化による有効需要拡大は金融政策の効果を弱めてしまうのではないかと指摘される。利上げによる総需要抑制効果が財政による需要拡大政策で相殺されることを、金融理論の「異時点間の代替効果」が「政府債務が大きい」ことや「家計の資産が大きい」というストック変数が取り込まれていないことの問題を提起されている。つまり、政府債務や家計資産から生ずる金利の所得効果は無視できないレベルに達しており、これまでの金融政策の理論を見直さざるを得なくなっているのではないかと指摘される。アメリカ以上にGDP比の財政赤字が大きい日本では、その与える影響はアメリカ以上になるのではないだろうか。1990代半ば以降、本格的な利上げの実施がない日本だけに、今後利上げが実施されればどうなるのか、しっかりとマクロ経済政策の在り方を議論しておくべき点だと思われる。

「物価の安定は金融政策に『おまかせ』でよいのか」財政と金融ともに役割が必要では

最後に「物価の安定は金融政策に『おまかせ』でよいのか」と問うておられる。この点は、財政が安定するためには基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化すればよいという考え方に対して、「政府の利払い費増は総需要の刺激要因」という点に着目すれば不十分で、財政収支全体を見るべきだという事になる。という事は、物価については金融政策の専権事項という考え方ではなく、財政政策と一緒になって対応していくことが重要になることを指摘しておられる。

特に、この間の日銀が進めてきた「2%の物価上昇目標」にむけて異次元の金融緩和政策を取り、政府発行の国債を事実上無制限に買い上げようとしたのに、政府の国債発行額が伸びなかったことで「2%目標」実現の障害になったのではないかとさえ見ておられる。これからの「物価の安定」に向けては金融政策に全面委任するのが適切なのかどうか、財政政策がより積極的に関与する必要があるのではないか、という大変重大な問題提起だと受け止める必要がある。それは、更に為替相場にも影響してくるだけに、金融と財政の分業関係の在り方の再考が求められているとみておられる。

それにしても、日本の累積財政赤字の巨大化という新しい条件の下で、今後のマクロ経済政策の在り方が根本的に問われているようだ。ヒックスの『IS-LM分析』の持つ問題点も含めて、よくよく議論していくべき時なのかもしれない。国会での経済政策の在り方についての論戦の場でも、こうした観点からの論議が活発化されることを望みたいものだ。

【前号における反省点と感じたことについての補強】

前号で毎日新聞社の発刊している『週刊エコノミスト』で19回に分けて再掲された小宮隆太郎東大名誉教授の『現代資本主義の展開 マルクス主義への懐疑と批判』を論評し掲載したのだが、ある読者から何点かについてのご指摘を頂戴したことに応えておく必要があると考えた。

第1点目は、ハイエクとフリードマンを同列において市場万能主義と批判していることに対して、ハイエクは「もっと<深み>があります」というご指摘があり、ハイエクに関して十分な学習をしていなかった事を率直に反省している。

第2点目として、私が「斎藤幸平准教授の新しい資本論理解、宇沢理論の二番煎じでは」という点について、斎藤准教授が書かれた『人新世の資本論』に疑問を持たれたこと、さらに宮本憲一先生が書かれた新著『われら自身の希望の未来』(宮本背広ゼミナール編 かもがわ出版刊)のなかで、宮本先生からも斎藤さんの主張やスタンスに率直な疑問が出されているとの指摘を受けてきた。

私自身、それほど斎藤准教授の論文などを読み込んでいるわけではなかっただけに、宮本憲一先生の書かれた新著を早速購入して連休中に目を通すことができた。詳しいことは別の機会に譲りたいが、1962年四日市のコンビナートの公害問題を最初に問題提起されてきた宮本教授に対して、都留重人さんから翌年学際的な公害研究委員会の立ち上げが提起され、日本で初めて公害研究のスタートが切られたことを知る。こうした歴史を踏まえて斎藤幸平准教授は、この新著での宮本名誉教授との対談の中で次のように結んでいることを知り、「宇沢弘文氏の二番煎じ」という言葉はやや不適切なものだったと思ったわけで、この通信読者の皆様方にもそうした思いを述べさせていただきたい。

「斎藤幸平 『宮本、・都留・宇沢がいて、社会運動があった時代をもう一度取り戻したいと思います。・・・』」(『世界』2022年4月号、6月号「人新世の環境学へ」 宮本背広ゼミ研究会で2021年12月対談を佐々木実氏が構成したものより)

そこには、宇沢という名前が入っており、もちろん宇沢弘文氏の事なのだ。社会運動や学問の歴史で、きちんと継承して行く決意を吐露されたと思うし、期待していきたい。

蛇足ではあるが、『週刊エコノミスト』誌の最新号で、編集部がこの論文を乗せた経緯に触れておられるが、当時のマルクス主義の影響力がいかに強かったかを述べておられるだけだったことを付記しておきたい。


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