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労福協 活動レポート

2016年1月12日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第16号)

元参議院議員 峰崎 直樹

朝日新聞コラム「東洋経済の目」欄の注目すべき指摘

いつ頃からだろうか、朝日新聞の金融・経済面のコラムに週刊東洋経済の編集部による「東洋経済の目」が時々掲載され、なかなかいい問題点を提供してくれている。1月9日付のコラムは「ゾンビ企業温存の悪弊」という表題で、「厚生年金に加入する資格があるのに、推計で約200万人が国民年金に加入している—–。」と厚生労働省が昨年末発表したことを早速取り上げている。と同時に、縦書きの中見出しで「厚生年金加入逃れは退場に」と一回り大きな活字で企業側に厳しく迫ったものとなっており、6000字足らずの短いコラムだがなかなか読ませる内容になっている。自分のとっている新聞(朝日、日経、道新)の記事にはこの事実は指摘されておらず、このコラム欄で初めて見た数値である。

一刻も早い厚生年金加入への是正を

この記事の中で、厚生年金加入逃れの可能性がありと推定されている事業所数は約75万と言われてきたことを指摘している。その推計は、確か国税庁統計による源泉徴収している事業所と日本年金機構が厚生年金に加入している事業所の差が約75万とされていて、国会の場などでも厚生年金に加入していない事業所に対して国税庁からの資料を日本年金機構と突合して年金徴収漏れを解消すべきだ、と追及されていたものである。ようやく、その一端が明らかになったわけで、日本年金機構は早急に厚生年金加入に向けて全力を挙げていく必要がある。これからマイナンバーが適用されるわけで、そのデータも有効に使っていくべきだろう。もっとも、年金については昨年の日本年金機構の約125万件にも及ぶ大量の情報漏洩事件が露呈し、当面マイナンバーの適用から年金制度が外れているわけで、早く是正してその適用を進めて行くべきだろう。

年金安定にとって、国民年金から厚生年金への移行は最重要課題

何故この点を強調するのか、と言えば、2010年の国勢調査の結果を受け、5年に1度の公的年金に関する財政検証が実施され、年金の将来について持続可能性と年金水準の目安にしている所得代替率(※)50%を維持していけるかどうかのシミュレーションをした結果、一番重要なことは国民年金に入っている被用者をいかに厚生年金に移行させることができるのか、という点にあることが明らかになったのだ。本来厚生年金に入らなければならない約200万にも及ぶ大量の被用者が国民年金に存在していることの解消は、年金制度の安定にとって必要不可欠なモノであり、日本年金機構としては、文字通り全力で加入促進に向けて尽力すべき課題である。他方でパートタイマーの厚生年金加入への道がようやく始まろうとしているのだが、それでもその規模は20万人程度でしかなく、国民年金に加入している1号被保険者全体(1805万人)に占める被用者の割合は35%で約650万人である。さらに、130万円の壁によって国民年金に加入していないパート労働者はここには含まれていない。つまり3号被保険者(945万人)と言われる、いわゆる専業主婦(夫)問題であり、税制の配偶者控除の問題とあいまって、これからの少子高齢社会を乗り切っていくためにどうしても必要な就業人口の増加を阻んでいる制度改革が強く求められている。その第一歩として、約200万人にも及ぶ国民年金から厚生年金への移管が急がれることは言うまでもないだろう。

経済界は、合成の誤謬による事態悪化をどう受け止めているのか

このコラムの最後に次のような指摘がされているのだが、経済界はどのように受け止めているだろうか。

「日本の年金制度では、非正規雇用だと企業は社会保険料を負担せずに済んできました。これなら企業が不正規雇用を拡大するのは当然。それが『底辺への競争』に結び付かなかったか。非正規雇用への厚生年金適用拡大案に反対してきた経済界は、個別最適の維持が、全体最適の実現を阻害してきた可能性を考える必要があるでしょう。」

ここで言う「底辺への競争」とは、不正にコスト(保険料)を削減した企業がまともな企業を打ち負かす「底辺への競争」を招くという文脈で使われている。 さらに、社会保障制度の先進国である北欧各国では、社員の保険料すら払えない企業は市場から即刻退場すべきだという考え方が普通だ、とも指摘していることを付加しておこう。まことに重要な指摘が、わずか6,000字足らずではあるが見事に指摘されている。

(※)所得代替率
現役労働者の平均所得に対する65歳時点での厚生老齢年金(含む老齢基礎年金)の比率のことで、2004年年金制度改革の際50%の水準を100年後においても確保できるかどうかを人口の伸び等や経済データから検証し、その確保が実現できるためにはどんな課題があるのか検証し、さらに50%が実現出来ない場合はどうすべきなのかが最終的には政治の場で問われることになる。

(続く)


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