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労福協 活動レポート

2024年7月1日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第347号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

総裁選に向け風雲急を告げ始めた自民党、岸田総理は再選目指す

岸田総理に対する国民の支持率の低下とともに、自民党内での岸田降ろしの動きがようやく出始めてきた。岸田総理とあまり関係の良くないと言われる菅前総理が岸田総理を厳しく批判し、国民的人気の高いといわれる石破元幹事長の名前を上げながら、9月の総裁選挙での交代を迫ろうとしていると報道されている。これを受けて石破氏が総裁選挙への出馬を検討し始めているという朝日新聞のスクープ記事が出ており、風雲急を告げ始めたようだ。菅前総理と対抗すべく麻生元総理の方も、次の総裁選挙でのキングメーカーとしての立ち回りも意識し始めたのだろう、いろいろと若手有望株と言われる人物の動きが注目され始めている。安倍元総理という後ろ盾を失った高市早苗氏も、推薦人確保に向けて動き始めているようだ。

もっとも、7月7日の東京都知事選挙の投開票の前であり、自民党の総裁選挙の争いが前面に出ないように配慮しており、7日以降2か月間、総裁選挙に向けて激しく動き始めるのだろう。それだけに、再選に向けてやる気満々と言われる岸田総理だが、何とも「気の抜けたような経済対策」を打ち出してはいるものの、党内における支持率低下を大きく覆すだけの政治的パワーに欠け、地方行脚で巻き返そうとしているとのことだ。

「宏池会」は変質したのか、大平元総理と対照的な岸田総理

岸田総理は名門派閥「宏池会」を率いてきたリーダーだっただけに、かつての宏池会の先輩である故大平正芳元総理と比較するコメントが目についた。一つは朝日新聞の政治部次長高橋福子氏が書かれた「岸田政権、繰り返す『その場しのぎ』の政治 対照的だった大平元首相」(6月24日電子版)である。

冒頭で6月10日に開催された自民党所属国会議員が参加する勉強会で、岸田総理が「世論(せろん)と輿論(よろん)」を区別し、「輿論」とは政治にとって背いてはならないもの、信念をもって、ぶれずに、輿論を重視した政治を日本の未来のためにも、そして国民のためにも進めていかねばならないと語ったとのことだ。

高橋次長は、熊本での水俣病患者らの団体の会合でマイクロフォンを切った一件での処置や、自民党の杉田水脈議員の人権無視の発言を放置し続けている問題、さらに森山正仁文科大臣の統一教会との関係について不問にしていることを挙げ、これらの問題に共通しているのが「国民に向き合うことよりも、批判をかわすことばかりを優先する『その場しのぎ』の政治姿勢だ」と断じておられる。この評価は、この3年近い岸田政権の動きの本質をものの見事に言い当てており、全くその通りだと思う。

その対照的存在として故大平正芳元総理を上げて、財政再建を目指して「一般消費税」を導入して戦ったことを取り上げておられる。当時(1979~80年)大平首相の発言に注目してみていた者の一人として、選挙戦の最後は「一般消費税引き上げ」は選挙公約からは取り下げられたことを知るだけに、全面的に高い評価するには少し躊躇する思いを持つわけだが、それにしても今ではとても考えられない「真っ当な」政治家であったことは間違いない。高橋次長は「今の宏池会は変質した」と嘆いておられたのもムベなるかなである。

日経新聞大林編集委員、「大平研究会」を高く評価は良いのだが!!

もう一つは、日本経済新聞の編集委員大林尚氏が書かれた「同質性に変する岸田政治」という6月24日の「核心」というコラム欄の記事である。冒頭から大平元総理の亡くなられた1980年6月12日、なんと、まだ学生だった大林氏が大平総理の実家に弔問に出かけたことを書かれ、その大平総理が多くの学者や官僚を結集して「大平政策研究会」がまとめた報告書について言及する。その研究会への参加を渋る学者に対して、自民党とか大平内閣とかは忘れてもらっていいから参加して欲しいとのことに言及。大林氏はそうした大平氏の信条について次のように高く評価する。

「大平は自らの軸とする政治信条を抱きつつ、そこに収まりきらない思想や理念を咀嚼(そしゃく)し、政策形成に生かす度量を有していた。これこそが令和の政策決定者に乏しい資質ではないか」

子ども子育て支援金、最初から消費税対象外でスタートしたのだ

令和の政策決定者とは、名指しはしていないが大平も率いた「宏池会」の後輩である岸田総理なのだ。その岸田総理の政策決定の問題の一つとして「子ども子育て支援金」を挙げ、官邸が政権の意向に従順な人を多数が占める官邸会議で決め、「少子化対策に新たな財源が必要なら消費税の増税が望ましいと考える経済人も、押し付けられるように支援金への賛意を表明させられた」と述べている。岸田総理が、今回の子供子育て支援金の財源として、あらかじめ大前提として「消費税の増税は考えない」と決められてスタートしたわけで、消費税の増税も選択肢として挙げて良いのであれば、おそらくその財源には消費税が取り上げられた可能性は高い。そのあたりの経緯を十分にご存じなのだろうか。

未だに基礎年金全額税方式を主張するとは、勉強不足ではないか

さらに大林氏は、今論議されている年金制度の論議において「基礎年金財源の消費税化をはなから選択肢の外に置く」ことへも問題視されている。つまりは、「熟議を経ながら政策・制度や問題の解決策、理念を形づくり、成案を得るまでの過程から多様性を排除しているのだ」とのべ、最近の政府の各種審議会委員の専門家の選出に物申しているのだ。

2004年の年金制度改革以降、かつての民主党が基礎年金の消費税による全額税方式化を提起し、2009年の政権交代時に結局実現できなかったことを全く無視されている。つまり、実現可能性に欠けた「基礎年金全額税方式化」を、ここでまた取り上げることのお粗末さを大林編集委員は自ら暴露しているに過ぎないのだ。大平元総理の持っておられた「自らの政治信条」に「収まりきらない思想や理念を咀嚼し、政策形成に生かす度量」のレベルではなく、「誰しもがもはや認めざるを得ない事実を、意固地になって認めたくない」という”じゃじゃっ子”でしかないことを天下に吐露しているに過ぎないのだ。

恥ずかしい限りだが、それを本人が認識できていないで天下の日経新聞コラムで語っているのが滑稽ですらある。

ペンネーム「吾妻橋」さん、5年前の資料を読み直してはいかがか

年金と言えば、今厚生労働省の審議会で5年に1度の財政検証が検討中である。その論議に、これまた6月28日付の日本経済新聞の「大機小機」欄に、「吾妻橋」というペンネームで「改革不在の年金財政検証」というコラムが掲載された。

今や、年金制度について大手マスコミではあまり議論されることが少なくなっているわけだが、それというのもかつての民主党政権時代に基礎年金の全額税方式化を始めとした公約が、「トンデモ」年金論であることを新聞記者の方達も十分理解されてきたことがあるのだろう。

「吾妻橋」氏は少子高齢化に対して、受給開始年齢の引き上げが無ければマクロ経済スライドでは対応できないのではないか、日本の年金水準はOECD調査によれば平均賃金と比べた厚生年金などの個人の給付水準は39%でOECD平均の61%などに大きく見劣りがする、とも述べておられる。いちいち反論はしないが、こうした論点については、既に5年前の2019年の財政検証の時、厚労省が作成した資料(https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000540589.pdf)で見事に論破されているのだ。「吾妻橋」氏は、実名を名乗って堂々と論陣を張られてはいかがだろうか。


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