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労福協 活動レポート

2024年7月29日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第350号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

国際的には高い評価、日本の公的年金制度をどう改革すべきか

日本の公的年金は5年に1度の財政検証の年にあたっており、7月3日に改正すべき論点が示され、今様々なところで議論が展開されている。今年の秋には厚労省の審議会での論議と同時に与党内での議論によって改正案が確定・提起され、来年1月からの通常国会で改正法案が審議決定されることになっている。

日本の公的年金制度について、国際的には高く評価されているようで、各国から調査・視察に訪れる専門家が増えているとのことだ。先進国では日本と同じく少子・高齢化が進展しており、「年金財政を維持していくためには支給開始年齢を65歳から67歳へと引き上げた」りしているわけで、働いてようやく年金生活に入れると思っていた労働者たちが、怒り心頭に達して「ゼネストに突入」したりしていることを知るにつけ、日本では60歳から受給でき、65歳の基準年齢から延長して70歳、更には75歳まで受給開始を遅らせることも可能となっている。当然早く貰えば年金支給額は減額され、遅く受給すればそれだけ高い年金額となるわけだ。今、60歳と70歳を比較すると、「70歳の受給額はちょうど60歳の2倍」となり、75歳受給開始になれば65歳基準を1.00とすれば1.84倍(70歳では1.42倍)の受給額となるわけで、自分の年金受給額を自分でいつから受給すれば老後生活が安定できるのか、自分で決められるわけだ。

マクロ経済スライドが既裁定年金にまで適用される日本の年金

こうした受給開始年齢の問題と同時に、少子高齢化の進展などに伴う年金財政の悪化に対して、既に2004年改正で「マクロ経済スライドという仕組み」を導入し、若い世代が賃金引き上げたとしても、年金所得には引き上げ率が少し減額されて適用することになっている。フィナンシャルプランナーの井上ようすけ氏の表現によれば、「年金は減る」というよりは「現役世代ほど年金額は増えない」というのが現実だと氏のユーチューブで述べておられたが、けだしその通りだろう。こうしたマクロ経済スライドと同時に、既に支払われている年金支給額(既裁定年金という)は、諸外国では既得権として切り下げられることは無いのだが、日本においては規裁定年金にまでマクロ経済スライドが適用されるわけで、世界各国は日本におけるこのような仕組みを入れたことに注目しているとのことだ。

日経新聞論説委員柳瀬和央氏のコラム「縮みゆく国民年金の未来は」を読んで感ずること

ちょっと前置きが長くなってしまったが、ここのところマスコミ各紙でも年金制度についての論評が掲載されることが目につき始めているが、どうしてこのようなことが問題として取り上げられるのか不思議に思うことがあるわけで、今回はそうしたことについて取り上げてみたい。

最初は日本経済新聞の論説委員柳瀬和央氏が、7月24日付「オピニオン」欄の「中外時評」に掲載された「縮みゆく国民年金の未来は」というコラムである。日本経済新聞にはこの分野には大林尚編集委員もおられるわけで、どんな問題を提起されているのか興味深く読ませていただいた。

手際よく「財政検証の提起している問題」について整理されている

冒頭から今年の財政検証の結果について、実に手際よく整理されており、「勤労が最良の薬である」と喝破され、国民年金ではなく厚生年金(共済年金も上げておられるがすでに9年前厚生年金に統合済み)に加入することが重要だと指摘。働き続けることができれば69歳まで厚生年金保険料を納めることになるなど、今年の財政検証は好転し厚生年金の2階の報酬比例が充実するだけでなく、意外な効用として国民年金の積立金が厚生年金に移行する人が増えれば一人当たりでは増額し、国民年金(基礎年金)財政が好転することを指摘する。かくして、一番問題とされた基礎年金の所得代替率の低下がモデル世帯(会社員と専業主婦の妻)で現在36.2%が、5年前の財政検証では2046年以降26%程度にまで落ち込むとされていたのが、女性や高齢者の労働参加が近年ペースで進めば2037年以降も32.6%を確保できることになる。つまり、前提条件として今まで程度の経済条件であれば、結果として報酬比例の2階建て部分も含めて所得代替率が50%台を確保できるという見通しとなったわけだ

