2024年9月24日
独言居士の戯言(第357号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
日米中央銀行の政策金利、アメリカの利下げは株価上昇に朗報
一国の総理大臣や大統領を選ぶ選挙戦が日米で展開されているだけに、政治の動きが注目される今日この頃ではあるが、久しぶりに経済の動きにも注目していきたい。というのも、日米の中央銀行の政策決定会合が先週実施され、アメリカでは政策金利が0.5%引き下げられ、これからも年内に金利の引き下げがあと2回程度進められると見込まれている。これに対して日本銀行は、金利の据え置きを決定し、日米金利差は少し縮小したものの為替相場への大きな影響までには至らなかったようだ。
アメリカのFRBによる金利の引き下げは、既に先月末のジャクソンホール会合(世界の中央銀行関係者達がアメリカのワイオミング州の景勝地で一堂に会する)でパウエル議長が実質的には約束していたわけで、引き下げ自体よりもその「引き下げ幅」が通常の0.25%でなく0.5%というところに注目が集まった。パウエル議長は、本来なら7月に0.25%引き下げるところだったが、それができなかったので今回0.5%引き下げたと記者会見で言明していたようだが、大きな経済ショックが起きない中での金利の引き下げは、やや異例のことといえよう。議長は、雇用の悪化が進んでいたわけで、そのデータの入手がもっと早ければ7月の会合で0.25%引き上げたとのことだ。アメリカの中央銀行は物価と並んで雇用も重要な監視目標であり、日本の様に物価の安定だけではないことに注目すべきだろう。
トランプ候補、大統領にも金融政策に発言の場を要求へ
この利下げやこれから年内にかけての利下げ予想(あと2回が多い)も加わり、ますます株価の上昇へと拍車がかかるわけで、11月5日の大統領選挙に向け民主党政権にとっては朗報といえよう。共和党のトランプ候補は、こうした一連の動きに批判的であることは十分に予想されるのだが、それ以上に自分が大統領になったら金融政策に対して大統領の立場から介入できるようにしたいと述べるなど、中央銀行の独立性に対する真っ向からの挑戦を仕掛けている。選挙結果によっては、アメリカにとって大きな問題となる危険性があるわけで、厄介な問題を抱える危険性をもっていることは確かだろう。
株価の大幅下落の原因となったのか、日銀利上げにクレーム?
さて、日本の金融政策の方に目を向けてみたい。前回7月の金融政策決定会合では0.25%の金利引き上げを断行し、記者会見で植田総裁がさらなる引き上げ発言もあったせいだろう、1日としては史上最大の株価の大幅下落を8月4日に記録するなど、金融市場の動揺を招いた一因とされている。この株価の大暴落直後には、植田総裁は岸田総理から官邸での面談を求められ、何らかのやり取りがあったことは確かなのだろう。その後の日銀総裁の発言はトーンダウンし、7月記者会見での「引き続いての利上げへの言及」は、今回の会合後の記者会見では慎重な姿勢に変化しており、これから金融正常化に向けて金利を引き上げることは、年内は難しいのではないかと見る専門家が増えている。
それにしても、もはや日本経済はデフレではないのではないか
日銀といえば、今の金融緩和を転換するためにはデフレからの脱却が必要であると強調してきた。その根拠として一つは今年の賃上げが物価の引き上げに結び付いているのかどうか、という点であり、もう一つは日銀がデフレ脱却の4つのポイント(①消費者物価指数②GDPデフレーター③需給ギャップ④ユニットレーバーコスト)をクリアーしているかどうかである。
最初の賃金の上昇が物価の上昇に結び付いているかどうか、とりわけサービス価格の上昇につながっているのかどうかが焦点であった。一般消費者物価は2%を2年以上に亘って上昇し続け、最新の8月のデータでも2.8%の上昇となっている。賃上げが定昇抜きで3%台の上昇となっていたわけで、実質賃金は今のところ辛うじてプラスとなっている。問題はサービス価格が賃上げ額を反映した上昇となっているのかどうかだが、1%台のアップでしかなく、賃上げがサービス産業分野には十分に広がっていないことを示しているようだ。
アベノミクスはデフレ脱却に効果があったのか、検証すべきだ
もう一つのデフレ脱却の4条件であるが、③の需給ギャップ以外の3項目はいずれもクリアーできているわけで、需給ギャップの解消が不十分であると内閣府は見ており、政府として「デフレ脱却」宣言は未だ発出していない。
とはいえ、もはやデフレ状態であるというには物価上昇が2年以上続いているわけで、厳格な基準の必要性が必ずしも求められるとは思えないわけで、日銀の金融政策の転換を求めていくべき時に来ているのではないかと思われる。どだい、アベノミクスで続けられてきた超金融緩和政策は、デフレからの脱却にどの程度効果があったのか、その成果を厳しく検証すべき時ではないだろうか。海外からの輸入物価の高騰から2%を超える物価上昇に結び付いたわけで、アベノミクスの下で進められた黒田日銀10年間の超緩和金融政策の効果だったとはとても思えない。
高市早苗氏だけ日銀の金融緩和維持を主張、背後に安倍ブレーン
そうした中で、総裁選挙候補の一人である高市早苗経済安保担当大臣が、ただ一人「日銀は金融緩和政策をやめるべきではない」とアベノミクスを継承するよう主張している。背後には、アベノミクスを主導していた本田悦郎氏らの助言があるとのこと。ある情報筋の話では、高市氏が総理大臣になれば本田悦郎氏を日銀総裁にしたいと発言したやに聞く。これから自民党総裁選挙の結果が出てくるわけだが、何とも金融政策の在り方にまで大きく影響する可能性を持っていることから目をそらすことはできない。アベノミクスに対する9人の候補の考え方をきちんと問いただしていくべきではなかったか、マスコミ関係者に是非とも候補者に対して実施して欲しかった重要な論点ではなかっただろうか。
今からでも遅くはない。朝日新聞がすっぱ抜いた証拠写真である自民党と統一教会とのただならぬ関係についての党としての再調査の実施の是非と共に、追加的に緊急質問をしてもらいたい課題ではないだろうか。