2015年9月28日
独言居士の戯言(第7号)
元参議院議員 峰崎 直樹
あの採決は何なんだ、数の力の暴挙を変えるのは選挙なのだ
長かった通常国会も、ようやく終わった。国民的支持が広がらなかった憲法違反の安全保障法案を、数の力を頼りに無理矢理通そうとした安倍内閣の姿が、最終盤なんとも弱々しく見えたのは小生だけだっただろうか。与党が強行採決をした特別委員会の議決状況は、NHKテレビですべて放映されていたわけで、これを見た人にとって、きちんと採決されて委員会を通過したとはとても言える代物ではない。おそらく、国会を取り巻いた多くのデモ参加市民にとっても、こんな日本の政治を許してはならない、と言う怒りの声が充満したに違いない。だがしかし、このテレビ映像を直接見た人は国民の過半数にははるかに及んでいないし、ましてや国会周辺のデモに直接参加した人数は極めて少ないのだ。
考えなければならないのは、やはり国会と言うところは、所詮は多数が支配するところなのであり、衆参の議席で上回る自民・公明両党の数は過半数を遥かに大きくオーバーしているのだ。特に衆議院に於いては、たとえ参議院で可決できなくても、3分の2以上の議決で再議決できるだけの数を擁しており、その現実を変えることは出来なかったのである。という事は、来年7月の参議院選挙、さらに3年以内にある衆議院選挙で、与野党逆転できる政治勢力を作り上げ、政権交代する以外に安全保障法を廃案にすることは出来ないのだ。民主党政権時代に党の分裂まで引き起こしたガバナンスに対する厳しい批判はもちろん国民の脳裏にしっかりと残っているし、国会内の野党勢力が離合集散を繰り返してきたことや、理念なき合従連衡が進められてきたことへの国民の中からの批判が強まっているわけで、これからの野党の力をどのように強化していけるのか、民主党に対する不信感の払拭も含めて、大いに知恵と汗をかいて欲しいものだ。
一票の格差の是正、国民の代表を選出する前提条件の整備を
それと同時に、衆参の議員選出の選挙制度における、一票の格差をなくして行かなければなるまい。衆議院選挙での2倍を超える格差が出ていることに対して、一刻も早い是正を講じる必要があるし、参議院もその点では2倍以内を貫かねばなるまい。どんなに大変であっても、国民の代表を選出するのに1票の格差が平等でなければならないことは言うまでもない。政党にとっては、党利党略に走りたい誘惑はわからないわけではないが、ここは日本の議会制民主主義の土台をつくり直していくために、最善の努力をして欲しい。
国民の支持を回復させる便法としての経済・社会保障政策
さて、安倍総理は無競争で自民党総裁に選出された。このままいけば、もう3年総裁任期が継続され、その間も総理大臣に選出され続ければ7年を超す任期となり、最近では小泉政権を上回る長期政権となる。9月25日、再任された安倍総裁は記者会見を開き、次の課題に向けての抱負を語っている。そこで打ち出したのは,「新3本の矢」なるもので、その中身は「強い経済・子育て支援・社会保障」などをキーワードとし、今後の政治の焦点を経済・社会保障の問題に移し、誰もが家庭や職場、地域で輝ける≪1億総活躍社会≫を目指すとしている。安全保障問題で国民の支持を失い始めてきただけに、支持率を回復させようとする政治的意図が見え見えである。
このやり方は、ちょうど1960年安保の戦いによって、国民の自民党政治に対する不信感が強まる中、岸信介総理が退陣し、後を継いだ池田勇人新総理が「寛容と忍耐」の理念のもと、「所得倍増計画」を打ち出し、国民の自民党政治に対する不満を解消して総選挙で勝利をした歴史的な経験の踏襲(猿真似)と見ていいだろう。
アベノミクスはどんな成果を上げたのか、しっかりと総括を
中身を見てみると、これからアベノミクスの第2ステージに突入していくと言っているのだが、果たして、3年前に始めたアベノミクスは国民生活にどのような影響を与えてきたのか、きちんとした総括抜きに第2ステージと言われても、国民は納得することは出来ないだろう。デフレからの脱却についても、2%のインフレ目標達成にはほど遠く、最新(8月)の消費者物価指数は1年前に比べてマイナスを記録するなど、日銀の超金融緩和政策によって国民の期待をインフレマインドに変えることに成功していないのだ。
場合によっては、10月の金融政策決定会合で更なる金融緩和政策を導入するのではないか、と噂されているのだが、円安による輸出大企業の利益の更なる増大と株価の引き上げだけが進むだけであり、大部分の国民生活は食料品を始めとする輸入物価の上昇に賃上げが追いつかず、生活水準の落ち込みが進むことは必至だ。
肝腎の経済成長であるが、アベノミクスの第三番目の矢として日本再興戦略を始めとして様々な規制緩和策や補助金・税制優遇措置を取ったにもかかわらず、経済は順調に伸びるどころか、最新の4~6月期GDP速報値は前期比マイナスになっており、7~9月期もマイナスになる公算が大きいと言われている。2四半期連続してマイナスになるという事は不況期に突入する事であり、明らかに日本経済は停滞局面に入りつつあると見ていいだろう。お隣の中国経済の停滞が新興国の経済停滞を招き、それが先進国にも影響し始めていると見ていい。この停滞局面は、しばらく続くものと見られており、世界経済は、10年に一度の割合でバブルの崩壊・経済の停滞を繰り返しているようだ。1997年のアジア経済危機、2008年のリーマンショック、そして今回の中国バブルの崩壊と停滞である。世界経済の動向から目が離せなくなっているようだ。
人口減少する先進国の潜在成長率は低下、3%なんてとんでもない
人口が減少し始め、必要な生活物資が一巡してしまった先進国の成長率は、低下し始めるわけで、日本経済の潜在的成長率は1%を切るところまで落ち込んでいるとされる。安倍総理が第2ステージとして国民総生産額490兆円(2014年度)から600兆円(2020年度)に引き上げるには、3%の成長率が前提になっている。バブル崩壊して以降今日まで、日本経済が3%の経済成長を実現したことはなく、平均すれば1%を切る水準で推移している。最近では、1%以下の成長が常態化しているのだ。どうやって3%の実質成長率を達成するのか、具体的な政策を提示すべきだろう。それが前提になった財政再建策も、まさに絵に描いた餅以外の何物でもないのだ。
50年後も1億人にするには、30年後までに出生率2.07が必要
さらに、人口減少社会において50年後も人口1億人を維持していくために、合計特殊出生率を30年後までに2.07に引き上げざるを得ないのだが、専門家はその実現を絶望視している。何よりも、子育て支援や社会保障の充実のための財源の確保が必要なのだが、その財政的な手当は十分になされていないのだ。国民に夢のようなことを振りまき、安全保障政策で失った支持率を回復させることだけが先行しているのが、今回のアベノミクス第2弾の本当の狙いなのではないだろうか。われわれは、自民党安倍政権の狙いを鋭く見抜き、次の参議院選挙や総選挙において、きちんとした回答を求めなければなるまい。
(続く)