国民年金加入者を、どう厚生年金加入へと増やしていけるのか

かくして柳瀬論説委員は「1、2階両方の増額効果が確認された厚生年金の適用拡大は、少子高齢化できしむ年金制度を癒す『最良の薬』として浮上したことになる」と述べておられる。という事になれば、いま国民年金に入っているパートや個人事業所の下で働く1060万人の厚生年金の対象外の人たちをできる限り厚生年金の網の中に取り込んでいく必要があることを指摘されている。

ここまでは、まさにその通りなのだと思う。問題はその後の指摘であり、厚生年金加入が増えて国民年金加入は学生と無職者、それに専業主婦(?)だけとなり、約1200万人となるが、無職者と学生には保険料の減免制度があり、半額は税による国庫負担が支出される。柳瀬氏は小さくなったのでこの層には税金を厚くして「基礎年金の最低保証機能を引き上げ、低年金に陥る事態を防ぐ」ために新たに「福祉年金」への衣替えを提唱される。

少なくなっていく国民年金加入者、税投入の「福祉年金」に衣替えとは大問題だ

ちょっと待って欲しい。基礎年金は、国民年金だけの無職や学生だけでなく厚生年金加入者である2号保険者にも適用されているわけで、国民年金対象者だけでは分離して税を厚くするわけにはいかないのだ。ましてや、国民年金対象者が無職と言えども「資産は保有しているのかどうか」、税を厚く投入するという事になれば、公平性がより厳しく問われることになるのは火を見るよりも明らかではないだろうか。

もともと、国民年金制度を1961年に公的年金に組み込んできたのは、当時の政治状況があり、躍進著しかった日本社会党に政権の座を奪われるかもしれないと思った自由民主党が、所得捕捉が正確にできていない農家や自営業など(クロヨンやトウゴウサンピン)の方達まで含めて国民皆年金制度を無理やり創り、定額保険料で定額年金支給という「無理筋の年金」を作ったことから問題を持ち続けてきたわけで、今それを加入者数が少なくなったからと言って税による最低生活保障に転換することには問題があると言えないだろうか。

第3号被保険者の基礎年金部分も含め、夫婦で年金支給額を2分割される現実

もう一つ、第3号被保険者をどうするのか、という点であり、柳瀬氏は夫の収入が高いと妻の就業率が低くなる「ダグラス・有沢の法則」が成立する日本の現実を上げ、この層には「福祉年金」の支給はできないと述べておられる。ちょっと待って欲しい。専業主婦の3号被保険者の年金保険料は、夫である2号被保険者が連帯して支払っているという事になっているわけで、そもそも国民年金の被保険者と一緒にすること自体がナンセンスなのである。既に2004年の年金制度改正で、3号分割として専業主婦と夫は、夫の稼ぎを2分割して計算されることになっているわけで、離婚という事態になれば直ちに妻の年金権が半分設定されていくことになるのだ。

柳瀬論説委員は、せっかく今回の財政検証の結果を正しく理解され始めておられるのに、国民年金の問題と三号被保険者の問題ではよく理解できない問題提起になっており、改めて年金制度の複雑さを十分に理解されて論説に携われることをお願いしたいものである。社会保険料と税の違い、さらには「防貧」機能と「救貧」機能の違いなど、よくよく理解して欲しい点である。

どうにも理解不能な八代尚宏教授の「基礎年金税方式化」提案

日経新聞以外にも、これは問題ではないかと思う論稿が書かれている。八代尚宏昭和女子大特命教授が毎日新聞電子版7月23日付の「政治プレミア」欄で、「『長生き』に対応できる年金制度とは」というかなり長い論文を書かれている。いろいろと論点が多岐にわたっており、もはや今回の問題指摘の字数も限界に来ている。その中でも特に問題視しておきたいのは、相変わらず「基礎年金の税方式化」という提案をしておられる。この点は、民主党政権に転換直前の2009年社会保障国民会議で決まった内容で、年金未納問題や三号被保険者問題などを解決する特効薬として取り上げられている。同じ提案が、民主党政権の時代にもあり、それが実現可能性の点で論破され挫折した事を八代教授はご存じではないのだろうか。今では、どこの政党も「基礎年金税方式化」をまともに取り上げるところはなくなっているのではないか。

基礎年金改革の重要性は言うまでもないが、あまりにもフィージビリティやサステナビリティに欠けた制度改革は無理筋ではないだろうか。


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