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労福協 活動レポート

2024年6月17日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第345号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

死に体の岸田政権、今週末の「骨太方針」策定へ、何が問題か

与党自民党を揺るがした「政治とカネ」の問題は、何とも中途半端な政治資金規正法の改正という事で一件落着かと思われたのだが、法案賛成に回った維新との間で合意された内容の詰めが甘かったようで、終盤国会が近くなってもゴタゴタが続いている。わざわざ両党の代表が署名した「合意文書」がありながら、「だまされた」という維新馬場代表の言葉が虚しく響く。それにしてもなんとも締まりのない国会ではある。支持率の低下(最新の時事通信6月調査では16.4%)が続く岸田内閣は、事実上の死に体内閣と化しており、解散総選挙に打って出ることもままならず、今週末の21日には来年度の予算編成の指針となる「骨太の方針」を策定することになっている。どんな経済・財政政策を進めていくのか、日本経済をどうしていくのか、あまり注目されていないのは岸田総理のリーダーシップの欠如だけではあるまい。

資本主義経済は「過渡期」なのか、行方の定まらない政策へ

日本経済をどうして行けば良いのか、リーマンショック以降の新自由主義からの転換はどうすればよいのか、経済政策思想が定まっていない過渡期であることも影響しているのだと思えてならない。資本主義の総本山であるアメリカでは、財政政策が大判振る舞いともいえる大型財政を組んでいるわけで、インフレを抑え込もうとするFRBに対してバイデン政権の経済政策は、インフレ促進という矛盾した政策のかじ取りが世界経済を混乱させているのだと思う。日本経済の関係者からは、FRBの金利引き下げを切望しているのに、インフレの鎮静化があまり進展せず、期待外れとなっているようだ。他力本願では事態の好転は望めないのだが、それにしても「過渡期」に続く時代をどう見て行けば良いのか、経済の専門家たちの出番のはずなのだが…。

日銀の「政策決定会合」、「円安」の進展に翻弄される金融政策

そうした中で、先週は日銀の政策決定会合が13~14日にかけて開催され、国債購入額の減額に向け7月の次期会合で踏み切ると表明したものの、注目された政策金利の引き上げには至らなかったわけで、この会合直後にも円安が進んでいる。よく言われる国際金融のトリレンマは、自由な資本移動の下で、自国独自の金融政策をとれば為替相場の安定は望めなくなるわけで、一次的に強引な為替介入を採ったとしても、限界があることは言うまでもない。現に、日本政府が4月末から5月初めにかけて実施した為替介入の金額が明らかになったが、総額10兆円にも喃々とする過去最大規模の円買いドル売りを実施し、一時は160円から150円近くのまで押し下げたものの、最近では再び150円台後半にまで円安が進展している。国際的には認められていない為替介入を採ることの是非について、その費用対効果も含めて、よくよく考えていく必要がありそうだ。

「円高」恐怖症から「円安」嫌悪感へ、問題は日本経済の国際競争力の劣化にあるのだが…

かつてデフレ下で1ドル80円を切るような「円高」に苦しんでいたことのトラウマから、経済界には「円安」を歓迎する時期もあったのだが、大企業を中心に国際的な資本投下が進められ、今では「円安」となっても日本経済にとって輸出金額の拡大効果がそれほどでもないようだ。むしろ海外からの輸入価格の高騰によるインフレが企業や国民生活を圧迫し、急激に進む「円安」への嫌悪感が高まっている。

円安の要因は、長期的には日本経済の国際競争力の低下にあることは衆目の一致するところであるが、短期的には世界各国との間での金利差に依るわけで、先に述べた日米の円とドルとの間の短期の政策金利差は約5%に達している。今回の日銀の金融政策決定会合が注目されたのは、4月末の日銀総裁の記者会見で、記者からの質問で日銀の政策転換が為替相場に与える影響を聞かれた際に、「基調的な物価上昇率に大きな影響を与えていない」と発言し、直後から円安が進展し、5月7日に岸田総裁に官邸に呼ばれて懇談直後から「政策運営上、十分に注視していきたい」と修正し、過去に比べ物価に影響が及ぼしやすくなっていると発言するに至っていた。それだけに、次の7月の会合での利上げがありうるのか、という記者からの質問にも、ありうることを明言している。日米の金利差の縮小が同時期に進められることに期待する声が強いのだが、日本の場合デフレからの脱却に向けて「2%の物価目標の実現」という2013年に結んだ縛りが強く影響しすぎているようだ。

何時まで固執するのか「デフレ脱却」、今年の「骨太方針」原案

一方、政府の「骨太方針」の方は、11日に原案が経済財政諮問会議に提示され、今週21日には確定することになっている。デフレからの完全脱却を目指し、来年も賃上げ定着を後押しし、賃上げと物価上昇の好循環を進めることや、依然として2%のインフレ目標を実現するという点では変更は見られない。今年の骨太方針で注目されているのは、基礎的財政収支の黒字化を2025年度に実現するという目標を再び掲げたことであり、インフレもあって70兆円超の税収があり、内閣府の試算によれば25年度の財政赤字見通しが1.1兆円にまで縮小するとの事だ。何よりも、賃上げ率やインフレ率よりも国債の金利が低くなり、国債費が圧縮されることで財政収支のゆとりが生まれるとの見通しを立てている。もちろん、例年通りの大型補正予算を組めば困難となるわけだが、明らかに財政規律がゼロ金利制約の下で弛緩しつつあることは確かだろう。

日銀の金利復活、財政の持続可能性は大丈夫か、成長の源泉たるイノベーションはどうなる?

それ以上に考えるべきは、日銀の金利復活により長期金利の国家財政に与える影響である。内閣府の試算によれば、名目金利が2.4%の場合、14.8兆円もの利払い費が膨らみ1.0%でも12.3兆円になる見込みとのことだ。政府の経済見通しは、人口が減少すする中で、実質成長率は1%を安定的に確保し続けるという前提であり、国民一人当たりの成長率に換算すれば2%を維持できるという夢のような話なのだ。人口減少が続く日本経済の潜在成長率が0~1%程度でしかない中で、人口一人当たり実質2%の成長を実現できるだけのイノベーションが急速に進むとも思えない。政府が半導体への支援措置を盛り込んでも、本当にそれが成功するのかどうか、まことに危険極まりない道へと踏み出し始めている。民間が立ちすくんでいるのに、政府が前面に出ている「ラピダス」への出資金額は、最終的に数兆円にまで膨らむとのこと。過去にも先端産業育成に失敗したことなど経産官僚には関係ないのだろうか。

急ぐべきは「2%のインフレ目標」の柔軟化ではないか

それよりも、政府が考えるべきは、日銀との間で結んだ2013年のアコード「2%の物価上昇の実現」を「2%程度の物価上昇の実現」と余裕を持たせることではないだろうか。多くの専門家は、あまりにも厳格な物価上昇目標に縛られて政策の柔軟性を失っていることへの批判が強くなっていることを無視することはできない。そもそも今の日本経済の課題が「デフレからの脱却」であることを指摘する専門家はいなくなっているのではないだろうか。


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