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労福協 活動レポート

2024年10月21日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第361号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

総選挙の行方、自公で過半数は確保と読むマスコミ報道だが

総選挙が始まり、27日の投開票に向けて各党の戦いの火ぶたが切られた。自民党は、公明党を含む与党で過半数超えを目標として掲げたのに対して、野党第1党の立憲民主党は自公による過半数を阻止し、自らは比較第1党を目指すとしている。野党の選挙協力は結果として殆んどの選挙区で実現できず、多くの野党候補者が乱立する小選挙区でどこまで自民党候補を打ち破ることができるのか、政権交代の実現が本当にできるのかどうかが問われている。序盤戦の朝日新聞を除く主要マスコミの調査によれば、やはり与党自民党が苦戦をしているようで、公明党の獲得議席を入れたら過半数は何とか確保できるとのことだ。これから残る1週間、どう展開していくのか注目していきたい。

争点は「政治とカネ」だが、国民は物価や社会保障を求めている

やはり最大の争点は自民党を巡る政治とカネの問題なのだろう。裏金問題での12名の非公認(うち3名は出馬取りやめ)という処分を含めて、国民がどのようにそれを評価するのかが問われている。石破総理は、自民党総裁選挙における「総選挙前の国会での予算委員会の開催」といった発言をいとも簡単に翻し、一瀉千里で解散・総選挙へと突入したわけだが、総裁選挙での自らの持論には蓋をしてしまい、総選挙向けの政策は前任者である岸田政権時代へと舞い戻ってしまったかのごとくである。アベノミクスに対する評価も、総理就任前と後では真逆になっていることに唖然とさせられる。

政治とカネの問題だけが最大の問題なのだろうか。確かに、国民の自民党に対する批判の高まりの背景には「裏金」問題があることは間違いない。それは厳しく問われなければなるまい。だが選挙戦に突入直後にNHKが実施した世論調査による国民の関心は、

第1に「景気・物価高対策」で34%、
第2に「社会保障制度の見直し」17%、
第3に「政治とカネの問題」が13%

という順となっている。やはり自分たちの生活にかかわる問題が最も切実な問題なのであり、経済政策や社会保障政策の在り方をどうしていくのか、国民は関心を持って政治に期待しているとみていい。特に「可処分所得の増大」を訴えている野党があるが、税や社会保険料の削減をするわけで「小さい政府」という新自由主義に直結していることから目を離してはならない。

アベノミクスの総括こそ問われるべきであり、与野党で論争を

私は、今回の選挙で問われるべき問題として、民主党政権から交代して発足した第二次安倍政権時代の経済財政政策、すなわち俗に言われている「アベノミクス」をどう評価すべきなのかが厳しく総括される必要があると思っている。アベノミクスとは、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略というものだった。結果は、②財政政策や③成長戦略はそれほど効果を上げたとは言えず、マイナスの物価上昇からは何とか抜け出しデフレとは言えない状況が進むにつれ、ほとんど触れられることなく今日に至っている。だが①金融政策については、2013年に日銀と安倍政権との間で交わされたアコード「2%への物価の引き上げ」目標だけは、既に政府統計によって2年以上も2%を超す物価上昇し続けているにもかかわらず、今日に至るまで解消されることなく継続され続けている。

山本謙三著『異次元緩和の罪と罰』は黒田日銀の誤りを見事に指摘

その金融政策について、実にわかりやすく問題を指摘した著作が9月に発刊された。題して『異次元の金融緩和の罪と罰』(講談社現代新書)、著者は山本謙三元日銀理事である。日銀で仕事をされていただけに、2013年から始まった黒田日銀総裁を中心に進めてきた異次元の金融緩和がいかに酷いものであり、2年で2%の物価上昇を必ず達成するという目標が実現できなかったにもかかわらず、2期10年間も総裁として居座り続け、その間に取り続けてきた金融政策がいかに今日の日本経済を蝕んでいるかを淡々と叙述されている。黒田総裁の後を受け、2023年に就任した植田新総裁の下で徐々に「正常化の道」が進められているが、平坦な道ではないことを指摘されている。2%の物価が2年以上に亘って継続し、国民生活に大きな影響を与えている問題なのであり、総選挙での争点として取り上げるべきだと思ったのだが、今のところあまり争点化はされていない。

消費税の減税、立憲民主党「給付付き税額控除」について思う事

もう一つ気になっているのは消費税の問題である。2012年の民主党政権時代に自民党・公明党の三党合意により「社会保障・税一体改革」が進められ、自公政権時代に2回にわたって5%から10%への引き上げが進められ今日に至っている。消費税は所得税と違ってすべての国民が消費すれば税負担をするわけで、1%の税率で約2.5兆円の税収増となる。5%の増税で約12兆円強の増収となり、社会保障財源として国民のセーフティネットの強化に充当されていることは言うまでもない。それだけに、国民に約束してきた社会保障財源に充当しているわけで、安直な景気対策としての引き下げには反対せざるを得ない。

マイナンバーで金融所得の正確な捕捉が前提なのだが、プライバシーの壁を破れるのか

今回、多くの野党側は消費税率の引き下げを時限的か恒久的かは別にして、経済対策として提起している。立憲民主党だけは消費税が持つ逆進性対策として「給付付き税額控除」を提起している。この制度は、民主党時代に税制調査会で提起してきたもので、そのまま立憲民主党でも継続されているようだ。もとをただすと、ヨーロッパなどで低所得層に対する戻し税制度が実施されているが、所得捕捉がきちんとできていない日本では実現までには至っていない。2016年に導入されたマイナンバー制度を金融所得などに紐づけできれば可能となるわけだが、完全な紐づけは未だ道半ばでしかない。

今の与党側には、個人の所得を完全に捕捉しようという意欲はなさそうで、何時まで経っても「給付付き税額控除」は絵に描いた餅でしかない。おそらく、立憲民主党が政権を担ったとしても、他の政党の協力を得て実現することは今のままではなかなか難しいとみている。何よりも国民の所得や資産の状態をマイナンバーで掴んでいくという仕事は、政治への信頼が弱い日本では無理なのだろうか。

消費税の社会保障財源化で再分配機能強化こそ格差是正の王道だ

そこで、逆進性対策を含む所得再分配についての考え方を変えていくことを提唱したい。それは、消費税の引き上げに際して「軽減税率」といった姑息な手段ではなく、すべて税収を年金・医療・介護・子育てなど全世代に亘る社会保障制度の充実に充て、既存の生活保護制度などで低所得層に対する給付を充実させていくことで対応していくべきではないかと考える。つまり、社会保障や税についての所得再分配制度について、次の3つの機能があることをこれまでも何度か指摘してきた。

①保険的再分配(困っていない人から困っている人へ)
②時間的再分配(必要ない時から必要な時へ)
③垂直的再分配(高所得層から低所得層へ)

このうち圧倒的多数の国民とって、保険的再分配と時間的再分配が大きな役割を果たし、垂直的再分配は低所得層である当事者にとっては大きな問題であることは確かだが、全体の再分配に占めるウエイトはそれ程大きくはない。格差是正効果について、ジニ係数が使われることが多いが、累進性を持つ所得税など「税による効果」よりも圧倒的に「社会保障による効果」が大きいわけで、社会保障制度のさらなる充実に向けて努力していくことこそが、進めていくべき本筋だと思うがどうであろうか。ゆめゆめ「可処分所得を増やす」と発言する政党の目指すところは、「小さい政府」で社会保障水準を低下させ、結果として格差拡大を齎すものだという事を忘れてはなるまい。


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