2015年7月27日
独言居士の戯言(第1号)
元参議院議員 峰崎 直樹
日銀のインフレターゲット2%、2016年度達成も困難では
前号で開始したこのコラム、最初はアベノミクスからということで、前号では中核を為す三本の矢の第一の矢である金融政策について触れた。まず2013年4月より黒田日銀総裁による超金融緩和政策が展開され、結果として円安と資産価格、とりわけ株価の上昇が進んだものの、2年間で2%の消費者物価引き上げというインフレターゲットについては残念ながら達成できず、目標を1年ずらして2016年度までに達成することに変更を余儀なくされたようだ。それでもその目標は、直近の数値5月の消費者物価の上昇率は総合で0,5%、生鮮食料品を除いたコアが0,1%と言う実績から見て、よほどのことがない限り来年4月までに安定的に2%上昇の達成は困難視されている。
追加の超金融緩和策は、弊害が多いと指摘され始めたようだ
果たして、こうした超金融緩和政策はどのように評価したら良いのだろうか。結果として2%のインフレを達成することができない中で、昨年10月には追加の金融緩和策の発動に追い込まれたのだが、どうもこうした金融緩和策では目標としたインフレを実現できそうにない。市場関係者の中には、さらなる追加の金融緩和策に追い込まれるのではないか、という声すら上がっているようだが、むしろこのような金融緩和策に対する弊害を指摘する声が強まり始めている。とりわけ、緩和策からの出口戦略の困難性などが挙げられている。
不良債権問題こそ、デフレの原因であり、結果でもあったはず
不良債権が片付いたのに、デフレ(?)下の低成長が続くのは何故
そもそも、こうした超金融緩和策を提起する背景にあったのは、日本経済がデフレになっており、そこからの脱却が無ければ日本経済の成長が望めないという事にあった。たしかに、バブルが崩壊して以降日本経済は企業のバランスシートを毀損させ、デフレの進展がその負債を一層重くしてしまうという悪循環に嵌っていた。日本以外の欧米の先進国は1980年代末から経済が安定した成長を示し、景気循環が消滅したのではないか、とさえ言われるほどの安定した経済成長をもたらしていた。それだけに、日本のデフレがひときわ問題として浮かび上がり、欧米の学者・エコノミストからは様々なデフレ脱却の提言がなされていた。日本銀行もゼロ金利政策を取り続け、デフレからの脱却に向けて必死の努力をしてきたのだが、バブルの後遺症である不良債権問題の解消が無ければデフレからの脱却や経済の上向きの成長は困難であるという共通した理解のもと、その改善に向けて努力が傾けられ、2003年のりそな銀行への資本注入(もちろん税金である)を境にして不良債権問題は何とか片がつけられた。
かくして、日本経済は実質1%前後とはいえ、ようやく経済が成長をし始め、株価も上昇し税収も僅かではあるものの拡大し始めてきたのだが、デフレからの脱却は出来そうで出来ないまま、リーマンショックを迎えたのである。そこからの回復後の経済も、実質成長率は1%を切るような低成長でしかなく、物価も一進一退を繰り広げ、デフレからの脱却もなかなか進展しないままであった。かくして、民主党政権から再び安倍政権へと政権交代に伴い、円安と株価の上昇を伴いつつマイナスの消費者物価からは脱却したものの、依然として消費者物価上昇率は1%を大きく割り込む等ふらついている状況にあることは先に指摘したとおりである。
人口の減少と言う構造問題が、日本経済の成長の新たなネックに
このように見てきて、問題は金融緩和策の強化によって日本経済は安定した成長の下で緩やかなインフレ基調の経済が実現できるのだろうか、と言う根本的な疑問が湧いてくる。どうして、日本経済は不良債権問題が片付いたのに安定した経済成長とともに本格的なデフレからの脱却が実現できないのだろうか。
どうやら日本経済を見た時、成長を抑制している原因がかつての不良債権問題から、人口の減少という構造的問題が大きく覆いかぶさっていることに眼を注ぐべきだ、という見解に注目すべきではなかろうか。そうなると、これまでは成長率を見る時に、日本経済全体の数値で見てきたのだが、人口減少下の経済を見るには一人当たりの成長率でも見ておく必要がある。実はその一人当たりの成長率こそ、国民生活の向上を考える時の必要な基礎的な情報である。
さて、日本の実質の一人当たり成長率はどのように推移してきたのか。
1980年代 実質GDP伸び率4,7% > 一人当たり実質GDP伸び率3,8%
1990年代 実質GDP伸び率1,0% = 一人当たり実質GDP伸び率1,0%
2000年代 実質GDP伸び率0,7% < 一人当たり実質GDP伸び率1,3%
2010~12年 実質GDP伸び率0,7% < 一人当たり実質GDP伸び率1,7%
御覧の通り、最近3年間平均の一人当たりの伸び率は1,7%と全体平均の伸び率を1%以上も上回っているのだ。それは、1%分だけ人口の減少率となって全体の足を引っ張っているわけなのだ。この減少率は今後も続いていくわけで、景気の上向いているときはさておき、悪くなればすぐにマイナス成長となって日本経済は落ち込んでしまう。
人口減少が進展する日本経済、どう解決をしていけば良いのか
かくして、問題は人口が減少する中でどのように全体としての経済の成長を高めていけるのか、という事にかかっているわけで、金融の超緩和策を強化しても、人口の減少に伴う成長率の低下は防ぐことは出来ないのだ。人口の減少はこれからも続いていくわけで、出生率の向上があったとしても、それが人口の増加となってくるには数10年と言う単位の時間がかかるのだ。女性や高齢者の雇用をどう高めていけるのか、さらに、生産性の向上に直結するイノベーションをどのように発掘していけるのか、あるいは、もはや量的成長等は望まないで生活の質を改善して行けば良いではないか、など等と言う声も出始めており、直面している問題は大変な難問ばかりである。
(続く)