2024年11月25日
独言居士の戯言(第366号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
石破少数与党政権との部分連合に走る国民民主党、その行く末は?
先の総選挙で自民・公明両党が過半数を大きく割り込み、国民民主党をとりあえず引き込んで、辛うじて石破茂氏が第103代内閣総理大臣に指名された。最初の投票で決まらず、上位2名の決選投票に持ち込んでも過半数は確保できなかったわけで、石破政権は波乱の中での再スタートとなったわけだ。
こうした中で連立政権の与党の一員にはならなかったものの、国民民主党が少数与党政権の側に「政策連合」での参加という形でキャスティングボートを握り、「103万円の壁」打破を中心に、その実現を求めて連日マスコミを賑わせてきた。石破政権が総額40兆円に迫る経済対策を軸にした補正予算(13.9兆円)にも、国民民主党は賛成するという意向のようで、政策連合というよりは閣僚は出していないが与党陣営の一角にどっかりと座り始めているかのようだ。
「103万円の壁」の行方、その逆進性への警戒心は失せたのか
国民民主党の主張するいわゆる年収「103万円の壁」を75万円アップして178万円にまで引き上げることに対して、国税・地方税合わせて7~8兆円の財源が失われるわけで、与党として引き上げは認めるにしても、せいぜい1995年から今日まで30年間の消費者物価の伸び(約10%)程度にまで押しとどめたい意向のようだ。この引き上げは、課税最低限以下の低所得層には全く効果がないし、高額所得者層には大きな減税効果が出てくるという逆進性はあまり問題視されていない。ましてや、そのことによる財政支出面での影響は、他の税収増がない限り国民生活に多大な影響をもたらすことは必至だ。主張している控除額7割以上アップからどこまで引き下げられるのか、自民・公明両党と国民民主党との妥協点の行方に掛かっている。
「手取り収入」を増やす手段として再分配財源を失う愚挙に怒り
玉木国民民主党代表は、選挙での躍進(とはいっても議席数は30程度でしかない)によって少数与党政権持続のキャスティングボートを握った政局の下、メディアの脚光を浴びて少しく舞い上がっているかのようで、自らのスキャンダルも何のその、与党を手玉に取ったかのような言動が気になる。一見すると、自分たちの「手取り収入」を増やしてくれるかもしれないという淡い期待を国民に持たせたとしても、すぐにそれが「一時的な飴玉代」程度に過ぎなかったことを大部分の国民は痛感させられるに違いない。手取り収入を増やすとして、「減税や社会保険料の引き下げ」という、これまでの政治家たちがどれほど苦労しながら国民に訴えて確保してきた貴重な再分配財源を、いとも簡単に下げていこうとする「愚挙」は到底見過ごすわけにはいかない。
野田佳彦立憲民主党代表、政治家としての志の高いインタビュー記事に注目
こうしたポピュリズムが広がり始めてきた日本の政局の中で、野党第1党の地位を確保しながら次の参議院選挙や総選挙での政権交代を目指すべく、立憲民主党の野田佳彦代表のインタビュー記事が、「東洋経済オンライ」ンに掲載されている。かなり前から報じられていたインタビュー記事(11月8日実施)だったが、11月20日、21日の前後2回に分けての掲載で、インタビューアーは東洋経済解説部コラムニストの野村明彦氏と同じく福田恵介氏(後半のみ)である。記事の表題が「与野党合意を重視、不信任案は振り回さない」――立憲民主党・野田氏が語る脱ポピュリズム(前後)ーーとあり、一読して野田佳彦代表の政治家としての志の高さを感じさせるものとなっている(後出の資料参照)。
立憲民主党が脱ポピュリズム政党に転身と評価、インタビューアーは野村明彦コラムニスト
冒頭このインタビューを実施した問題意識として、コラムニスト野村明弘氏は次のように述べている。
「10月27日の衆院選で50議席増の148議席を獲得し、野党第1党としての地位を強固なものにした立憲民主党。もっとも注目されるのはその『脱ポピュリズム』の姿勢だ。かつて主張していた消費税の凍結や減税は一掃。現在は財源の裏付けを基とした経済対策や福祉・社会保障政策の拡大を訴えている」
明らかに、今までの野党としての安易な姿勢から脱却した立憲民主党を「脱ポピュリズム」化した政党として評価し、そのリーダーたる野田代表の決意を問いただしたものなのだ。
先ず補正予算について、与党の13兆円に対して立憲民主党としての対案を用意し、能登半島災害対策や、いわゆる「103万円の壁」以上に影響が出ている「130万円の壁」対策も含めて提起し、財源としても金融所得税の強化や日銀保有のETFを使っての売却益などを用意しているとのこと。この考え方は、来年度予算でも貫き、法人税の引き上げや租税特別措置の見直し、更には所得税の累進度を強めることにまで言及されている。給付だけでなく、負担増にまで言及しており、責任ある政治を求めている事は間違いなさそうだ。
大いに注目したい少数与党下の政治改革プラン、野田代表の決意
そうした予算改革だけでなく、一番注目したのが今後の政治の在り方の「根本的な改革」についての野田代表の考え方である。詳しくは、この二つの東洋経済オンライン論文を読んでいただきたいのだが、私なりに勝手に解釈した要約を述べると、おおよそ次のような方向を目指したいと考えておられるようだ。
・ねじれ国会の下では、衆議院で野党多数だからといって簡単に政権交代とはいかない。
・国会の在り方の大改革のチャンス、熟議国会に向けいたずらに不信任案を突き付けるのではなく、「令和の政治改革」として野党側と与党側の一致点を見いだせる努力を進めていきたい。最後は、石破総理と野田代表の党首会談で決めるべきだ。
・議員立法を含め与野党が国会での論戦を通じて決着させる国会本来の在り方へ。
・政治改革法案の改正や選択的夫婦別姓も次の臨時国会で審議し実現へ。
・政治改革の最大の焦点である「企業団体献金の廃止」に全力で取り組む。
・旧民主党政権時代の「脱官僚」の行き過ぎは間違いだったと反省へ。
・日銀の金融政策について、独立性は当然の前提の上で金利の正常化を目指し、0%以上の公約は、2%に固定していくべきではなく、ゼロ以上にしてデフレから脱却するという事。そのやり方は、日銀に任せていく。
・原発に依存しない社会を目指し、再生可能エネルギーをもっと大々的に普及させる。
その他、対アメリカや中国・韓国など北東アジアの国々との関係を進展させていく決意などを述べておられる。それ等の外交についても、石破総理との党首討論を通じて国会の開かれた場での論戦を強く求めておられる。
28日からの国会論戦、「れいわ時代の政治の在り方」が問われる
こうした議論をインタビューで展開されているわけで、是非とも28日から始まる国会での論戦の場で大いに論議して欲しいし、国民にとって「開かれた論争」こそが新しい「れいわの時代の政治の在り方」となるべく、野田代表にはリーダーシップの発揮を期待したい。
私自身、今から15年前の民主党が政権交代した直後に、共に藤井財務大臣の下で財務副大臣を経験した仲間であり、何とも冷静・沈着な政治家野田佳彦氏の姿を垣間見てきた一人である。鳩山政権から菅政権、そして野田政権と続いた民主党政権の失敗した経験を生かして、政権交代のある日本の民主主義を世界に誇れるものにしていけるよう努力して欲しいと願う次第である。
【資料】「与野党合意を重視、不信任案は振り回さない」立憲民主党・野田氏が語る脱ポピュリズム(前・後)「東洋経済オンライン」のURL
https://toyokeizai.net/articles/-/841143(前)
https://toyokeizai.net/articles/-/841341(後)